Q:馬車の旅は何日目ですか? A:一日目だな
丁度前にある太陽。だだっ広い草原。緑の生い茂る中に一本ある硬い茶色の道は地平線が出来ている
俺たちは、ちょいと豪華な馬車で移動している。馬車は一定のリズムで揺れ、それを引くのは馬みたいな生き物。馬ではない。名前が解らないから、馬っぽい奴と呼ぼう。うむ、足音が心地いい
ここは既に街の外。名前を聞きそびれて、なんて街か忘れてしまったけど、アビゲイルさんが治めている街を出て既に四半日が過ぎていた
最近は何時魔物に襲われるのか解らない洞窟内で過ごして来たから、今の様にゆったりとした時間は久しぶりだ
コレットさんが御車台に座って手綱を握る。マールさんは見張るため馬車の屋根に座っている
俺はコレットさんの後ろに座り、目の前にアビゲイルさんがいる。今日も素晴らしい腹筋です
アビゲイルさんの用意したこの馬車は凄い。座れても六人が限界だろうが、椅子には綿が詰め込まれてクッション性がある。お尻が痛くならない。この馬車に乗ってしまったらもう他のに乗れないのでは?
次にこの馬車は縦に長いのだが、二階があるのだ。人も入れるだろうが、今は荷物を詰め込んでいる。食料とか調味料だとか。旅に必要な物ならなんでもあるんではなかろうか
屋根にはマールさんが座れる様に平らな部分もあった。全く……おいくらですか?
しかし、会話がないというのは、いただけないな。どうしたってこんなにも会話がない?
アビゲイルさんは何故か申し訳無さそうな顔をしている
「どうかしたんですか? アビ……」
俺の後ろで手綱を握っていたはずのレティさんが、ナイフを首筋に押し当ててくる。この人昨日よりも過激になってない? それはマールさんの役目では?
「……次、アビーに話しかけたら殺すぞ?」
ええええええええええ!? 話す事自体がアウトになってるううう!
〈はっはっは。私にも見切れませんでした〉
俺この旅で死ぬかもしれない。主な原因として後ろから刺されてね
冷たいナイフの腹が俺の首に何度も叩き付けられる。ええい、ほんの少し肌とナイフがくっつく感覚がむず痒い。長めの溜め息をついたアビゲイルさんが身を乗り出し、レティさんからナイフを取り上げる
「別にいいだろ話すくらい。マールだって少年がボクを襲わなければ、何もしないんだぞ?」
「しかし……」
「姉さん。前向いて運転してくんない?」
レティさんが何かを言う前にマールさんが口を挟む。助かった。マールさん! 気の短いとか思ってすんません。貴女はまだマシです
「すまんな少年。昨日の話をレティにしたら、怒ってしまって」
昨日の話? どれだろう
〈告白紛いの変態発言では?〉
あれは一部の人からすれば、聖書の内容に等しい
〈聖書に謝ってください。マジで〉
「え、ああ。そうですか。ちょっと恥ずかしいですね。でも本心なんで全然構いませんよ」
「っち」「っち」〈っち〉
おかしい。アビゲイルさん以外が、皆舌打ちした気がする
屋根からは「この馬車が主様の物でなければ肩とか刺したのに」
後ろからは、なんか呪い殺されそうな呪文が聞こえる。この世界の魔法に呪文はないぞ!
あと眼球。お前もなんで舌打ちしたよ
〈この場の空気を呼んでみました。目だけに〉
目にしみるのはお前にも直接的なダメージがあるんだよな?
有無を言わさず、掌に塩水を作って右目に押し当てる。海水がなんだ! 全魔眼に直接的な体罰を!
〈あ、何ともないです〉
ちくしょおおおおおお!
「お、おい少年どうした? 泣いてるのか。二人とも流石に言い過ぎだぞ」
なんか勘違いされてしまったが、アビゲイルさんに頭を撫でてもらえてるので嬉しい誤解だ
頭を撫でられる。という子供の扱いとはよろしくないが、むむ〜。なんだろうこの微妙な気持ち
ん? おやおや。平和ってのはどうも短い物だ。エルフの危機感知に何か引っかかるな。たいした事もないし、距離もあると思う。一応、報告しとくか
顔を上げるとアビゲイルさんが安心した様な顔をして椅子に座り直した。少し残念でもあるな
「マールさん。何か見えませんか?」
「ああ? ……む、確かに左方の草むらにゴブリンが見えるな。まあ、この馬車の方が速い。問題なかろう」
ゴブリン! 会ってみたいなあ。きっと緑色なんだろうな。テンプレをスルーし続けて早、えっと転生して……十年かな。ああ、ゴブリンファイトの日も近い
〈今更ゴブリンですか? 洞窟で散々戦ったじゃないですか〉
それでも異世界といったらゴブリンでしょうが
「マールさん」
「今度はなんだ?」
「マールさんは、愛称で呼んでもいいんですね」
「……ああ、特に気にしない」
なんだか歯切れの悪い答え方だな
結構、遠回しにいったんだけどコレットさんの殺気がお強くなってもうた
洞窟内より安全だが、窮屈なのは間違えない。朝起きたら窒息死してまうかもしれない
せめて二十歳を超えるまでは生きたいな。今世くらい、天寿を全うしてもええじゃないか
おや、アビゲイルさんの方が震えておられる
「ぶっふううう!」
「どうしたんですか。アビ、領主様。そんなに面白い事が?」
アビゲイルさんは、膝を何度も叩きながら笑う。しびれを切らしたマールさんが、屋根を叩くのにそう時間は掛からなかった
「いいか少年。マールの本名は」
「名前は?」
何度も何度も屋根から音がする。拳よりも屋根の方が心配になって来た
「めちゃくちゃ可愛いんだ」
「は?」
「もうめちゃくちゃ可愛いんだよ。これまでにないくらいね。名前と性格が違いすぎるからって名乗らないんだよ勿体ないよね?」
「そう言われましても本名が解らなくてはーー」
小高い金属音と共に、頬に冷たい物が触れる。おいおい、屋根を突き抜いていいんですか? さっき言ってたじゃないですか。堪えてたじゃないですか。名前はアウトですか
「お〜い。マール。これ誰が直すと思ってるんだ」
「第六魔王です」
「頼むのはボクだからな!?」
俺を置き去りにしてアビゲイルさんとマールさんは口喧嘩を始めた。主と従者では?
〈私たちも似た様なもんですよ〉
お前が言うとビックリする程説得力がある
ボツネタ
ゴブリン! 会ってみたいなあ。きっと緑色なんだろうな。テンプレをスルーし続けて早、えっと転生して……十年かな。ああ、ゴブリンファイトの日も近い
〈嘆かわしい。普通の、小説家になろうぜ。作品なら、十話くらいでやる所ですよ。私たち、もうちょっとで二十話行くのにまだゴブリンに出会った事もないなんてどうなんですか?
ちょっと本当にしっかりしてください。まじで、半月も書いてるんですよ。行き当たりばったりの書き込み風情がっ! いつまでも適当な事やってるんじゃねぇぞ!〉
ごごご、ごめんなさい! 嫌なんで俺が謝ってんの!?
異常おまけ
本編
Q:『なぜ私の後書きが長いか』
A:後書きを本編よりも先に読む先生に憧れてです。私もやってみたい
本編に『後書き』を書いて、後書きに『本編』を書くのを