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第八話 目覚め

8000字弱と少し長いです。

 皆さんはソテーという調理法をご存じだろうか。簡単に言えばフライパンで焼いただけの調理法である。かっこつけた言い方をしているだけである。ハンナの、そして僕の女子力は高くない。出来る調理法は焼くか、煮るか、これくらいである。そもそもここでは調理器具はフライパンか鍋くらいしかないし、調味料も塩と胡椒そしてわずかばかりの酒しかないので一流シェフが居た所で出来ることは限られるが。


 此処が何処かだって? あれから初めての狩りを終えた僕は二十キログラム近くあるウサギを背負って小屋まで帰ってきた。おかげで日はとっぷりと暮れ、体にはどっかりと疲労がのしかかっている。それでも鼻をくすぐる油の匂いがこの疲労を和らげてくれる。そう今まさに僕が――あるいは彼女が――仕留めてきたウサギをハンナがソテーしている最中である。


「そろそろ出来上がるから食器を用意してくれるか?」

「ああ、解った。今日もおいしそうだな」


「美味しいのは保障するぞ、タルビーの肉だからな」

「いやいやハンナの料理だからおいしいんだよ」


「なっ……、冗談もほどほどにしろっ」

「冗談なんかじゃないんだけどなあ」


 ハンナは冗談だというが若干耳が赤い。まんざらでもないようである。実際美人の料理が食べられるのだから僕のほうも冗談ではないしな。


 しかしこちらに来てから一週間。まさかこんな美人と、新婚さんでも口の中が砂糖でジャリジャリするような会話をしながら食卓を囲むようになるとは人生解らないもんである。


 今日のメインディッシュは当然ウサギ肉のソテー、それと柔らかくなった黒パンMk.Ⅱと外の畑で採れた野菜のサラダである。正直食生活のレベルは、研究室に籠りっぱなしだった地球での暮らしよりいいかもしれない。


「それじゃいただきます。うん、やっぱりウサギ肉は旨いな」


 甘みのある肉にしっかり主張してくる塩コショウがたまらない。ここでこちらに来てからずっと疑問に思っていたことを彼女にぶつけてみる。


「ところでコショウって高くないの?」

「コショウ? この山ならそこらじゅうに生えてるぞ」


 あ、そうなんだ。中世ではコショウは高級品っていう先入観があるからな。いやそもそもこの世界の文明レベルは不明なわけだから、近代以上の文明レベルの可能性もある。どちらにせよこの辺境では解るべくもないが。


「町に行くと高かったりとかは?」

「言っただろう。そこらじゅうで採れるから安いぞ。というかアマネは随分値段を気にするな。商人にでもなりたいのか?」

「性根が小市民なだけだよ。値段が気になって味が解らなくなるような、ね。兎に角ごちそう様だ。美味しかったよ」


 楽しい食事の時間は美味しい料理によってあっという間に過ぎ去る。


「それじゃ片付けをするか」

「ああ、片付けは僕がやろう。それくらいは――」


 僕はそう言って立ち上がるが、同時に強い立ちくらみに襲われる。いけない今日の狩りで疲れてしまったか? と思うが、眩暈は一向に止まない。それどころか眩暈はだんだんと強くなり、心臓の鼓動は階段を全速力で駆け上がったかのようにどんどん早く、強く。いけない、このままでは――足に力が――どうして、床が近づいて――――

 

「アマネ? おい! しっかりしろ! アマネっ!アマネ――」


 ああ、彼女の声もどんどん遠くなって――――




 吹き付ける柔らかい風に誘われ僕の意識はゆっくりと覚醒へと押し上げられる。重い瞼を開くとそこに映っているのは知っているようで知らない天井。首だけを動かしてあたりを見回す。此処は……ハンナの寝室か……。寝室の窓は開かれて初夏の柔らかい日差しが差し込んでくる。おそらく自分は夕食のあと倒れてここに運ばれ、一晩経ったということだろうか。上体を起こし体の様子を確かめる。頭痛もなく倦怠感もない。むしろ休日に惰眠を貪った時のように目覚めは快適だ。


