聞かなかったことにしておこう、うん。
それにしても、と智哉は溜め息交じりに言った。
「周って、とにかく女の子にモテるんですよね……」
「ああ、なんとなくわかるな」
「誰にでも優しいから」
要するにこの兄は、もしかして友人に本命の彼女ができた場合、妹がどれだけのショックを受けるだろうかと心配しているのだろう。
それこそまだ5歳だぞ、と言ってやりたいところだが、本人は深刻そうである。
「いっそのこと、奴が男とくっついちまったら全員あきらめざるを得ないだろうな」
友永は冗談のつもりで言ったのだが、
「周はたぶん、猫にしか興味がないんだと思います」
「猫か、そりゃあいい」
ははは、と軽く笑う傍から智哉は、
「あとは和泉さんかな」
「……なに?」
今、なんと?
まぁいい。聞かなかったことにしておこう。
「ただ、周がモテるっていう事実は変わりないじゃないですか。僕は絵里香にあんまり嫉妬心を覚えさせたくないんですよね……うちの母親が、実はかなり嫉妬深いタイプで……父親とケンカが絶えなかったんです」
なるほど、そういうことか。
会ったことはないが智哉は父親似らしい。と、いうことは、この綺麗な顔で職業は医者だと言うのだから、モテない訳がない。
それは、妻としては気が気でなかったに違いない。
その時だった。
「……蓮……蓮じゃない?!」
新しく店に入ってきた見知らぬ女性が智哉に声をかけてきた。
一目で水商売と分かる女性。髪を明るい色に染め、大きく胸元の開いた服を着ている。
「え……?」
「あんた、死んだなんて嘘だったんじゃね?! 今までどこにおったんね?!」
友永は女性を検分した。
年齢は恐らく30代後半。
だいぶ肌が荒れている。
夜の遅い商売のせいだろう。
その『蓮』なる人物とは、相当親しかったようだ。
表情が物語っている。
「あ、あの……?」
智哉は困惑している。
「その子は蓮なんて名前じゃない。人違いだろ」
友永が静かに言うと、女性ははっと我に返り、そそくさと店を出て行ってしまった。
智哉は不思議そうな顔で、しばらく店の入り口を見守っていた。
人違いではある、が確実に彼によく似た人物がいたのだろう。
『死んだなんて嘘だった』と言うのが気になる。
そう言えば、と智哉がぽつりと口を開く。
「前にも、よく似てる人がいるって言われたことがありました……」
「世の中には似た顔が3人はいるって言うからな」
「3人……」
「どうした?」
「実は、今の人で3人目なんです。僕を、知ってる人によく似てるって言った人。最初はあの……友永さんに名前を調べていただいた、交番のお巡りさん。もう1人は信行のお母さん……」
信行と言うのは智哉のもう1人の友人で、彼の母親は確か、流川でホステスをしていたはずだ。今の女性も明らかにホステスだった。
なんとなく友永は妙に、そのことが気になり始めた。
少し調べてみるか。




