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3・思い至った二人

 知恵の実を食べたお爺さんとお婆さんはさらに若返りの実を食べて若返り、ふもとの町を発展させ、気が付けばあたり一帯を治めるまでになっていました。


「婆さんや、ずいぶん街がおおきくなったのぉ」


「そうですねぇ、お爺さん」


 二人は自宅から街を眺めて感慨深げに語りあっていたのでした。

そして、お爺さんがあることに気づきました。


「そういえば婆さんや、干物に燻製、漬物とずいぶん保存食も増えたが、もっと簡単に食べられる缶詰は造れないだろうか」


「缶詰ですか?今の鍛冶屋の人たちなら缶詰缶に使う容器も作れるかもしれませんね」


 はじめて鍛冶屋の人たちを呼び寄せてどのくらい経ったでしょうか。お爺さんの知恵によってどんどん発展していった鍛冶屋町では、とうとうスチームエンジンまで動いているのです。


 多くの鍛冶場からはカーンカーンという鉄を打つ音とともに煙が立ち上り、蒸気が漏れだしてきています。今作っているのは鋤や鍬だけではなく、様々なものが造られていました。


「本当はとらくたあやこんばいんというものが欲しいが、てんぷれの唐箕と足踏み式脱穀機しか作れておらんの。犂だけでなくろおたりいがあればいいんじゃがのぉ」


 お爺さんは街が発展するにつれて食糧の問題が出てきている事を心配していました。保存食の種類を増やそうとしているのも、食べ物が少なくなる春先にも心配なくご飯を食べるためだったのです。


「なるほどな、そりゃあ、錆びにくいだろうし、鉸めならば密閉も強固だろう。よし、一丁考えてみるか!」


 今では鍛冶屋町のまとめ役となり白髪も目立つようになった鍛冶師が缶詰缶の製作を請け負ってくれました。

 それからしばらく後、苦労のかいあって缶詰缶は完成しました。


「出来たぜ、蒸気釜の方は先に完成してるやつを使ってみようか」


 缶詰缶と蓋を鉸める機械を受け取ったお爺さんは中に山で取れた獣の肉と野菜を煮込んだものを入れ、蓋を鉸めていきました。

 そして、蒸気釜に入れて頭に浮かぶ通りに熱していきます。


「あとは、これをひと月して開けてみるだけじゃな」


 鍛冶師はけげんな顔をしましたが、説明通りならば腐ることなく食べられるというのでそうなることを祈りながら帰っていきました。


 ひと月して開けた缶詰は何事もなく食べることが出来ました。


「どうじゃ?」


 お爺さんに続いて缶詰を口にした鍛冶師も驚きました。


「こいつはすげえや。これがあれば食べ物に困ることもなくなる!」


 それから鍛冶屋町には新たに缶詰缶を作る工房と缶詰を作る加工場が造られることになりました。鉄のにおいが充満する鍛冶屋町の外れからは毎日おいしいにおいが漂う様になりました。




 こうして食べ物の不安が取り除かれた二人はある事に気が付きます。


「そういえば婆さん、街の皆はどんどん年を取るがわしらは変わらんのお」


「本当ですね、お爺さん」


 そうなのです。桃を食べた次の日からすでに随分と時が経ちました。しかし、お爺さんとお婆さんは今でも若いままです。


「若いのは良いがなぜ子供が出来んのじゃろう?」


「なぜでしょうね。そろそろ街も出来上がりましたから、子供が欲しいですね」


 そう言いながら、ヒャッハーに励んでみましたが、なかなか子供が出来る気配がありません。

 子供が欲しいと願いながらヒャッハーし続けて季節が変わりました。


 そうするとどうでしょう。


「お爺さん、お爺さん。どうやら子供が授かったようですよ」


「おお!そうか、それは良かった」


 お爺さんとお婆さんは大変喜びました。

 次第にお婆さんのお腹は大きくなり、季節が流れてとうとうお婆さんは元気な赤ん坊を生みました。


「おお、元気な男の子じゃ。名前は何と付けましょう」


「そりゃあ、桃太郎じゃろう。わしらに子供が出来たのは、あの桃のおかげじゃろうて」



 桃を食べて幾多の季節が廻りました。それでもやはり、子供を授かったのは桃のおかげ。二人はそう考えて、生まれてきた赤ん坊に桃太郎と名付けることにしたという事です。


めでたしめでたし。


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