「ああ、起きたかアマネ。体調はどうだ?」

 ガチャリという音とともにドアが開きハンナが入ってくる。


「すごぶる好調だよ。ハンナが手当てしてくれたのか? それにベッドまで。ありがとうハンナ」

「べっ、別にお前のためにやったわけじゃない。お前が居なくなったらせっかく召喚したのにもったいないからな!」


 早口で彼女は捲し立てるが、その目には照れが見える。しかしまさかこんなところで“女王的驕媚言葉(クイーンズオブツンデレワード)”を聞くことになろうとは……。



 僕はゆっくりと上体を起こし彼女に問いかける。


「ところで僕はなんで倒れたんだ?疲労?」

「ああ、それなんだがな、少しアマネの体を調べさせてもらった。喜べアマネ、魔術を使えるようになってるぞ」

「えっ?」


 突然の告知に僕の脳は混乱する。というか倒れた原因を聞いたのであって魔法を使える使えないは聞いていないのだが。


「それは僕が倒れたことと関係が?」

「それはわからん。わからないが、アマネの体からは確かに魔力を感じる。まあ赤ん坊と同等かそれ以下のちっぽけな魔力だが、それでも確かに魔力が染み出ているぞ、おめでとう」


 半分馬鹿にしたような言い方だが魔法が使えるようになったことは素直に喜ぼう。結局倒れた原因はわからないままだが、倒れた結果魔力を得たのなら、体が魔力を得た結果びっくりして不調をきたした、倒れた原因についてはそんなところだろう。今は結果のみを甘受することにする。


「そうと決まれば早く魔法を使ってみたいね!」

 僕は満面の笑顔でそう告げる。


「なんださっきまで病人だったのにいやに元気じゃないか。それにお前のそんな笑顔は初めて見たぞ」

「新しい力を手に入れたんだ、研究者としても男の子としてもこんなに嬉しいことはない。そうだろう?」


「魔術師としては同意できるが、私は女だからな、言っておくと」

 彼女は口をとがらせ少し不機嫌そうだ。


「ああ、すまない。失言だった」


 テンションに任せてつい口走ってしまったことを反省しつつベッドから立ち上がる。


「よっと。とりあえず魔法を使ってみたいんだが、何がいいかなハンナ?」

「そうだな……。《ライト》の魔術がいいだろう。失敗してもけがをすることは無いだろうし、詠唱も不要だろう。一回見ているはずだからイメージもしやすいだろうしな」


 《ライト》の魔術というとあの光球を浮かべる魔法か。以前見た光景を思い出しつつ、右手を虚空に差し出しその手の上に浮かぶ光の球をイメージする……、が何も起こらない。


「何も起こらないんだけど……」

「光るイメージだけじゃだめだ。体の中の魔力を手に移動して光に変換するイメージを持つんだ。こう……、心臓からググッときて手のひらの上でパアッとなる感じだ。」


 それで解るか感覚派め。それで出来たら苦労はしない。僕は彼女の助言を早々に脳みその片隅に追いやり、自分の中で新たなイメージを模索する。


 今やりたいのは光源を作ることだ。よって白熱電球をイメージする。白熱電球を光らせるためには電気が必要だ。よって僕の中の魔力を電気とイメージし、電流が腕を流れて電球を光らせることをイメージすれば……。


 すると体の中心から何かが抜けていく喪失感と共にそれが腕を駆け抜け、僕の右手、上空五センチメートルにピンポン玉大の光が灯った。


「やった! 成功だ! って熱っうぅ!!」


 魔法の発動には成功したが、それと同時に現れた熱量に僕の右手が焼かれ、あわてて手を引っ込める。引っ込めるや否やピンポン玉大の光球は虚空へと霧散した。


「おお、すぐ成功したな。やはり私の教え方が良かったようだ。しかし熱い?≪ライト≫の魔術は火傷するほど熱くはないはずだが?」


 あなたのアドバイスはあまり役に立っていません、ハンナさん。それと熱いのは僕のイメージが良くなかったせいです。



「いや、イメージが良くなかった。もう一度試してみるよ。」



 火傷しそうになった原因は白熱電球をイメージしたせいだろう。白熱電球はその名の通り光と共に大量の熱をまき散らす。これは電気というエネルギーを光だけでなく熱という無駄なエネルギーに変換しているから起こることで、当然効率が悪い。エコが是とされる昨今ではもっと効率の良いLEDを使おうということになっている。


