オジさん達も、少ないお小遣いで頑張ってるんだよ。
「しかし、まさかお前がデカとはなあ」
小橋はビールジョッキ片手に笑った。
「……俺だって、未だにピンとこねぇよ」
サラリーマンの味方を看板に掲げている居酒屋で、友永はかつての仲間とカウンター席に並んで座り、ビールで乾杯した。
「生安に戻ってこい。どうせ今年の春にも異動があるだろ? 憐れなガキどもが、お前に頭を撫でてもらうのを待ってるぞ」
友永はそれには答えず、ポケットから智哉の写真を取り出した。
「……なぁ、こいつを流川で見たことがあるか?」
「誰だ? これ」
「俺の息子」
小橋は笑った。
「嘘つけ、お前の息子がこんな美少年の訳ないだろ」
ちょっといいか? と、写真をしばらく見つめていた小橋はボールペンを取り出して智哉の顔に黒い点を書き足した。
「……やっぱりな、こいつは蓮だ」
「蓮?」
「流川ナンバーワンホスト。今から5年前の話だけどな」
「今はどこの店に?」
「どこにもいない。死んじまったからな……」
「原因はなんだ?」
小橋は運ばれてきた刺身に箸をつけ、
「自殺だよ。首を吊ってな」
「……遺書は?」
「なかった。だが、いくらか考えられる原因は……って、なんでお前はそんなことを知りたがるんだ?」
そう訊かれたら友永としても具体的な理由を説明できない。
「なんとなくな、刑事の勘ってやつだ」
小橋は一気にビールを飲み干してお代りを注文すると、
「笑わせるなよ、おい。なんかあったんだろ」
油断ならない眼つきでこちらを見つめてきた。
彼は昔から勘が鋭く、隠し事をしても見透かされることが多かった。
友永は半分ほどに減った生ビールのグラスを傾けた。
「……まだ何も起きていないが、これから起きるかもしれん」
言っていて何か、とてつもなく嫌な予感がしてきた。
「そういやお前、あの話、聞いたか?」
「なんだよ、あの話って」
小橋はちらり、とテレビの方に視線を向けた。
ちょうどニュースの時間だった。
「この頃、立て続けに医者や看護師、果ては薬剤師に至るまで、医療関係者ばかりが狙われる事件が起きてるって話」
それは友永も聞いている。
報道されている情報以外のことは知らないが。
「……そうらしいな。で、まさか……」
小橋が話題にするということは、暴力団関係者というよりも未成年の不良グループによる犯行の可能性が高い。
「そのまさか、だ。あいつら最近、やたらに暴れ回ってんだよ。マンガか映画の影響受けてんのかどうか知らないが、チーム名なんかをつけて抗争してるらしい」
昭和くせぇよな、と小橋は笑う。
「医療関係者ばかりが狙われるっていうのは、偶然なのか? それとも……」
「まだわからん。今のところ、把握できてるだけで3件だ。その内1人は医者、1人は看護師、1人は薬剤師……と。その内、産婆さんだとか、製薬会社の社員まで狙われたりしてな」
その可能性は否定できない。
友永はふと、とある男の顔を思い出した。
「いずれにしろ、やっぱり生活安全課少年係にはお前が必要だよ。今年の春にはかならず、人事が動く。俺からも上にかけ合っておくから、よーく考えとけ」
小橋と別れてから友永は携帯電話をチェックした。
昨日までストーカーよろしくかかってきていた【鶏ガラ】からの着信は、すっかり途絶えてしまった。
こちらから何度かかけ直したが、つながらない。
何かあったのかもしれないが、深くは考えたくない。
友永は携帯電話の電源を切った。




