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赤ずきんと眠り姫・2

「さて、どこから話せばいいかな」




 ──女の子にとって、六年間、毎月のように通い続けた森は、もう庭みたいなものです。

 実は、精霊の池のほとりには、古いけれどしっかりした小屋があり、女の子は精霊たちと一緒になって、過ごしやすいようにあれこれと整備をしていたのでした。

 ひとまずそこで寝泊まりをして、これからのことを考えよう。そう思って、女の子は池へと向かいました。森の中、食べられる木の実やキノコのある場所は、この六年で知り尽くしていましたから、食事の心配もありません。


 けれどその日、小屋の中には珍しく先客がいました。




「えっ? 誰、誰?」




 ──見れば、小屋のドアは半開きになっていて、そこから漂う血の臭い……




「や、やだやだ、怖いぃっ……!」

「いや、ごめん。別に死人とかではなくてね」

「あなた、赤ずきんちゃんを(おど)かさないでちょうだい」




 ──女の子が意を決して覗き込むと、そこには一人の青年がいました。

 それも、彼女の知った顔です。


『あれ? 東の街の冒険者のお兄さん。顔色が良くないけど、怪我? 深いの?』

『ああ、眠り姫さんか。ちょっと、冬眠明けの熊に襲われてな。倒しはしたけど目測を誤って、爪がかすめちまったんだ』

『え、大変じゃない! 見せて!』


 女の子は慣れた様子で青年の傷を見ます。

 この森は、『精霊の愛娘』である彼女は平気でも、他の人間が無防備に入るのは少しばかり危険すぎるので、薬草や何かを採るのでも、冒険者へ依頼されることがほとんどなのでした。

 そういうわけで、女の子は近辺の冒険者の間では、密かに有名人だったりします。彼女といれば獣や肉食植物に襲われることもなく、空腹なら食事も分けてくれて、もしも怪我をしていれば無料で治してくれるのですから。

 彼らの間では、女の子は『幸運の少女』と呼ばれていました。


 そしてこの時も、彼女は青年の大きな怪我を、魔法で跡形もなく治してあげました。




「わあ、凄いなあ……さすがは『眠り姫』さんだね。でも、ちょっとお人好しすぎる気もするけど」

「まあ、この冒険者さんと女の子は、知り合って三年くらいは経っていたそうだから。顔馴染みなんだよ」

「そうなんだ。……やっぱり、このお兄さんってかっこいいのかな? 女の子のこと好きだったりする?」

「そうだね。だからってわけでもないだろうが、彼女の様子がおかしいことにはすぐ気づいて……」




 ──治療をしてもらいながら、青年は首を傾げます。


『眠り姫さんが、月頭(この時期)に森にいるのは珍しいな。てか初めてじゃないか? いつも会う時は大体、月半ばだろ?』

『うん、まあ……色々とあって、家を出てきたの』


 なかなかに衝撃の告白ですが、青年も冒険者である以上、人には多かれ少なかれ事情があるということはよく知っています。


『そうか。……で、これからどうするかは決まってるのか?』

『うん……とりあえずこの森の中で、冒険者さんや薬草採りの皆さんのために、避難所とか宿屋みたいなものを作りたいかな。この小屋だと少し遠すぎるから、もうちょっと東の街寄りの場所にでも。冒険者さんとかはそっちの方が多いし』


 流石は商人の娘と言うべきか、それなりに色々と考えている女の子でした。


『なるほどな。でも、『眠り姫』のままだと、そういう場所を運営するのは難しいだろ? 起きてられる時間が短いんだよな、確か』

『……それは、そうなんだけど。私はまだ、『運命の伴侶』を見つけていないから……精霊たちもある程度は手伝ってくれるって言うから、ひとまず甘えちゃおうと思って』

『『運命の伴侶』ねえ……ちなみに、その心当たりは?』

『え、ええと……』


 目の前にいます、とは流石に言えず、女の子は挙動不審になりました。




「それは、そうなるよねえ。お兄さんって鈍いの?」

「いや、単に彼女の方から言ってほしかったんじゃないかな。好意は薄々感じ取ってただろうしね」

「えー、何かずるいー。男らしくなーい」

「…………ま、まあ、それはともかく」




 ──青年はまだ血の気が戻っていないため、あえて深追いはせず、ただ今晩は小屋に泊めてもらえるか女の子に確認します。

 女の子も彼が心配なので、素直に許可を出しました。


 大事を取って余分に休ませてもらった青年は、二日後の朝、女の子と一緒に小屋を離れました。彼女の計画に協力することにしたからです。

 とりあえず、色々な準備のために向こうの街まで、比較的広い道を行きながら、その近辺の適当なスペースを物色していきますが、なかなか都合のいい場所はありません。

 結局その日は、時間をかけた割にはあまり成果はなく、夜には二人、精霊たちの特製テントで野宿をしながら、これからに向けての話し合いをしました。




「……ん? 『眠り姫』の女の子は、夜なのに眠ってないの? いつもなら夕方にはぐっすり寝ちゃうっておばあちゃんは言ってたのに」

「お、よく気づいたね。ちなみに、二人は朝から動いているから、寝溜めはしていないよ」

「えー……?……あ。つまり、お兄さんが女の子の恋人になって、精霊たちに『はんりょ』だって認められたってこと? だからちゃんと起きてられるようになったんだね!」

「正解。鋭いね、赤ずきんちゃん」

「えへへ」




 ──結局二人は、東の街と小屋とのちょうど真ん中あたりを、少しばかり切り開くことにしました。力仕事は青年が受け持ってくれて、精霊たちもたくさん手伝ってくれることになりました。


 森の中、宿屋が開店したのがそれから半年後。

 女の子と青年の若夫婦による、行き届いた対応と美味しい料理、そして絶対にモンスターたちに襲われない安全な場所として大評判となりました。女の子が採って販売している、品揃え豊富でお手頃価格の薬草も、その理由(セールスポイント)の一つです。

 安全の理由は、精霊たちの力も勿論あったけれど、青年が周辺に出る獣や魔物を適度に狩っているからでした。


 そうしてその宿屋はとても繁盛し、二人が引退した後も子供たちが代々引き継いでいき、客足は長い時間が経った今でも、決して途切れはしないということです。


 おしまい。




「……え、待って待って。ハッピーエンドはいいんだけど、何か忘れてる気がするよ?」

「そうかい?」

「うん。……あ、そうだ! 女の子の元のおうちの人たちは!? 女の子がいなくなってからどうなったの?」

「ああ、そこか。そうだね……じゃあ、夕ごはんと片付けが終わってからにしようか。おばあちゃんと二人で話してあげよう。でも、早食いは駄目だよ」

「はーい」

「二人とも、ご飯ができたわよー」


 タイミング良くおばあちゃんからの声がかかり、赤ずきんとおじいちゃんは、いそいそと食卓へ向かうのでした。


赤ずきんちゃんのリクエストにより、三話目追加となります。

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