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魔法が使いたいんですよ

何となく書きました。

暇つぶしにでどうぞ。

「精霊よ、世に偏在せし火の精霊よ。我が呼びかけに応え、力をここに。集い、纏まり、万象を焼き尽くす火炎を成せ――【火炎球(ファイアーボール)】!!」


突き抜けるような青い空。輝く太陽の下。若人の活気に満ちた声が響き渡る。

場所は帝立中央魔導学院の演習場。

建物が隙間なく立ち並ぶここ帝都において、ぽっかりと空いた何もない空間。支援者である貴族たちの資本によって贅沢に土地を利用した校舎の一角だ。


この場に居るのは教師を除き全てが年若い子供達。

彼ら、彼女らは手に杖を持ち、詠唱を以ってこの世の神秘の体現である魔法を学び、そして使用していた所であった。

将来、この帝国を背負って立つ未来ある選ばれた子供達。

それぞれがこの名門の学校に通う事が許された名家、豪商の出だ。

その生まれの良さと魔法を扱えるという優越感により、誰しもがその顔を輝かせていた。


――ただ一人を除いて。


「おいおいまたあの落ちこぼれが魔法に失敗したぞ」

「下級魔法の【火炎球】でも使えないとか落第ものだろ」

「生まれも定かではない平民だしね。何でここに通ってるのか不思議で仕方がないよ」


ケラケラとあざ笑う声。

その声の先に居るのは一人の男子生徒であった。

他の学生が皆、魔法を見事に成功させているのに対し、彼だけが何もできずにいた。

嘲笑の声も聞こえないほどに必死になりながら杖を振るい詠唱を唱え続ける。

だがその努力もむなしく、マッチの灯程度の火花がパチパチと杖先から爆ぜるのみ。そこに成功する気配は微塵も無かった。


「……知ってるか? アイツ、陛下の推薦でここに来たって噂」

「嘘だろっ!? 何であんなのが? 陛下のお遊びか?」

「伝統ある子の学院に…。皇族は何を考えて……」

「――なんだ、呼んだか?」


生徒同士のひそひそと話し合いに凛とした声が混ざる。

発信源は見目麗しい――いや、凛々しいと言って過言ではない容姿と雰囲気を持った女生徒であった。

美しい金の頭髪を結い上げ、制服をピシリと着込んだその少女は生徒たちに厳しい視線を送る。

それを受けた彼らは、一様に黙り込み、顔を青ざめ俯いた。

この学院において、教師すら凌ぐ影響力を持つ、この国において最も高貴な一族の出である彼女。

皇族の一員である第三皇女の不評を買えばこの学院で――否、この国で生きていくことは出来ないからだ。

ゆえに思わず口から出そうになった皇族批判は致命傷となり得た

だが――


「あぁ気にするな。アレの事だろう。アイツについては私も常々疑問に思っているしな。本当、父上は何を考えているのやら」


第三皇女はソレを咎めたりはしなかった。

彼女自身も、この伝統校に何故あんな出来損ないが居るのか理解しがたいと考えていたからである。

一度、その事を彼女の父である皇帝に問うたところ、見事にはぐらかされてしまった事もあり興味があった。奴は何なのだ、と。


魔法を扱おうと必死に努力する姿は好意に値する。

だが何もできない乏しい才能については呆れるばかり。

実力主義のここ帝国において考えれば、唾棄すべき弱さと無能さを持った存在であった。


「……ふんっ、まぁいい。あんな底辺に構っている時間が惜しい。お前たちもそうだろう。下を見るな、上を見ろ。彼の『仮面の魔法使い』のように帝国の一翼を担う存在に成る事こそがこの学院生の義務なのだからな」


