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魔術師の人形姫  作者: 銀シャリ
2/11

1 目覚めれば緑色

 少女はふわふわとした心地でそれを眺めていた。

 緑。きれいな緑色だ。

 深い色をしているのに、透明感がある。水分が光をきらきらと反射して、ちょっとした宝石のようだった。

 もっとはっきりそれを見ようと、少女はゆっくりとまばたきをした。

 視界がいったん遮断されて、より鮮明になって戻ってくる。


「……あ?」


 語尾をあがり調子で吐き出された音は、お世辞にも可愛らしいとは言えなかったが、状況を考えれば仕方のないことかもしれない。

 目を見開いた少女の斜め上あたりにある緑色が、ゆるりと下のくぼんだ三日月に形を変える。

「おはよう、『白雪姫』」

「ィ、っきゃあぁァああぁ――!!」

 少女は耳に突き刺さるような悲鳴をあげて、自分に覆い被さっていた男を突き飛ばした。






 張りつめた空気が部屋を満たしている。

 近付こうとするたびに悲鳴をあげられ、しまいには枕を投げつけられた男は、とりあえず少女に接近することを諦めたようだ。

 彼は部屋の入り口近くに椅子を置き、そこに腰を落ち着けた。

 少女はというと、部屋の窓辺に張りつくようにして男をにらみつけている。二人は対角線上の位置にいて、間に挟まれたベッドはさながらバリケードのようだった。

「何か勘違いしているようだから言っておくけど」

 痛むのか、枕が直撃した鼻をさすりながら男が言う。

「俺は別に、君にいかがわしいことをしようとした訳じゃない。……ちょっとややこしい事情があってあんな態勢をしていたけど、やましいことは何もないんだ」

 少女は無言のまま、男をにらみ続けている。

 言葉をさえぎられなかった安堵か、沈黙への焦躁か、彼は段々と饒舌になっていく。

「ええ、と。それで、その事情っていうのを今から君に説明しようと思う。信じられないかもしれないけど、信じてくれないと俺も君も困ったことになる。だから、」

 とりあえず落ち着いて聞いてもらえないだろうか、と言葉を続けようとして、男はぎくりと身を硬くした。

 自分をにらみつける少女の瞳から、透明な雫がぽろぽろと落ちていた。

 よくよく少女の様子をうかがえば、彼女は顔面蒼白で、固く握られた指先は色をなくしている。巻き込まれたスカートは、きつくしわが寄ってしまっていた。その状態から微動だにせず、男をにらみながら泣いている。

「す、すまない!」

 うろたえて思わず少女の方へ手をのばした男だったが、近付いて触れる直前でその動きをとどめた。少女が大きく身を震わせたのだ。

 男は素早く手を引っ込め、逡巡してうつむいた。

「……すまない。本当に」

 ためらいながらもかけられた謝罪の言葉と、その気遣わしげな表情に、少女はほんの少しだけ警戒を緩めたようだ。何か言葉を発しようとして、口が開かれ、

「っ……!?」

 かくん、と少女の身体が突然力を失った。

 前のめりに倒れかける身体を、男の手が支える。

「心配しなくても大丈夫だ。……だけど少し、眠ったほうがいい」

 男の声が、少女を安心させるように降ってくる。

「君が起きたら、今度こそ話をしよう」

 男の言葉に小さく頷いて、少女は意識を手離した。

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