 よって次なるイメージとして白色LEDを思い浮かべる。これで火傷することは無いはずだ。新たなイメージと共に右手の上に光球が出現する。


「よし、今度は大丈夫だ」


 新しい光球は安定して白い光を放っており、先ほどのように火傷するほどの熱量も放っていない。魔法の発動は成功したと言っていいだろう。


「安定しているな。じゃあ次は光球をこうやって動かしてみろ。」


 ハンナはそう言って呼び出した光球を体の周りに自由に動かした。光球はまるで彼自身が意思を持ったのかのように彼女の手を、腕を、体の周りを不規則に飛び回る。


 同じことをしようとするがこれがなかなか難しい。光球を動かそうとすると、ある時はその場に縫い付けられたように動かず、かといって無理やり動かそうとするとあらぬ方向に光球が飛んで行ってそのまま立ち消えてしまう。それでも彼女曰く最初にしては動いただけマシだそうだが。しばらく悪戦苦闘しているとハンナから待ったの声がかかった。


「《ライト》の魔術はそんなものでいいだろう。次は《ウォータ》と《ファイヤ》の魔術を覚えてもらう」

「ちなみにその魔法の選定の意味は?」

「アマネが炊事洗濯が出来るようになる」


 ハンナはニヤリと笑いながらそう告げる。まあその二つの魔法の名前を聞いたときに答えは大体予想できてはいたが。こちらとしても炊事洗濯をアマネに頼りっぱなしは心苦しいので、これは喜ぶべきことだろう。


「とりあえずは《ウォータ》の魔術からだな。イメージは、こう、グワーッと体から湧き出す感じだ」


 その超感覚的な説明は継続するのね。正直何もないところから水が湧き出るなんてことはイメージしづらい。だが先ほどのライトの魔法で、魔力を動かす感じと変換するイメージは掴むことが出来た。あとはそれを応用すれば……。


 噴水をイメージしながら右手を上に向けて差し出す。体の芯から魔力を押し出す感覚で魔法を発動する。すると手のひらから水が湧き出したが――



「それで全力か?」



 僕の手のひらからは冷たい水がチョロチョロと勢いなく滴るばかりである。はっきり言って炊事洗濯に使える量とは思えない。それを察したのか彼女は少々不機嫌である。


 水の量を増やそうと力を込めてみたり、魔力をより押し出すイメージを固めたりするが一向に水量は増えない。ハンナはしばらく僕を眺めていたが、しばらくして飽きたのか大きく溜息をついて言い放つ。


「今日、確かに一つわかったことがある。アマネに魔術の才能はない。」

「そこまではっきり言われると傷つくんだけど……」


「事実なんだから仕方ない。魔術師の間では、魔術師自身がどれだけ大規模な魔術を行使できるかは生まれたときに決まると言われている。その程度の水量しか出せないことを考えると、才能がないと言って差し支えないだろう」

「生まれつきの才能ですべてが決まるなんて信じたくないけどねえ」



 ああそうだ、努力が実らぬことなどこの世に存在してよいのだろうか。

 もしこの世に神がいるのなら、神様はなんとケチでしみったれなのだろうか。


「なにも才能だけですべてが決まるわけじゃない。ある魔術を使用するために必要な魔力量は、その魔術に練達すればするほど減ってゆく。だからまあ、アマネ程度の魔力出力でも全く使えないという訳ではないぞ。それにしたって小さすぎるとは思うが」


 つまり僕の状態は瞬発力が他の人より、というか子供より低い状態ということか。ウォータの魔法を例にとれば、僕は他の人と同じ量の水を出すのにより多くの時間がかかるだけということになる。


