一話
「位階は絶対である」と誰かが言った。それを言ったのは誰であるかは、定かではない。
神かはたまた悪魔かそれはこの私では知り得ないことである。なぜならばこの世界は長くに渡り繁栄を続けているが、未だに位階というものが「世界」に出現したのが、いつの時代に、なぜ、何のために、出現したのか誰も解き明かしていないためである。
私は長く位階に関しての研究を続けているが、位階に関して分かったこといえば、位階は絶対であると言うこと、位階が上がるにつれて肉体のスペックが上がるという事のみである。そんなことはそこらにいる童でも理解していることだ。長く研究してもそんなことしか解明できていないのか、と皆は私を馬鹿にするだろう。が、20年近くを研究に費やしたとしても、この程度しか解明していないのだ、位階というものはどうしたら上がるのか、位階が上がるにつれて精神に何か障害がきたすのか、位階が上がるものと、生涯位階が上がらない者にはどの様な違いがあるのか、全て解明できていない。
そもそも位階というものを解明する上で、「能力」という物の存在を忘れてはならない。能力というのもに皆は聞き覚えはないだろう。それも当然だ能力というものは、秘匿されて然るべきものである能力は位階が上がったものが稀に手にする非科学的な現象を起こせる様になるそんな魔法の様な力だ。もし私が能力というものを説明する上で適しているものは何だ、と問われたら私は間違いなく「奇跡」と答えるだろう。まさに奇跡なのだ、人が無から有を生み出す。姿形が変わる。これを奇跡と呼ばずとして何という。私は能力というものを「octo」という小さい研究機関で目にした時、私より位階に対して理解が深い奴らに対しての嫉妬など意中になかったのだ。ただ驚愕したのだ。私が長い期間をかけて研究しても尻尾どころか毛先をひとつまみさえ、許してくれなかった位階というテーマにはこれほどまでの可能性が秘められていたのか、と
私はoctoで目にしたものを位階の可能性を自分でも再現できるのであろうかと夢現の状態で自分の研究室に戻った。それからというもの私は位階の可能性というものに魅せられてしまったのだろう。非人道的なことをするわけにはいけないのでまずは自分の体で試した。世界各地に残されている手記や伝承を読み漁り少しでも可能性があるのであれば山にも籠もり、怪しい宗教にすら入った。そんな藁にもすがる思いでありとあらゆることを試したが齢80になっても私の位階は上がることはなかった。もちろん深く絶望したが、ここまでしたのに私は位階が上がらなかったのだ。それまでの男だったのだろうという諦観を感じ、妙な達成感すら覚えた。私は天才であるという自負もあったが、きっと私には位階に関しての才能はなかったんだろうと、まあ端的にいえば私は諦めたのだ、病でもう長くないのも自覚しているのもあるが、もし悪魔か何かに魂を売ってでも研究を続けるかと聞かれたら私は否定はできないが、少なくともまた同じことを繰り返していく気力は私にはもうないだろう。
私のこの遺書とも手記ともいえない稚拙な文章を読んでいるどこの誰ともいえない者よ君の時代では位階に関しての研究は進んでいるのだろうか、位階の上がる条件は発見されたのだろうか、能力は普遍的なものになっているだろうか私の心残りはただ自分で位階、能力に関しての謎を解き明かしたいただそれだけだ。まあ今死なんとしているということを考えたら、せんなきことだ。
長くなってしまったが、これを読んでいるどこかの誰かの世界が能力に対して寛容であることを、佐野 景明は祈っている
国歴4031年 4月4日 佐野景明
「くだらんな」
私はそう機密と書かれている書類を火にくべそう吐き捨てた
もちろん佐野博士を侮辱しているわけではないが、ただ佐野博士がその研究をするには時代が悪かっただけだ。佐野博士は国歴4031年に没したが、それからおよそ50年後の国歴4084年には世界の衝突が起き位階に関する研究は大幅に進んだ。もちろん位階の上がる条件は未だ分かってはいないが手がかり程度なら80年も前には見つかっている。
「まあまあ霞ちゃんそういきり立たないの、シワが増えるわよ」
「しぃ〜わぁ!?私はそんなものとは無縁だ!」
今私に言ってはいけないことをほざきやがったのは、一応は私の親友でもある朝日 蘭だこいつはいつもニヤニヤしながら私をおちょくってくる、私の方が年上なのにだ!
