Q:え、村の外は初めてなんですか? A:別に引篭だったとかじゃねーから
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トイレに流されるというのは、こんな気分なんだろうか?
激しい勢いの流れに俺は流されていく。しかし、もう回ったりしてはいない。凄まじく速いのだが、それを流している道がこれまた綺麗な物でどこかにぶつかるという心配がないくらいだ
しかしまあ、かれこれ一日は流され続けているのでそこはなんとかして欲しい。やる事がないというのはつまらないのだ。やる事といったらネッ◯ーの調理法を考える事くらい
ん〜。魚肉ってより、鶏肉に近いかな。鶏肉はいいね。ダイエットから筋肉作りまでなんでも出来る万能食材だ。前世も今世もあんまり食卓には並ばなかったが
〈おや、主。お後ろをご覧ください〉
全魔眼に言われて振り返る
なんでも全魔眼には死角がないんだと。俺の見えている右目の視界とは別に、三百六十度全体を見渡しているとか。俺自身にも危機感知能力があるから不意撃ちに強いが、全魔眼がいれば更に安心という事だ
まあ、報告してくれるかはコイツ次第なのだが
振り返った先には光が見えた。なんとも、アレは半年ぶりに見る日の光じゃないか?
ついに外に出るという事か
そう思った瞬間、流れが更に速くなった様な気がして来た
〈いやあ、流石にずっと暗い所にいるのは目にも良くありませんしね〉
「……ツッコミ待ちなのか。素でいってるのか解らん」
〈両方ですかね〉
くだらない会話をしている最中で洞窟の壁がなくなった。水面から日の光が乱反射する青い世界へと早変わり
世界が青くなった後も激流の勢いは衰えず、ぐんぐんと水面が近づき
俺は水面から飛び出した。それと同時に水の膜を消す。一刻も早く俺が作ってない空気に触れたかったからだ
どれだけの勢いがあったのか五十メートルは打ち上げられた
半年ぶりの太陽。いや、谷底は光る壁面だ太陽の光を届けていたから。七年ぶりの太陽だ。それだけじゃない
この匂いは潮。海水だ。転生して初めての海。ん? 俺が出てきたのは海という事か
打ち上げられた状態で辺りを見回す
やっぱり俺は海に出たらしい。海といっても湾内だ。Cの形をした街が囲む海と陸の境界。俺はそのど真ん中から水柱とともに飛び出て来た。これは水に立つと目立つかな?
街は赤い屋根瓦が多く。殆どが鋭角の屋根だ。小舟の様な漁船やヨットが停まり、見た目は異世界とは思えない。海外の港町って感じだ。船とかが鉄だったら現代に戻って来たのかと錯覚してしまってたかもしれない
〈主。落ち始めてますが〉
「ああ、もしかしなくても目立つだろ? 岸まで泳ぐ事にしたんだ」
〈海水って痛いんですよ?〉
海に立つ気がない事を察した全魔眼が嘆く。確かに海水は目にしみるが、お前それはなんとかできないのか?
〈いや、魔眼がなければただの目ですよ?〉
絶対嘘だ。だって喋ってるもの。小言が五月蝿いもの。生意気だもの
仕方がないので手早くゴーグルを生成して付ける。ご満足いただけたかな?
〈安心安全大事〉
そんな言葉が聞こえたと同時に俺は海に着水した
「ぶはっ! うえぇ。しょっぱ」
〈リュックの食べ物が駄目になってしまいそうですね〉
「そうなったら日干しにしてやる。うす塩味と思えばなんて事はない」
服を着たまま泳ぐ事になるとは思ってなかった。自動洗浄のおかげで清潔だが、洞窟でついた傷はどうしようもない。変え時だし、これが最期だと思えばいいのですよ
リュックもある事で、大分重い水泳を五分程している。するとどうだろう岸から小舟が一隻来るではないか。そのまま俺を乗せてもらえないだろうか
「おお〜い! 大丈夫かアンタ!」
ああ、寧ろ海から出てきた俺を見に来たのか。ありがたい事である
後頭部が肩甲骨まであるタイプの魔族だ。このタイプは筋骨隆々が多いのか? 見事な上腕三頭筋だ
「はい。大丈夫です。すいませんが、船に乗せてもらえないでしょうか?」
「ああ、無事なら良、いん……だ?」
おや? どうかしたのだろうか? 俺をじっくりと見て不思議そうな顔をしている
「お前さん。人間か?」
「え? いえ、ハーフエルフですけど」
獣人とのな。そう思いながら髪に隠れている耳を見せる
するとどうだろうか。最初に見せた笑顔に早変わり、人間嫌われてるの?