皇女の言葉に囁き合っていた生徒たちが頷く。

確かにその通り。下をあざ笑う暇があれば上を目指し切磋琢磨すののがここでの自分たちの成すべき事。

それを再度思い出した生徒たちは、それぞれ各々を高める練習を開始する。

皇女はその姿を眺め、満足げに頷いた後、最後にチラリと件の少年を見やる。


先ほどまでの話をまったく耳を貸さず、ひたすらに詠唱を繰り返しては失敗を続けている少年。

玉のような汗を流し、ソレを拭う事も無く必死に杖を振るう少年。

何もできない。だが、決して諦めない少年。


皇女はその姿に一度感心した後、自分も己を高めるために他の生徒たちと同じく訓練に取り掛かるのであった。



――そしてそこから少し時間が経った時。

皆の意識がそれぞれの訓練に向けられた時に、この演習場から一人の人間がいつのまにか消えていた。

それに対し、誰も気が付かない。

この訓練の時間が終わり、その日の授業が全て終了しても、誰も……。





















「グギャァァアアアアアアアァァァァァアアアア!!!」


豪咆。

天を舞う鱗を纏いし巨大な化け物。

その牙の並ぶ大口から吐き出されるその叫びが万物を震わせる。

翼をはためかせ、地上を睥睨する化け物の視線の先には鎧を着込んだ兵士に杖を携えた魔法使い達。

場所は帝国の東端、この世界に唯一存在する大陸の中央部。

以東に存在する人類未踏領域である魔の大地から人類圏を守るために建造された巨大な砦。そこが今、巨大な化け物――魔物も頂点、ドラゴンの襲撃に合っていた。


「おのれトカゲめぇ! 羽虫の様に飛び回ってないで降りてこんかいぃ!!」


砦の屋上部、クマのような体格をした髭面の男性が叫びながら杖を振り回している。

この砦の責任者である帝国の将軍である彼は、空から一方的に押されるだけのこの襲撃に腹を立て、撤退を具申する部下の制止を振り切りここまでやってきていた。

既に空戦ができる部下の魔法使い達は全てドラゴンに叩き落とされた後。

それを補うために展開された兵士たちも軒並み咆哮とブレスで打ちのめされ、今ここで戦える戦力はほぼ皆無となっている。

単に言えば、今この砦は陥落寸前であった。


「将軍! ここは砦を放棄して撤退を! 今ここで貴方を失う訳にはいけません!」

「ぐぐぐっ、帝都に送った救援通信の返信はどうした!? 近場の砦からは何もないのか!?」

「そ、それが……ドラゴンの瘴気によって通信が届いたか不確かでして。それに周囲の砦も同じくドラゴンに襲われ……」

「何だと!? くそ、まるで伝説に語られる魔王の襲来ではないか。ドラゴン共が結託して動いたのか?」


将軍の顔に焦りの色が出てくる。

そしてそれが致命的な隙となってしまった。


「ギィィィイイ…ガァアアアアァアァァァァァァアアアアア!!!」

「し、しまったぁ!?」


一瞬。

目を離した隙に空を舞っていたドラゴンが将軍目掛けて急降下。

鋭い爪と牙を以って、全身を砲弾に変え砦に突撃を仕掛けてきたのだ。

砦に張り巡らされた結界も、その巨躯を受けきる事敵わず張り裂ける。

将軍と部下も魔法の詠唱を行うが時すでに遅し。

ドラゴンの巨躯は吸い込まれるように将軍の居る一角へと向かっていく。もはや誰にも止められない勢いであった。


「お、おのれぇええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


