進路のことで未だに悩んでますけど、何か?
終業のチャイムが鳴ると生徒達はみな、教室の外に飛び出す。
クラブ活動だったり、塾や予備校だったりと学生達は忙しい。
中等部の頃から帰宅部として生きてきた藤江周は、高等部に進んでからもやはり帰宅部を貫いてきた。
今日は帰りに病院へ寄って、夕飯の買い物をして、それから……とぼんやり考えていたら、友人である篠崎智哉が担任教師に呼ばれて教室を出ていくのが見えた。
おそらく進路のことだろう。彼は成績が良い。
なので、就職ではなく奨学金を受けてでも進学するようにと勧められている。
まして今は、高校2年生の3学期という、微妙な時期である。
そのことで何度も担任や進路指導の教師と話し合っているらしい。ただ、智哉の意思は就職で固まっているようだ。
これからは自分が、妹を養って生きて行くのだ、と。
かくいう自分の進路について言えば、周はまだ迷っていた。
兄は、賢司は今も自分と同じように、大学に行かせて自社に就職させたいのだろうか。以前は単なる反発で、そんなのはごめんだと考えていた。
けど今は。それも一つの選択肢かもしれないと思う。
結局のところ自分がどうしたいのか、本当にやりたいことはなんだろう?
和泉が勧める通りに県警への道か、友人の弟や妹達と何度か接している内に興味を持ち始めた、保育士への道か。
いずれにしろ、彼らと出会わなければ決して選択肢にはならなかっただろう。
姉の実家を手伝う、という手もある。
段々とわからなくなってきてしまった。
考え事をしながら荷物をカバンに詰めていたら、智哉が教室に戻ってきた。
「周、まだいたんだ。めずらしいね」
思ったより時間が経っていたらしい。
「……智哉こそ、先生の話はもう済んだのか?」
「ああ、うん」
なんとなく、周は智哉に話を聞いてもらいたいと思った。
「なぁ、智哉……ちょっと時間あるか? 少しだけ話したい」
そう言えば久しぶりかもしれない。
冬休みが明けてからというもの、ゆっくり話もできていない。
すると智哉は嬉しそうに、
「じゃあさ、家に来ない? 一緒に宿題しようよ。これから絵里香を迎えに行くから、途中で保育園に寄っていい?」
周は了承し、カバンを肩にかけて教室を出た。
「絵里香ちゃん、元気か?」
彼の妹が預けられている保育園は、篠崎家のわりと近所にある。
「元気だよ。そういえば、また周の家に行きたいってうるさいんだ。猫ちゃんに触りたいんだって」
「そっか、いつでも来なよ。歓迎するからさ」
猫達は嫌がるだろうが。デフォルトで猫は子供が嫌いだ。
「……ねぇ、周。どうかしたの?」
「え、何が?」
「何か悩みでもあるの? そんな顔してるように見えたよ」
鋭い。というか、智哉は昔からそうだった。
あるいは自分があまりにもわかりやす過ぎるのだろうか。
口に出さなくても察してくれる。
きっと感受性が鋭いんだろう。
「実は、進路のことでさ……」
すると智哉はひどく驚いた顔をしてみせた。
「え、県警に入るんじゃないの?」
「……まだ、他にも選択肢があるんじゃないかって思って」
「賢司さんはなんて?」
「よくわからない。最近、その話をしてないから」
というか、あの家庭教師の事件以来、有耶無耶になりつつある。
「そっか、悩んでるんだ。ま、そう簡単に決められないよね。一生に関わることだし」
そうなのだ。
こればっかりはじっくり時間をかけて、よく考えて決めなければ。