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思い立ったが吉日よね!!

 美咲は待合室の隅、ベンチに腰かけて項垂れていた。


「美咲!」

 ビアンカが声をかけると、彼女は泣き腫らした眼をして顔をこちらに向けた。


「どうしたの、何があった……」

 美咲は無言で立ち上がり、抱きついてくる。


 何も言われなくても伝わってきた。


 やりきれない怒りのような、悲しみのような、言葉では表現しきれない苦しみが。


 ビアンカはそっと彼女の背中を撫でた。あの時と同じだ。


 誰が旅館の資金を横領していたのか。それが判明したあの時と。


 何か彼女のためにできることは……。



 それからビアンカは何気なく、まわりを見回した。

 病院の中には様々なポスターが貼ってある。大抵が病気にまつわる内容で、予防接種だとか、検診のお知らせである。


挿絵(By みてみん)


 その中に『LINE始めました』というのを見つけた。


 ……そうだ!!

「もしかしたら、いけるかも……!!」


 え? と美咲は涙を眼にいっぱい溜めて見上げてくる。


「ちょっと待ってて!!」

 ビアンカは久しぶりに父親の携帯番号に電話をかけた。


 ビアンカの考えたこと。

 それは、父親の会社の社員旅行なり研修なりで【御柳亭】を利用してもらうこと。


 社員がツィッターやその他、SNSで情報を拡散してもらい、客寄せする。

 もちろん、それだけの上質なサービスは提供しなければならないが。


 しかし何より話題性には事欠かないだろう。外国人と、若い男の子の仲居というめずらしい組み合わせは、絶対注目されると思う。彼女は既に、周を巻き込むつもりでいる。


 父親の電話はなかなかつながらなかった。

 元々仕事が忙しい人の上に、娘を娘だと思っているのかどうかすら怪しいところがある。


 でも、それは今までの話。


 つい先日、お父さんはただ不器用な人なんだと教えてくれた人がいた。


 高岡聡介、という父親と同じぐらいの年齢の男性。彼のおかげで以前よりは少し、父親との間にあるハードルが下がった気がする。


『……もしもし』

「あ、パパ?! ちょっと話があるの、今からそっちに行ってもいい?!」

 父親は現在、神戸にある日本支社にいる。住まいも神戸市内だ。


 今からだと新幹線でどれぐらい時間がかかるだろうか。


 隣で美咲が不安そうな顔をしつつ、こちらを見つめている。

 一緒に連れて行きたいところだが、賢司のこともあって難しいだろう。


『……』

「ダメだって言っても行くから! 場所なら知ってるのよ?!」


 早速、行動開始!!

 ビアンカは走って外に飛び出し、タクシーに飛び乗った。



 広島から神戸までは約1時間ちょっとだった。父親の会社の場所も、自宅も把握している。

 先日、合い鍵もゲットした。


 自宅に行って少し掃除や料理でもして待っておこうかな、と考えたが、時計を見て考え直す。


 ちょうど昼過ぎである。

 ビアンカはもう一度、父親に電話をかけた。


「パパ? 今、神戸に着いたの。一緒にランチしましょうよ」

『……1階のロビーで待っていなさい』


 やった!


 ビアンカはウキウキしながらロビーで父親を待っていた。


 しばらくすると父親が、綺麗な日本人女性を連れてやってきた。

 不意に嫌なことを想像してしまった。恐らく秘書だろう。


 父は彼女に軽く手を挙げ、一人でこちらに歩いてくる。


「……今の人は?」

「秘書だ」


 ふーん、とビアンカは反対方向へ歩いていく秘書女性の後ろ姿を目だけで見送った。



 昼のピーク時を過ぎたからか、店内は比較的空いている。

 父の会社のすぐ傍にドイツ料理専門店があった。


「それで、用件は?」

 父、クラウスはさっさと話せと言わんばかりの調子で訊いてくる。愛想の欠片もない。

「お願いがあるの」

「……金が足りなくなったのなら、ドイツに帰りなさい」

「そうじゃなくて!! もぅ……」

 そこでビアンカは包み隠さず、現状を話した。


「そう言う訳なの、お願いパパ!! 私の大切な親友なの。彼女、今までもずっと辛い思いを何度もしてきて……でも必死で生きてきた人なの。私、美咲の力になってあげたい」

 そういうことなら、と二つ返事で了承してもらえると思っていた。


「……経営回復は自力でなんとかするものだ」

「それは、そうかもしれないけど……」

「そうやって人を頼っていたら、一時的には上手く行くかもしれないが……先が続かないだろう」


 返す言葉もない。

 良いアイディアだと思ったのに。


「お前も私の娘なら、どうしたらいいか自分で考えなさい」

 さっさと先に食事を終えてしまった父は、伝票を取って店を出て行ってしまった。


 確かに父はたった一代で、外国に支社を出すほど会社を急成長させた腕の持ち主だ。

 

 でも、そんなこと言ったって……。

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