5・わが子を送り出す二人
むかしむかし、それはそれは発展した街がありました。
その町は知恵の実を食べ、さらに若返りの実を食べてしまったお爺さんとお婆さんが発展させた町でした。
「婆さんや、いろいろ浮かんでくるが今あるもので作れそうなものはあらかた作ってしまったのぉ」
「そうですねぇ、お爺さん。流石にでんきゅうやないナイネン機関は私たちにはつくれそうにありませんからね」
「醤油に味噌に清酒。唐箕に足踏み式脱穀機。蒸気機関を船に載せたいが、海は少々遠いからのぉ」
「機関車も作れないことは無いでしょうけど、れえるを揃えるだけの鉄がありませんねぇ」
お爺さんとお婆さんはいろいろ知恵が浮かんで来るのですが、今、街で作れるものはほぼ実現してしまっています。これ以上実現するには海の向こうから材料を運んで来たり、大変難しい計算が出来る人を探してこないといけません。二人に出来る事は限界を迎えていました。
「お父さん、お母さん、何か手伝う事はありませんか?」
二人が悩んでいるところに現れたのは桃太郎でした。
「桃太郎や、ありがとう。じゃが、今のところ手伝ってもらうようなものは無いからみんなと遊んで来たらどうじゃ」
「わかりました。ではいってまいります」
手伝ってもらう様な用事がなかった二人は桃太郎にそう言って再び悩んでいました。
桃太郎はと言うと、難しそうな顔をしたお父さんとお母さんを心配しながらも外へと出かけていきました。
桃太郎は既に学校を卒業したので何か仕事をしないといけないのですが、決まった仕事はありませんでした。もちろん、自宅警備員ではありません。お父さんやお母さんの考えた道具や食べ物を作る手伝いをしているのでした。
そうして手伝ううちに、鍛冶の仕事も野良仕事も炭焼きも器用に出来る様になっていました。なので、お父さんやお母さんの代わりに街の皆と道具や食べ物を改良、工夫するようになっていました。
今日も、桃太郎は街へと新たな工夫をするものはないかと出かけたのです。
「おや、桃太郎。聞いたかい?海のほうの村が鬼に襲われたそうだよ」
「本当ですか?それはいけませんね」
そして、街ではここ最近、鬼が各地を荒らしているという話が飛び交っているのでした。
「最近は漁師たちが海に出るのも危ないらしいから缶詰の材料もなかなか手に入らないよ」
最近は安心して漁に出られないので缶詰にする魚も手に入りにくくなっています。干物や燻製もなかなか作れません。
「できればみんなで退治に行きたいけれど、鬼は大きな体で大きな金棒を振るってるから危なくて退治に行けやしない」
桃太郎は鬼を見たことはありません。どれほど大きな体があるのかもわかりませんし、振るっている金棒がどんなものかも見当が尽きません。
「誰かがやらなければいけないなら、僕が行きましょう」
皆が困っているなら自分の出番だ。桃太郎はそう確信しました。
そして、街で仲間を集めようとしましたが集まりませんでした。仕方がありません。鬼が居るのは海に浮かぶ島で、街の人たちは海の上で戦う要領など分かりません。船もないのですから、退治に行こうにも行けなかったのでした。
桃太郎は考えました。
「街には船がない。だったら海辺の村へ行って人を集めてみよう」
そして、まずは海の方へと向かう事にしたのでした。
「お父さん、お母さん、鬼退治に行ってきます」
言われたお婆さんははたと考えました。鬼が出るのは海の方です。時間がかかるかもしれないので、おにぎりやお弁当を持たせるわけにはいきません。
そこで、缶詰を渡すことにしました。
「お母さん、きび団子は?」
「はあ?あんた、鬼退治に行くんだろう?団子が日持ちする訳ないだろう、このれーしょんなら長持ちするからこれをもってお行きなさい」
お婆さんは缶を開ければそのまま食べることも出来るれーしょんという缶詰を持たせることにしました。
そしてお爺さんも桃太郎に渡しました。
「お父さん、ありがとうございます。このサンパチで鬼をやっつけてきます」
お爺さんは頷きました。
こうして桃太郎は鬼退治の旅に出ることになりました。
「桃太郎は行ってしまいましたね、お爺さん」
「何、あの子なら鬼を退治して帰って来てくれるじゃろう」
二人は鬼退治に向かう桃太郎が見えなくなるまで見送っていました。
つづく




