デジャブってやつか?
「ねぇ聡ちゃん。さっきの警備部長の顔、見た?! あれは傑作だったわよね~!!」
お願いだから大きな声で、廊下でそう呼ぶのはやめて欲しい。
が、いくら自分より若くても、階級は一つ上だから逆らえない。
あんたが自分で火種を撒いたんだろうが……。
聡介は声に出さず、胸の内で隣を歩く捜査1課特殊捜査班隊長、北条雪村警視に対し、あれこれとツッコミを入れていた。
つい先ほどまで、各部の管理者が集まって会議が行われていた。
議題は今年度の予算及び、春からの人員配置について。
異動に関しては人事部が一手に引き受けているものの、人数と予算については現場の管理者が意見を述べても良いことになっている。
そうなると。
人員も予算もとにかく確保したい。
各部の長達が我こそは!! と、大騒ぎする訳である。
こう言う時、日頃から中の悪い部署の管理者同士がケンカを始めて、時々会議どころではなくなることがある。
特に警備部と警務部。
この県警では、この二つの部は歴代部長同士全員、犬猿の中なのであった。
来年度、海外からVIPクラスの来賓予定があり、平和記念公園を視察することになっている。となると警備部としては予算も人員も確保したい。
だが。
それに対して反対意見を述べたのが警務部長である。海外からのVIPよりもまず、県民の安全を守ることが最優先ではないか、などともっともらしいことを言って。
すると。その時、この妙なしゃべり方をする警視が発言したのである。
「いい歳こいて、会議の場で日頃のうっぷんを晴らすのはやめません? 警備部長が目をつけてた女子職員を、警務部が総務課に引っ張ろうとしてるからって」
し~ん……。
結局、人事などというのには、私情が挟まれることがままある。
その後は会議どころではなくなった。
そんな訳で。中途半端に終わった会議からの帰り道、北条は楽しそうだったが、聡介はちっとも笑えなかった。
それにしてもこの警視、内部事情にやたら通じている。
あと数メートルで刑事部屋だ。
その時。
「は、は、班長!!」
うさこが青い顔をして走ってきた。
「どうした?」
「和泉さんが、和泉さんが……!!」
何があったんだ?!
「彰彦、どうした?!」
和泉は……死んだような顔をしていた。
デスクの上に突っ伏して、目からは大量の涙。
「これは、いったい……?」
「よくわからないんです。いったんあがったくせに、また戻ってきてこの有様です」
「どーせ、あの坊主絡みでしょう。ほっといたらどうです?」
例によって仕事を脇に置き、いつもは写真週刊誌を読んでいる友永が、今日は住宅情報雑誌を読みながらそう言った。
周君か……。
あの子と親しくするのは別にいい。だが、業務に影響が出るようでは困る。
「おい。彰ひ……」
「……わよ?」
北条が何やら和泉の耳に囁くと、息子は何ごともなかったかのようにしゃきっと起き上がり、真面目に手を動かし始めた。
なんて言ったんだろう?
気になったが、知らない方がいいような気もした。