どっちがひどいでSHOW?
年末、姉の実家の手伝いをした時に何度か見かけた。
やせ細って骸骨みたいだな、と周は内心で秘かに『骨皮さん』などと勝手に呼んでいたのだが。
美咲は慌ててソファテーブルの上に置いてあった携帯電話を取り、どこかへ電話をかけ始めた。恐らく女将だろう。
テレビのニュースは既に別の話題に切り替わっていたので、周はスマートフォンのニュースサイトを見ることにした。
事件が起きたのは昨夜。
雑居ビルの裏側に倒れていたという。
おそらく階段から転落し、頭を打ったと見られているようだ。
持ち物も奪われていることから強盗だと思われる、とそのサイトでは解説されていた。
「……そう……わかったわ……」
「女将さんはなんて?」
美咲はふぅ、と溜め息をついた後に答えてくれた。
「……節子さんが仕事を辞める予定だったっていうのは、私も知っていたけど……ここ何日かずっと、姿を見なかったらしいわ」
「え、そうなの?」
不意に周が心配になったのは、美咲と節子の関係性だった。
警察がもし怨恨による殺人事件と見て捜査を開始した際、当然彼女も事情を聞かれるだろう。
もし節子が美咲に敵対する立場だったとしたら、動機ありとみなされかねない。
和泉に会って話さなければならない話題が2つに増えた。
今までみたいな噛みつくような言い方をしないで、冷静に……まずは昨日のことを謝って、それから……。
携帯電話が震える。
周は慌てて画面をスライドした。
【電話に出られなくてごめんね。今日は遅くなるけど、何時までなら大丈夫?】
和泉からだ!!
【何時でもいいから、待ってる!!】
※※※※※※※※※
カーテンがすべて閉め切られ、照明を落とした部屋の中は少し暑い。
和泉は束ねられた資料を団扇代わりにして仰いだ。
広島北署の会議室の入り口には『流川3丁目雑居ビル女性殺害事件捜査本部』と戒名の書かれた張り紙がしてあり、聞き込みを終えた刑事達が集まって会議中である。
「え~、被害者は原田節子、56歳。宮島の温泉旅館『御柳亭』で仲居をしていた。が、退職の予定があり、ここ1週間ほど有給休暇消化のため休んでいたという。住居は従業員専用寮。同旅館の従業員によれば、ここ最近は寮に近づいた形跡はないとのこと」
「死因ですが、脳挫傷によるものです。階段上部から突き落とされたことによる転落死でしょう。手すりにガイシャの指紋が幾つか付着していました」
「遺体から約30メートル離れた場所に、ガイシャの物と思われる空のバッグが放り出されていました」
「となると……」
捜査を指揮する管理官であるお馴染みの横尾警視は、スクリーンに映し出された情報を見つめながら呟く。
「物盗りのセンが濃厚だということか?」
はい、と所轄の刑事が手を上げて発言する。
「最近、遺体発見現場付近でひったくりや窃盗事件が多発しています。目撃情報によればいずれも、若者の集団だということです。それと……」
「それと?」
「ガイシャがあの現場付近で、若い男と話している場面を何度か見たと言う目撃情報もあります」
「その男の人着(人相と着衣)は?」
「中肉中背の若い男、だそうです。スーツを着ていたので、サラリーマンではないかと」
そんなの該当が何人いるって言うんだ。
「目撃者の証言によると、ガイシャがその男性に声をかけたそうですが、知り合い同士というよりは……何か勘違いしているのではないかという様子だったそうです」
「どういうことだ?」
「ガイシャはその男性を自分の息子だと思って話しかけたようですが、男性は知らない人だ、と突っぱねたそうです」
「どこで目撃されたんだ?」
「シャノア、という高級クラブから出て来たところです」
「なんだろうな? 金目当ての……新しい形態の詐欺か?」
それはないと思うな、と和泉は思った。
が、太鼓持ちで無能な1課長である大石警部は「さすが管理官!!」とおだてている。
バカバカしい……。
和泉は思わず頬づえをついて、窓側の方に顔を向けて欠伸をした。
「他に、何か情報はないんか?!」
1人の刑事が手を挙げる。
「現場付近では最近、不良少年グループによる傷害事件が多発しています。複数人でグループを作り、抗争を繰り返しているとか。何年か前に流行したオヤジ狩りというものに便乗し、少なからず裕福層に見える相手を襲い、金品を奪う行為を繰り返しています。もしかするとターゲットはそのサラリーマン風の若い男で、ガイシャは巻き込まれたのかもしれません」
その後も聞き込みをしてきた刑事達からの報告は、これといった決定打になりそうなものはなかった。




