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二度目の人生は静かに生きたい  作者: 黒煙
転生編
1/1

生命の重さ

 私は大和田美緒、薄給で貯金もなし、魅力は無く彼氏もなし、趣味が無く日常生活だって充実していないそんな冴えないOLだ。人との交流も得意ではないから、女子に人気の事務職に就けたはよかったものの、そんな空しい日々に変わりはなく今日も一人寂しい帰路についていた。残業もなく定時で帰れた為空はまだ明るい。逆に辛い。むしろ残業して帰ったら寝るだけの方が楽かもしれない。何も考えなくて済むから。なんて考えながら赤信号の横断歩道で足を止める。隣には幼稚園児と電話中の母親の親子が立つ。家族を持つなんてこの先あるのだろうか。コミュニケーションが苦手な私が、醜い私が、恋人なんて出来る日が来るのだろうか。その恋人と家族になりたいと思い思われ結婚なんてする日が来るのだろうか。イメージ出来ない。あ、やばい泣きそう。生き遅れたなんて実感する前に死にたいな。いやこんなこと考えながら幼稚園児を眺めるなんてあまりにも不謹慎というか、不吉というか。私は再度信号を確認した。なんとなくタイミング的に青かな、なんて勝手に思い込んで一歩踏み出してしまったが、二歩目に進む前に赤信号を確認して足を止めた。流石に自殺する気はない。


そう、思っていたのに。


 私が一歩足を踏み出したことによって、隣に立っていた母親が釣られて歩き出していた。しかも、あろうことか子供の手を引いたまま。あれ、これ私のせいか?でもまぁ、前を見たら普通に車が横行しているのだから気付くだろう。そう思っていたのに、赤信号で渡り始めた母親に困惑し足を止めた子供に目を向けて母親は前を見ていない。なのに足も止めていない。そして、大きなトラックも迫っていた。


私は一瞬の間に考えた。


 この生産性の無い私が犯した過ちによってこの親子は大怪我をしてしまうかもしれない。しかも、もし私が直ぐに止めていたら私だって傷つかずに止められたかもしれないのに、私のせいで、全て私のせいでこの親子は怪我をし、もしかしたら死んでしまうかもしれない。母親だけ死んでしまったらこの子は母親の死を目にしてしまう。大きなトラウマになるだろう。子だけ死んでしまったら、この母親はどうしようもなく自分を責めるだろう。二人とも死んでしまったら、こんな可愛い盛りの子と奥さんを死なせてしまった旦那さんは、ご家族は……。


命の重さは存在する。少なくともこの二人と私なら、私の命の方が軽いはずだ。


ここまで考えたのに不思議と恐怖は無かった。走ったら五歩程度で二人の肩に手が届いた。母親は後ろを向いていたので駆け寄ってきた私に驚いているが、私はそんなことは無視して二人の肩を、上手く掴めず服を握り思い切り引き戻した。力が強すぎて子供は軽く吹き飛んだが、目を見開いているサラリーマンが受け止めてくれた。母親の方もたたらを踏んで歩道まで戻っていった。よし。

ブレーキ音が響く。急に恐怖が湧いてきた。今はスローじゃなくていいのに。私がトラックの方を見ると、運転手さんは目を見開いていた。あ、こっちのこと考えてなかった。でも私も怖い。


私は思い切り目を閉じて衝撃に備えた。大きな音と、悲鳴と、血の匂いが私の最後の記憶となった。


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