「あら、ごめんなさいね何やら眉間にシワを寄せながら書類を読んでいるものだから、しわを増やしたくてそうしているものだとばっかり」
「余計なお世話だ!ふざけていられる状況でないのはお前もわかるだろう!?」
こんな状況でもおちょくってくる蘭が鬱陶しくてしょうがないそもそも今は作戦中で一時間後には突入するという事をこいつは分かっているのか?
「あら、もちろん分かっているわよ」
「心を読むな!」
こいつは本当に...どうしようもないな、いつもこうだ私をおちょくる
「蘭!お前は私をおちょくらなければいけない病にでもかかっているのか?」
「もう...ちょっと緊張を解いてあげようと思っただけよ」
まあ理解できなくもないが...
「私が別に緊張してようがしてまいが御構い無しに、おちょくってくるじゃないか!い、つ、も!」
「まあそれは霞ちゃんが可愛いからよ、なぜだか小型犬を見ているみたいで和むのよね...」
あーもう切れたぞ堪忍袋の尾が切れた、蘭こいつだけは許さん泣くまで徹底的にボコボコにしてやる
と私が決意を決めていると、テントの入り口の方から申し訳なさそうに、隊員が入ってきた
「その...支部長、友好を深めている中申し訳ないんですが、少し声落としていただけると...その、いくらこのキャンプ地が隠蔽機械式術式によって周りと同化しているとはいえ、完璧に遮音しているというわけではないので目標に感づかれてしまうかもしれないので...」
隊員の言う事はもっともで悪いのは私なのだが蘭がニヤニヤしながらこちらを見てきているのが腹が立つ...
「...すまん気をつける」
そう隊員に告げると隊員は申し訳なさそうな顔を崩さず「失礼しました」と残しテントの中から出て言った
私は蘭に対しイラつきながら視線を向けると肩をすくめ自分のデバイスをを懐からだし弄り始めた。蘭に対するイラつきを抑えるためにもコーヒーを入れ少し落ち着いていると、作戦決行時間が近づいてきたので隊員たちに召集をかけ、広場に向かった。
「蘭、お前も準備をしろ始まるぞ」
「わかりましたよ、支部長様」
さすがの蘭も作戦が近づいてきたからか幾分か真剣な顔つきをしていた
5分とかからずに、広場には霞や蘭はもちろん今回の作戦に参加する隊員総勢12人、非戦闘支援部隊員5人が集合していた霞は高台に乗り先ほど隊員にされた注意を省みてか、静かだがよく通る音量で隊員たちに向け言葉を発した。
「隊員諸君遺書は書いたか?もし書いていない輩がいるのならば、挙手しろ書く時間ぐらいくれてやる。だが作戦概要を聞いた瞬間にこの作戦の危険度を理解していないものが私の部下にいるとは思いたくない。この作戦はそれほどまでに危険である少なくともこの大和において半世紀はなかった未曾有の危機である!我らが大和に仇なす怨敵である悪魔しかも侯爵級悪魔に唆された佐野景明博士の討滅である。すでに被害は出ているのだ善良な大和の民が誘拐、殺害されている、許せるか?許せないよな?全身全霊を持ってこの作戦に挑め!このocto日本支部支部長である薄月 霞がついている限り貴様らは負けんこれは確定的事実である!諸君死力を尽くし大和に仇なす外道を今討滅するのだ!」
「作戦開始!」
霞はそれきりたい委員たちに背を向け佐野景明が潜んでいる研究所の方向へ迅雷が如く駆けた。もちろん隊員もその後に続いていくが誰一人として霞についていけるものは隊員にはいなかったが、この作戦において隊員たちの主な役割は佐野景明博士の研究成果の確保であり、戦闘要員ではない無論隊員が貧弱と言うわけではなく、ただ侯爵級悪魔に対して戦闘と言えるものができるものは「位階」が限りなく高いものに限られると言うだけである。その点霞は世界に54人しか確認されていない位階7である。隊員達は高くとも位階は4程度これは侯爵級悪魔と戦う上で足手まといにしかならないのだ。侯爵級悪魔に対抗しうるのは位階の最高点である8か、7に至ったものに限られる。これは絶対である。なぜならば、「位階は絶対である」と何処かの誰かが言ったのだから。