「ああ、なんだ。そうなのか。なんでも近々人間が攻めて来るって噂があってな。ここは人間の大陸に一番近いから緊迫してるんだ」
「人間が? 知りませんでした。じゃあ、不信感を与えない為に耳を出した方がいいですね」
差し出してくれた手を取り船に乗り込む。ああ、重かった
「まあ、エルフ連中も短い奴は隠したがる。長い方が優秀って風習があるらしいからな。そーゆう分ならそのままでも良いんじゃないか? 多少確認に手間がかかるかもしれんがな! がははははは!」
「ははは、考えどころですね」
「うんうん。まさに。それはそうとお前さん。一体何やったらあんな空から来れるんだ?」
うん? どういう意味だ? 俺は海から飛び出して来たのだが
〈主が飛び出して来たのを誰も見ていなかったのでは? 元々船に乗ってて、爆発したとか。魔法の失敗とか。適当にお答えておけばよろしいかと〉
ああ、なるほど。納得は出来たが、その答え方に関しては納得できない。アホか
「洋式便器みたいに流されて、成り行きで空を飛びました」
〈主。主〉
なんだ?
〈馬鹿なんですか?〉
なんて事をいうか。正真正銘噓偽りのない回答だというのに
「な〜るほどな! お前さんは七人の英雄王物語。ソウンアロ様に憧れてるのか!」
「……」〈……〉
ん? 誰?
〈いや、そこじゃないでしょ。どちらかというと、今で通じれちゃう事の方が私は不思議なんですけど〉
「そうなんですよ! ソウンアロ様に憧れてて。カックイーですよね」
「俺も子供ん頃読んだよ。ここはあの人の始まりの街だからな。観光客も多いんだ。まあ、最近は少ないけども」
よく解らないが頷いておく。仕方がないだろ? 本当にアレでこの魔族が納得するなんて思っても見なかったんだから
普通。お前なにいってんだ? って呆れられる所だったのに!
誰だよソウンアロ様って
〈はて、どこかで聞いた様な。聞かなかった様な〉
お前に心当たりがあるって事は、谷底に落ちてからか? じゃあ、俺もあるって事だよな? どこで聞いたんだっけな
〈いえ、一応。主の産まれてから三歳の途中までは記憶があります。しかし、その頃はこの世界の言葉や、文字を覚えるのに必死で、他の事を見てる余裕がなかった物で〉
お、お前が俺の物心つく前に存在してる事に寧ろ驚きなんだけど?
〈誰が主の記憶をその身体に継承したと思ってるんですか〉
爆弾発言です
おいいいい! この身体って他人様から奪って出来てるってことか!?
すっごい申し訳ないんですけど! 悲しい気持ちでいっぱいになるんですけど!
つうかよくできたねそんな事! 魔眼じゃムリだろ!
〈え? ああ、確か。着床しない運命の受精卵をムリクリくっつけたっぽいんで大丈夫そうでしたよ
転生に関しては一回限定の魔眼。転生眼を使ったんです。だから三年間も活動できなかったんですよ?〉
さも当たり前の様にいわれても困る
ふう。これ以上俺が理解できなさそうな話をするのはやめよう。頭が痛くなってくる
拾ってくれた魔族と全魔眼の二人と会話していると、いつの間にか騎士についた
最北端の街・ラサン
ソウンアロの伝説始まりの街にして、人間の侵攻で何度も滅びかけた街
この街に新た伝説を産む少年が現れた
マジでテスト近いんで次回の投稿は日が空きます
現在ブックマークをしてくれている十五名の方々本当にありがとうございます
日曜まで待ってくれると、私は泣いて喜びます
今週テスト。来月定期テスト
俺に死ねと?
2017年5月21日 誤字脱字修正