将軍の絶叫が木霊する。

眼前に迫るドラゴンの大きく開く口内を睨み付け、一歩も引く事をせずに。


――こうして歴戦の将軍はドラゴンに殺された。

人類圏の守護を担う砦の崩壊とともに――




「――とはならないんだなぁコレが」



確かに存在していた未来。

将軍がドラゴンに殺され、砦が蹂躙される未来が覆される。

突如将軍の前に現れた仮面を被った魔法使いによって。


「グッ!? ガァアアアアァァァァァガガガガガァァァア!????」

「――ぇぇぇぇぇ…えぇ、ぇええええええええええええ!?」


ドラゴンの突撃が寸前で突然に止まる。

まるで見えない壁が将軍とドラゴンの前に出来たかの如く、全身をソコにぶつけ、跳ね返されるように空へと打ち上げられたのだ。

その光景を見て、将軍が目玉を剥き、先ほどとは違った意味合いを持った絶叫を吐き出す。

そしてその目は突如現れた仮面の存在へと注がれる。


長い杖を持った、全身をフードとコートでスッポリと覆った男性。

顔を仮面で隠し、声も変えてあるのか年齢も判らない不審人物。

だが将軍は知っていた。その存在が何なのかを。


「お、おぉおおおお!! 『仮面の魔法使い』殿ではないか! 何と久しい。もしや救援に!?」


――『仮面の魔法使い』

今や帝国において知らない人は居ない存在。

数十年前より確認される神出鬼没の大魔法使い。

帝国の危機に颯爽と現れては幾度と無く危機を救ってきた大英雄。

現在進行形の今を生きる伝説。


将軍は過去幾度と無くこの『仮面の魔法使い』に助けられて来た。

ゆえにその存在の持つ力を知っている。

故に湧き上がってくるのは歓喜と安堵。

既に彼の心の中では「助かった」という思いのみであった。


「はい。それに、えっと、久しぶり……です、ね?」

「うむ、最期は6年前に魔物の大群から助けてもらって以来だな! しかしまさか『仮面の魔法使い』殿が救援に来てくれるとは」

「微かですが救援の思念――じゃなくて通信をビビっとキャッチしましたんでね。既にこの件は陛下にも伝えてありいます。ですのであのトカゲを叩きのめせば後の心配は無いですよ」

「おぉ…流石は『仮面の魔法使い』殿。そ、そうだ! 他の砦も襲撃されていると…!」

「そっちはもう終わりました。残りはコレだけです」


『仮面の魔法使い』がチラリと上空に吹き飛んだドラゴンへと顔を向ける。

見えない壁に盛大にぶつかり、空へとはじき返されたドラゴンは怒りに顔を歪ませながら遠巻きにこちらを窺いながら翼を動かしている。

将軍たちと急に現れた新手の隙を伺っているのだが、ソレがまったく見つからず、何もできずに様子を見る事しか出来ないでいるのだ。

その隙の無さ。下手な事をすれば即ヤられかねない圧迫感をドラゴンに与えているのは『仮面の魔法使い』ただ一人。

堅牢な砦をただ一匹で陥落させようとした絶大な力を持ったドラゴンを、その正体不明の仮面の男は存在感のみで完全に抑え込んでいた。


「……睨めっこは嫌いだな。じゃあ将軍、さっさとアレ潰してきますんで貴方は引いてください」

「なに? 一人でやるのか? さっきは何とか凌げたようだが、たぶんあの個体はエルダークラス。魔法に対し強力な耐性を持っています。さしもの『仮面の魔法使い』殿でも危ないのでは……」

