そりゃ、気持ちはわからなくもないけど。
「他の従業員の方から、お話を訊いても?」
ダメだと言ったところ無駄だろう。
今はちょうど、仲居達も休憩をとる時間だ。もしかしてこの刑事はそこまで見越していたのだろうか。
誰かが何か妙なことを言わないかと心配になり、里美も刑事達について行って仲居達の話に加わることにした。
「ああ、節子さん? 訳アリに属する人でしたよ」
比較的長い間勤めている仲居の一人が言った。
「訳アリ?」
「なんでもあの、ブラックリストっていうんですか。クレジットカードが作れない人。何か、金銭トラブルがあったらしいですね。この仕事してると、食べることと住むところには困らないんですけど」 なるほど、と刑事達は愛想笑いを浮かべる。
「血縁関係やご親戚については?」
「確か、息子さんがいらっしゃるって。でも……」
その仲居は可笑しそうに答えた。「節子さん、ちょっと有名になった若い男の子をテレビで見ると、全員、生き別れの息子なんですよね。気持ちはわからなくもないですけど」
メモを取っていた和泉が顔を上げる。
「最近は、どなたを見て息子さんだと?」
すると。
「なんだっけ、あれ……奈々子さん!!」
仲居は奈々子を呼んだ。
呼ばれてやってきた彼女は、和泉の顔を見るとなぜか、ほっとした様子を見せた。
「ねぇ、最近の節子さんの息子ってなんだったっけ?」
仲居は完全に面白がっている。しかし奈々子は真剣な顔で、
「声優さんです」
「声優さん?」
「確か……有名なアニメ雑誌に載っていた、星河琉聖とか言う人です。私はよくわかりませんけど、ものすごい人気の声優さんらしいです」
刑事達は顔を見合わせた。
「ということは……」
和泉が何か含みのある表情で言った。
「女将さん、もし差し支えなければ原田さんのお部屋……従業員寮を見せていただけますでしょうか?」
はい、と返事をして里美は合鍵を取りに行った。
従業員寮は旅館から歩いてすぐ近くにある。
そこへ、
「おい、どこへ行くんじゃ?!」
社長であり、里美の夫でもある寒河江俊幸がバタバタと太鼓のような腹を揺らしながら小走りにやってくる。
「ひょっとして、節子の部屋に行くんか?」
そうだと答えると、
「ワシも立ち会わせてもらおう。ええな?!」
彼は相手が誰だろうと関係ないらしい。
本人に言わせれば『平家の血を引いた尊い家系』なのだから。里美に言わせればそんなもの、カビの生えた無価値な肩書きに過ぎない。
そんな訳で一行は節子が使用していた従業員寮に向かった。