「とりあえずアマネに家事は無理だな」


 心底残念そうに彼女は言う。


「ごめんね、役に立たなくて」


「なに、謝ることはないさ。アマネの教えてくれる現代知識とやらで十分にお釣りがくる。黒パンは実際柔らかくなったしな。それに、こうして話し相手がいるというのは存外悪くないものだ。」


 彼女は優しく微笑んでそう語りかける。こんな辺境でボッチでは話し相手が欲しくなるのも必然か。だからか、彼女の微笑みには若干の憂いが見える。


 僕のちっぽけなプライドのせいか、その微笑みを真正面から受け取ることに戸惑う。役に立ちたいという承認欲求が僕の中で首をもたげるが、人には適材適所があるのだと自分自身に言い聞かせ心の平穏を保つ。


「で、どうするアマネ? 《ファイア》の魔術も使ってみるか?」

「いや、それより先に教えてもらいたい魔法がある。」


「別にそれでも構わないが。なんだ? 《ヴォルフレアテンペスタ(暴炎)》か? 確かに私が開発した魔術で、私の十八番だが。ただアマネの魔力量ではもう少し簡単な魔術にしたほうが――」


「いやいや、何その字面だけでも危なそうな魔法。それじゃなくてほら、前に魔力が視えるって言ってただろう。あれを教えてほしいんだ」


 せっかく魔法が使えるようになったのだから、魔法について色々と調べてみたい。その時魔力が視えるか視えないかによって調べられる幅が大きく違ってくると考えられる。だから何としても魔力が視える魔法を習得したいわけで――。


「ああ、あれか。教えると言っても、私がある日何となく魔力が視たいと思ったら出来てしまったものだから、教えてくれと言われてもな。そのなんだ、困る」



 ハンナさん今度はイメージのヒントもなしですか。これだから天才肌というやつは。



 そもそもこの魔力を見る魔法、ハンナの勘違いで見ているのが魔力でなく何か別の物の可能性が無きにしも非ずだが、まあその可能性は置いておこう。

 さあヒントなし、魔力に対するイメージも貧弱。この状況でどうやって魔力を視るイメージを作るか?



 感じるんじゃない、考えるんだ。



 まず魔力を“視る”のだから、当然目を使っていると考えていいだろう。よって両の眼に魔力を集めることをイメージする。


 次にどうやって魔力を捉えるか。ハンナが言うには人の周りに漏れ出る魔力があるので、それを見て魔力量の大小を量っているらしい。僕は人間が魔力を纏っているイメージは想像しにくい。ならばどうするか? 答えは魔法を使った時の魔力を視る、である。魔法を使えば、使った魔力の大きさに対してそこから魔力が漏れ出ているはずである。


 よって解決法は魔法を使いながら目に魔力を集めるイメージを高めればいいはずだ。


「“水よ”」


 僕は短くそう唱え――別に唱える必要もないのだがまあ気分の問題だ――天に差し出した右手から弱く水が流れ出す。それと同時に自分の中の魔力を目に集めるイメージを固める。体の芯、心臓の近くに確かにそれは存在している。心の臓から右手に向かっている魔力の流れに、途中から支流を作り頭部へと押し上げる。


 魔力を集めるのは眼の奥だ。目の表側は単なるレンズに過ぎない。大丈夫だ眼の構造は頭の中に入っている。視神経に魔力を流し、網膜に魔法を作用させればきっと。


 眼の構造をイメージしたのが功を奏したのだろう。わずかばかりの試行時間で眼の奥がじんわりと暖かくなりはじめた。その状態で右手を見やると、湧き出してくる水と一緒に若干紫がかった煙が噴き出しているのが見える。またよくよく自分の体を見渡せば、非常に薄くではあるが煙を纏っているのが見て取れた。