「いえ、余裕です。だって耐性は『魔法』に対してなんでしょ?」


心配する将軍を横目に、仮面の男がふわりと浮き上がりぐんぐんとその身を空へと昇らせていく。

呪文の詠唱も無しに高度の飛行魔法と思わしき術を行使した仮面の男。

その底知れない技量に将軍達の顔に驚愕の表情が浮かぶ。


生ける伝説。

まさしくその所業の一端を見た将軍たちは、はっと正気に戻り、この後予想される激戦の邪魔にならない様に撤退を始めた。


「うーむ、流石は『仮面の魔法使い』殿。昔よりもさらに腕を磨いておられる。しかし……あんなにフランクな口調の方であったか?」













「おうクソトカゲ、お前何しとるんじゃボケ。お前のせいで貴重な俺の授業タイムが潰れたろうが」


ドラゴンが舞う遥か上空。

そこまで上昇した仮面の男が毒を吐いた。

先ほどまで将軍相手に纏っていた雰囲気はガラリ変わり、どこにでも居る口が悪い少年といった具合だ。

しかしその身が発する威圧感は並ではない。

常人であれば対面しただけで気を失うほどの圧迫感を全身から吹き出しドラゴンを抑え込んでいた。

魔物は愚か、あらゆる生物のの頂点に位置する生命体であるドラゴンにとって、同族以外からこれほどの圧を感じるのは初めての事であった。

ましてやこの個体は歳経た上位種。気圧される事などこの百年では無かった久しい出来事である。

ゆえに最大限の警戒を以って空に浮かぶ仮面の男を注視するが……そこでさらなる困惑がドラゴンを襲う。


仮面の男――巷で『仮面の魔法使い』と呼ばれ、大魔法使いと称されるその存在からほとんど魔力を感じ取る事が出来なかったからである。

この世界において強者か否かはその身にどれほどの魔力を内包するかによる。

その量によって扱える魔法の強さや肉体の強度に差が出るのだ。


だがこの仮面の存在からはソレがまったく無い。

無詠唱で空を飛ぶ魔法を行使し、ドラゴンの突撃を難なく防ぐ障壁を張れる存在が、である。

人とは違う感覚機能を持ったドラゴンゆえに気が付けるこの事実。

その事実は感じ取ったドラゴン自信を混乱させていた。


「……なるほど、俺に魔力が無いのに何故? って考えてるな。けっ、他のトカゲと同じようなこと考えやがって。考える事は皆一緒ってか? 仲がいい事で」


ドラゴンは人の言葉を解する。

そのため、仮面の男が発した内容も理解でき、そして同時にさらなる驚愕に混乱を深めた。


「『馬鹿な、我が精神防壁を突破したのか!?』『無詠唱で? 人間が有り得ない!』『魔力も感じ取れない雑魚が』……って、てめぇ!! 人が気にしてる事を! ゆるさん!!」


