昭和のマンガじゃあるまいし
綺麗に片付いているワンルームは、あちこちに若い女性が好みそうな小物で溢れかえっている。
志乃の部屋でどうにか落ち着きを取り戻した友永は、壁に背を持たれて胃の辺りをさすった。
ペットボトルの水が無言で差し出される。
蓋を開けて一口飲むと、深い溜め息が出た。
「ひょっとして、昨夜の事件を調べてるの?」
志乃は台所に立って、こちらに背を向けたまま話し出した。
「……現場を目撃なさったのですか?」
「直接見た訳じゃないけど。お客様をお見送りしてたら、パトカーが何台か止まってるのを見ただけ。最近、若いのが何かとやんちゃしてるじゃない? ほんっと、迷惑よ」
自分だってまだ充分若いのに、そんな言い方をする彼女を友永は思わず笑って見つめた。
「若いの……とおっしゃいますと?」
志乃はくるり、と振り返ると駿河に詰め寄った。
「もう! 私、そういう堅苦しい言い方は好きじゃないの!!」
気圧された駿河は、やや身を引いて困惑している。
「ウチのお客様って、お医者様とか弁護士先生とか、お金のある人が多いの。あいつらが暴れ回るせいで、お金のある人が怖がって町に近寄らない訳。こないだ襲われた人も、確かお医者さんだったでしょ?」
確かに。
「なんとかしてよ、修ちゃん!!」
「なんとかしてやりたいのは、山々だけどな……」
はい、と水と温かいお茶を差し出しながら彼女は怒った顔で続ける。
「【ブルーフラッグ】っていうのと【ブラッククロウ】とかいうのが、今のところ2大勢力みたいよ」
「なんだそれ、マンガかアニメか?」
「どっちもこの町でたむろしてるカラーギャングよ。元を辿れば……全部、あの男に行きつくらしいけど」
「……支倉か」
「未来の暴力団構成員予備軍ってところじゃない?」
嫌な言い方だが、彼女の言っていることは間違いではない。
「ところで、この女性を見かけませんでしたか?」
駿河が原田節子の顔写真を見せると、志乃はしばらく見つめていたが、
「あ。この人……」
「見たのか?」
「うん、何度か。うちのお客様でお医者さんをやってる人がいるんだけど、あれは……いつだったかなぁ? お見送りに外へ出たら、このオバちゃんが待ってたの」
「その医者をか?」
「そう。いきなり、なんとか君って言って、縋りついてた」
どういう意味だ?
「詳しくは知らない。でも、なんとなく……生き別れの息子だと思ってたみたいね」
そう言えば。友永は思い出したことがいくつかあった。
聞き流していた彼女の経歴の中に、昔は結婚していて、子供が2人いたと。
上手い投資話に騙されて、借金を抱える羽目になり、一家離散してからは一度も会っていないそうだ。
その医者だという男性が本当に息子なのだろうか。
「で、その医者の反応は?」
「全然知らない人だって、突っぱねてたわ。でも、このオバちゃん、あきらめなかったのよ。毎晩みたいにウチのお店の前で先生のこと待ってて……先生だっていつも来る訳じゃないんだけど……」
「昨夜はその医者も、オバちゃんも来たか?」
「うん。事件が起きたのは、先生が帰ってからしばらく経っての話よ」
一つの仮説が生まれた。
原田節子がその医者を本気で自分の息子だと信じ、つきまとっていたのだとしたら。
最近多発している、医療従事者への暴行事件の次のターゲットがその息子で、巻き込まれた……あるいは庇ったために……。
「サンキューな、志乃」
友永は立ち上がった。
そしてふと、彼女を見ていて思い出したことがあった。
ビーバップハイスクー○とか……歳がバレるな、これは。
いや『愛と誠』あたりでどうだろう?
あ、ちなみに挿し絵は『キャバ嬢ってこんな感じかな?』というイメージです。




