僕だよ詐欺
なんとなく、最近兄と姉、2人の間を流れる空気が変わった気がする。
そんなことを考えながら家に帰ると、いつも通りに猫達が駆け寄ってきた。
普段なら姉も一緒に玄関に出てくるのだが、今日は違った。
どこにいるのだろう?
「姉さん? ただいま……」
猫達と一緒にリビングに入ると、姉はダイニングテーブルに腰かけ、俯いていた。
「おかえりなさい……」
なんだ? 周は異様な空気を感じた。
「どうしたの? 何かあった?」
姉は顔を挙げると、ひどく悲しそうな顔をしていた。
「周君……」
「な、なに?」
「……お願いよ、私にだけは隠しごとしないで」
はい?
「俺がいつ、姉さんに隠しごとなんて……」
「好きな女の人がいるって本当?!」
そうきたか。
思わず周は目を逸らした。
「……本当なのね?」
美咲は悲しそうに目を伏せた。
「いや、あの……」
すると姉は立ち上がり、真剣な眼差しでこちらを見つめつつ近づいてくる。
両手で手を握られた。
冷たい手だ。
「あのね。実は、周君が変な女の人に騙されてるっていう話を聞いたの。もしかしたら、そのうち家を出て行ってしまうかも……って」
なに?
「もし、その人が周君のこと利用するだけして、用がなくなったら……そんなことを考えたら……私……」
何を言ってるんだ? このおねーさんは……。
「もう少し長く、周君と一緒にいたい……」
「……和泉さんだな? 姉さんにそういう、妙な話を吹き込んだのは……」
周はリビングを飛び出し、玄関のドアを乱暴に開けた。
隣室のインターホンを連打したが、応答はない。急いで自分の部屋に戻って携帯電話を鷲掴みにし、和泉の番号にかけた。
『あ、周君だ~!』
呑気な声で応答があり、イラっとする。
『ねぇ、もうお家に帰った?』
「あのさ……」
『なぁに? 何か怒ってるのかにゃ~』
ブチっ。
「俺の姉さんに何を吹きこんでんだよ!? 変な女に騙されてるとか、その内家を出るとか、訳のわかんねぇこと言ってんじゃねぇっ!!」
ぜぇぜぇ……。
『……だって……』
「だって、って何だよ?!」
『……周君の裏切り者……』
「はぁ?! 何、訳のわかんねぇこと言ってんだよ!! 俺がいつ、あんたを裏切ったって言うんだ?!」
『僕というものがありながら、彼女って何……?』
胃の辺りにずーん、と重いものを感じた。
「……俺がいつ、あんたの彼氏になったんだよ!?」
『違うよ、僕が周君のダーリンで、周君は僕のハニー』
「ああ、そうそう。俺があんたの……って違うわ、ボケ!! いいか? 今度、姉さんに何か妙なこと言ったら、本当に裏切るからな?!」
あれ?
何言ってんの……? 俺。
『え……?』
じゃあな!! と、周は通話ボタンを切った。