勝手に考えていることを読み取っておきながら怒り出す。

まさしく理不尽。そんな仮面の男はその仮面の上からでも分かるほどに顔を怒りで歪ませ、バサリと全身を覆っていたコートから両手を前面に突き出しドラゴンへと向ける。

ドラゴンはそれに反応し、何が来ても即座に対応できるように身構えた。

ほんの少しでも魔法の行使の予兆が見られたならば反撃に移れるように、と。


だが、その備えは発揮される事は無かった。


「――ギッ!? ガァアアアアアアアアアァァァァアア!!!??」


予兆なく、突如全身を襲ったのは強力な圧力。

全方位から、その身を叩き潰さんとするほどの凄まじい力が掛けられる。

魔力は一切感じ取れない。だというのに、どんな魔法よりも凶悪で、ただ純粋に強いだけの「力」による単純な蹂躙を受けたのだ。

例え帝国の扱う魔導大砲を雨あられと浴びたとしてもこれほどの衝撃は有り得ないだろう。

ドラゴンは自身の肉と骨が軋み、歪むのを感じながら絶叫をあげる。

仮面の男はソレを睥睨しながら、スッと手を天に掲げ――


「這いつくばれ」


――無慈悲に振り下ろした。


ドラゴンの姿が空から消える。

そして次の瞬間、辺りに響き渡るのは轟音と振動。

それは天を舞っていたドラゴンが瞬時に、地面へと勢いよく叩きつけられて発生したものであった。


ひび割れる大地。半分ほど埋め込まれたドラゴン。

抵抗は愚か、反応する事さえ許さない圧倒的な攻撃によって一方的に蹂躙される魔物の頂点。

それを行ったのは仮面の男。

魔法に対する強力な耐性なんてものは微塵も関係ないかのように、一瞬で対象を捻り潰した生ける伝説。

その伝説は、地に埋まり瀕死となったドラゴンを遥か上空から見下ろしながら一言呟いた。


「じゃ、サヨナラ」


それを聞いたものは誰も居ない。

優れた五感を有するドラゴンも、その言葉を耳にすることは出来なかった。

何故ならば、その言葉と同時に一瞬にして全身が燃え上がり、断末魔の叫びをあげる事になったからである。


魔力も何も感じられない炎。

唐突に燃え上がり、細胞の一つ一つから出火している彼のような業火。

火を吹くドラゴンの耐火性に優れた身。それを無視し、どこにでもある薪の様に轟々と燃え上がらせる。

仮面の男の呟きはその音と絶叫に消され、誰にも聞かれる事なく溶けて消えていったのだった。














「もしもし、終わりましたよ。あぁ…うん…全部ぶっ殺しました。後は将軍に任せて帰りました」


日も暮れた夕暮れ時、帝都に位置する魔導学院に併設されている寮の一室でとある少年が喋っていた。

ベッドにうつぶせになりながらバタバタと足を動かす彼は、学院において落ちこぼれだと散々他の生徒から馬鹿にされていた男子生徒であった。

そんな彼は、枕元に在る通信用の魔法水晶に向けて先ほどから言葉を発している。

返ってくる声はどこか威厳の感じられる中年男性のもの。

だが少年は何も気負う事無くだらだらと、形だけ取り繕った敬語モドキで会話をする。


「まったくさぁ、何かある度に俺を頼るのやめて下さいよ。おかげで今日の貴重な授業が潰れてしまいましたよ。いや、ここに通えるのも全部陛下のおかげですけどね? 前から自分、言ってましたよね。東の防備はもっと整えましょうよ、って。」


少年の会話相手。それはこの帝国のトップでもある皇帝であった。

普通なら絶対に在り得ない、国家元首との私用での通信会話。

ましてやソレを不敬とも言える口調で――まるで良く見知った親戚のおじさんと会話するかのように話すのだ。

他人がこれを知ったならば確実に卒倒するであろう出来事。

それが学院の寮内の一室で繰り広げられていた。


「確かに自分は『仮面の魔法使い』の『二代目』を師匠から襲名…ってか無理やり押し付けられましたよ。でも魔法がろくに使えない俺が皆から『流石大魔法使い!』『生ける伝説!』って言われる気持ち分かりますか!? あーもー苦痛ですよ苦痛!!」