 この紫煙がいわゆる魔力か。僕は魔力が視えたことに喜びつつ、成功したことを伝えようと魔法を発動したまま彼女の方向へ振り返るが……。


「視えたぞハンナ! ってうわっ!」


 振り向いた先にいたのは煙人間だった。


 いや、おそらく彼女からあふれ出しているのであろう紫煙は辛うじて人間っぽい形を保っているだけで、正直煙の球と形容したほうが正しいかもしれない。立ち上る魔力はその一部が、そう高くない天井に届いてゆらゆらと揺れている。


 僕が驚いて魔力を霧散させると同時に紫煙は薄れてゆき、煙玉の中から彼女が現れた。ニヤニヤと悪戯っ子のような表情を張り付けて。


「どうだアマネ。視えたということは、私の魔力の大きさが解ったんじゃないか?」

「正直僕のちっぽけな煙の量とは比べるべくもないね」


「まあアマネを驚かすために多めに魔力を放出したのもあるがな」

 彼女は誇ったように鼻を鳴らす。


「しかしこうまで差があると自信を無くすね……」


 僕は彼我の実力差にがっくりと肩を落とすが、落ち込んだ僕に対して彼女は何か言いたげである。


「いやアマネ、確かにお前の魔力はちっぽけだが魔術の筋はいいと思うぞ。その証拠に新しい魔術をすぐに行使して見せたし、何よりさっき行ったのは魔術の同時行使ダブルキャストだろう。魔術を覚えて一日目でこれは素晴らしい。魔力量が少ないのが本当に残念でならないよ」



 先ほどの悪戯っ子は鳴りを潜め、彼女はいたって真剣に語りかける。



同時行使ダブルキャストって、水を出しながら魔力を視たことかい? これってそんなに難しいのか?」

「私は天才だから簡単に出来るが、苦手な魔術師はそれなりにいるな。そうだな、どれくらい難しいというと、編み物をしながら話すくらい難しいな」


 また微妙にわかりづらい例えで。つまり慣れてしまえば問題ないということね。


「兎に角せっかく魔術が使えるようになったんだ。もっといろいろ試してみたらどうだ?」


 彼女は諭すようにそう言うが、ハンナは嘘がつけないタイプなのだろう。ニヤニヤとした表情を顔に張り付けて如何にも何か隠していますといった感じだ。


 彼女が何を企んでいるかはわからないが今はそれは置いておこう。彼女の言うとおり魔法の練習をすることにする。



 《ライト》の魔法を使って体の周りを動かしてみたり、光に強弱をつけてみたりしてみる。決して遊んでいるわけじゃないぞ。

 ちなみに色々試しているうちに光の色を変えることに成功したが、ハンナには宴会芸だなと切り捨てられてしまった。



 魔法を使えることに舞い上がってしまい、しばし時間を忘れ試行錯誤を繰り返して三十分ほど経っただろうか?創り出した光球はチカチカと点滅し始め、最終的には虚空へと掻き消えてしまった。おやと不思議に思い再度魔法を行使しようとするが何も起きない。


「ハンナ、魔法が発動しなくなっちゃったんだけど。ハンナ?」


 僕に語りかけられた彼女は目を見開いて、驚愕で顔を染めている。


「あ、ああ。魔力切れだな。しかしアマネは気持ち悪くなったり頭が痛くなったりしないのか?」

「いや別に何ともないけど?」


「おかしいな……。普通魔力切れになると、激しい頭痛と吐き気に襲われると言われているんだが……」



 おい、何か企んでいると思ったらそういうことかい。



「まあそもそもそう言われているだけだから例外もあるのだろう。そもそもアマネは魔術が無い所から来たわけだしな。私は魔力切れになったことがないから、ぜひ魔力切れの感覚を教えてほしかったんだが……」

「悪いけど、本人に断りもなく人体実験するのはやめてほしいんだけど」


 実験台にされたことに若干の苛立ちを覚えつつ口を尖らせる。


「い、いいじゃないか特に何もなかったわけだし。そ、そうだお腹が減っただろう?そろそろ昼食にしようじゃないか」


 目を泳がせながら彼女はわざとらしく席を立ってそう言った。




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