素十年前よりこの帝国で活躍する謎多き『仮面の魔法使い』。

その仮面の持ち主は、今から数年前にこの少年となっていた。

この事実を知るのは少年の師匠である先代『仮面の魔法使い』と彼の友人であった皇帝だけ。


「うぇー魔法使いたいー。呪文を唱えて空を駆け、炎の嵐を生み出し、天を引き裂く大魔法使いたいー」


そしてその事実と同時に、もう一つの秘密も彼らは共有していた。

それは二代目である少年がまったく魔法を使えない事。

だがしかし、魔法以上にとてつもない力を有しているという事実を。

また、これと同時に、少年が異様に魔法に対して憧れを抱いているという事も。


少年は魔法に憧れていた。物凄く憧れていた。

ただ、ちょっと特別な力を持っているだけの、そんな少年であった。


別に帝国の為に尽くしたいだとか、魔法でお金を稼ぎたいだとか、戦場で活躍して名誉を手に入れるだとかではなく、ただ単純に魔法が使いたいだけであった。

憧れの原風景は幼少時代。突如現れた魔物の群によって焼き尽くされる故郷の村を、颯爽と現れ助けてくれた一人の魔法使い。

仮面を被り、節くれだった長い杖を振るい、数多の魔法を駆使して魔物を撃退した少年の英雄。『仮面の魔法使い』。


瞬く雷光。吹き上がる火炎。凍てつく吹雪。

魔法使いが詠唱を唱えると同時に繰り出される数々の魔法に少年の心は激しくときめいた。

そして決意したのである。絶対に自分もあんな魔法使いになろう、と。


だが現実とは残酷であった。少年に魔法使いとしての才能が皆無であったのだ。

血を吐く努力を重ねたとしてもまったく意味を成さないほどの無才。

だが少年は決して諦めず、いつか見た魔法使いの様な存在に成る事を夢見てひたすらに日々を過ごしていったのである。


「うー……ん? 魔法よりもっと素晴らしい力を持っているじゃないか、って? ふ、ふざけんなぁーーーー!! 何言ってんですか陛下! 魔法より格好いい存在なんて無いんですよ! 有用? 知るか、それよりも使いたいか否かです! まぁコレのおかげで師匠に拾ってもらえて陛下と縁が出来て学院に通えたから感謝はしてますけど!!」


生まれた時から備わっていた力。

古い文献に、おとぎ話の中だけに出てくる創作と思われきた存在。

ソレを魔法の練習の傍ら、手慰みで弄って遊んでいたところを偶然通りがかった『仮面の魔法使い』の中身に見つけられ、そのまま成り行きで弟子入りという名の監視対象になった事を少年は思い出す。


少年が持つ力。それは俗に『超能力(サイキック)』と呼ばれるものであった。


例えば触れずに物を動かしたりするサイコキネシス。

例えば人の心を読み取るテレパシー。

例えばどんな所にでも転移できるテレポーテーション。


他にもプレコグニション、パイロキネシス、クレヤボヤンス、etc……。

その全てを少年は自然に扱う事が出来ていた。


魔法と違い、魔力を消費せず、範囲も効果も思いのまま。

海に穴をあけ、山を根こそぎ引っこ抜く事も可能なのほどの出力を持った規格外の存在。

それが少年であった。


ゆえに『仮面の魔法使い』は少年を監視し、いざ何かあった時には相打つ覚悟で引き入れたのである。

だが……その心配はまさしく無用であった。

少年にとって、その神域の力はまったくもって興味の対象外であったからである。

使う事も、鍛える事も、ソレを使って何かを成す事も、全てどうでもいい事であっただ。


少年が唯一興味があった事。それは魔法を使いたいという思いだけであったのだる。


「陛下ぁ、解りませんか? あの詠唱を唱える時の素晴らしさや杖を振るう時の所作の美しさが。味方に守られ、後方で準備をして、一撃を叩き込む! 俺の超能力みたいな無消費でぽんぽこ大破壊をふりまける万能能力とか縛りなさ過ぎて夢がないです。そう、魔法には浪漫があるのです!……え? 分からない?」


世界を滅ぼし支配できる超常の力を持った少年はただの魔法狂いのマニアで人畜無害な存在であった。


「まったく、浪漫を解せない大人にはなりたくないですねぇ。じゃ、もう遅いですから通信切りますよ。砦の後始末はよろしくお願いしますね。…へ? 娘の件って……あぁ、第三皇女様の護衛の件ですか? まぁ暇なら守ってあげますよ。陛下には借りがあるんでね。ちなみにこの前も暗殺者が乗り込んできてたんでひっそりと処分しました。報告? はいはいまた今度しますよー」


最後に爆弾発言を皇帝に投下し、軽い挨拶をもって通信を終了する。

少年はその後、次の日に行われる魔法の授業のための予習を行うために教科書を持ち出しベッドの上でそのまま読み更けた。

何度も何度も繰り返し読み込まれたソレは、買ってから二月と経っていないのに、もうすでにくたびれ始めているほどであった。


「あー明日の授業は待ち遠しいなぁ。早く魔法をバシバシ使えるようになりたいなー」


魔法よりも遥かに強大な力を持つ少年は、今日も明日もこれからも、ただひたすらに夢を追う日々を過ごしていくのでった。





主人公が超能力で魔法使いと戦ったり努力したり魔王ボコったりとか話に出来ればなぁ。

ただ、話のネタが思い浮かばないのよね。

超能力って万能すぎでしょうよwww


しっかし三人称って書きやすいのかどうなのか分からんね。

基本一人称で戦闘は三人称とかOKなのかなぁ?


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