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      * 紅孔雀

フィルガの母親の少女時代の絵画を見せられ、そっくりだと言われても、ディーナにはそうは思えません。

だから、何なの?(言われなくても察しはつくけど)

思い切り、嫌な予感的中・・・・・・。


「紅い孔雀など・・・・・・。」

 ディーナはフィルガから目線を外さずに、一歩あとずさった。

「そんなものこの世に存在しない。見たこともない。聞いたこともね」

「おや?」

 フィルガは薄く笑み浮かべながら、半歩踏み込む。

「ここに――。御出でではないですか」

 そういいながら、手を差し伸べてディーナの髪の一房をからめ取る。

 

 ぞっとした。

 

「・・・ッ!!ふざけないでっ!」

 怒りと、言い知れぬ本能的な恐れが同時にわく。

 自分の髪を弄ぶ、その手を勢い良く払いのけた。

 だが間髪入れずに、手首をわしづかまれて絵画の真正面に引き戻されてしまう。

 両肩を大きな掌が固定し、身動きが取れなくなった。

 嫌でも思い知らされてしまう、自分の非力さが悔しい。

 

「よぅく、見て下さいディーナさん。孔雀はちゃんとここにいるでしょう?」

「何を・・・・・・?さっきからっ」

 理解できないままに、促されるがままシィーラへと真向かう。

 

 日の光の下、あわくやさしく、微笑む少女。

 白孔雀の異名そのままの、白い羽根をまとっているかのような出で立ち。

「――!?」

 薄い布地を幾重にも合わせ、裾の広がりがまるで、孔雀が今まさに羽根を広げんとしているかのように思わせるドレス。

 腰のやや高い所に押さえがあって、なおさらすそが歩くたび(ひるがえ)る。

 なんとも歩きにくい、この衣装の着心地をディーナは知っている。

 絵画の中の純白は光のせいなのか、まとう少女の肌の白さが見せるせいなのか。

 

 たった今ディーナが身に着けているドレスは、純粋な白というより幾らかクリーム色だ。

 違いといえばただ、その一点のみだった。

 

「これ・・・・・・。」

 やっと気がついた。              

 今、ディーナが身に着けた衣装は紛れもなく、彼女のものだ。

「ですから、よくお似合いだと」

「・・・・・・正気なの?」

 腹立ちのあまり語尾が震え、言葉を思うようには紡ぎ出せなかった。

 

「本気ですよ」

「違う!!“正気で言っているのか”と、訊いている!!」

「正気ですとも。気は確かですよ」

「だったら、なお性質(タチ)が悪いわ」

 

 我慢の限界だった。無礼にも程がある。

 ディーナは肩に置かれた両手を振りほどくと、フィルガへと向き直った。

 そのまま勢いに乗せて両の拳で、フィルガの胸を打ち据えようと振りかぶる――。

 

「ふざけないでっ!」

 難無くかわされ、拳を両方とも奪われたまま、ディーナはフィルガをねめつける。

 正直そうすることくらいしか、出来ないでいた。

 両腕を引き抜こうと、身をよじらせてみたがビクともしないのだ。

 歴然とした力の差に、内心焦りと恐怖ばかりがつのって行く。

 だが、それすらも振りほどこうと、ディーナは抗うのを止めようとはしなかった。

 

「・・・・・・。」

 

 無言のまま薄く笑み浮かべ、フィルガはディーナを見下ろしている。

 自分のうかつさと無力さに、改めて悔しくて涙ぐんでしまった。

 なんでまた、こうものこのこ付いて来てしまうのか。

 いい加減、学習能力のなさに愛想も尽きた・・・・・・。

 ところだが、いかんせん自分自身なので見捨てることも出来やしない。

 

 背後で気配を探ってみる。

 

(誰か、誰か、誰か――!)

 

 ***

 

 だが、まるで人の気配など感じられなかった。

 

(誰でもいい、誰か!)

 

 ――ダレデモ、イイ?

 

(そうよ!この際、この男を振り切れるのならば・・・・・・。)

 

 ――・・・ナニモノデモ、イイ・・・・・・?

 

(何者であっても構わない!!)

 

 何者であっても構わない・・・・・・?

 

 ほんとうに?

 

 ***

 

 勢い、何者でも構うものかと本気で願ったのは本当。

 でも、そんな心の叫びにまで、問いかけて来るのはそれこそ一体・・・・・・?

 誰なんだろう。

 

 ***

 

 容姿だけではなく、能力まで――。

「そこまで一緒だというの?」

「出来すぎだとお思いでしょうけどね。彼女の周りをうろつきたいモノ達が、気がついて

 しまいました。・・・先程彼女は多分、強く呼んでしまったようですから。アイツ等。

 結界との境目で騒ぎ立てるものだから、気が散って仕方がない」

 フィルガは右耳に手を押し当てて、瞳を伏せた。

 

 少し集中しただけで、圧力を全身に感じる。

(数が増えている・・・・・・。)

 離れていても、結界の主であるフィルガには、接触を試みるモノ達の存在が

 ひしひしと伝わってくるのだ。

(さすがにあいつ等、目ざといな。どうせ入れやしないのに、鬱陶しい)

 

「あのコ、言いたがらないでしょうに。ここにいる限り、力は使わないように努力してるんじゃないの?」

 忌々しそうにフィルガが手を下ろし、集中を解いたのを見計らってルゼが語りかけてきた。

 ひとつ、強く瞬いて頭を打ち振ってから、気遣わしげな祖母へと向き合う。

「直接尋ねなくても、近々彼女は動きますよ。そうなったら結界は、完璧に機能するかどうか。

 ・・・・・・俺にもちょっと、わかりませんね」

「――ふぅん?」

「・・・・・・何ですか?」

「そうなるように仕向けたんでしょう」

「当然でしょう」

 

 見透かされているのだ。流石です、おばあ様。

 フィルガがこの館に生まれてから、二十二年間ずっと見守ってきた人に敵う筈もない。

 やや心配そうな眼差しを向けられているのに、それに気づかないふりをするくらいしか出来ない、若造なのだ。――自分は。

 

 祖母の眼差しに込められた、わずかな批判。たしなめる様な。

「少し、強引過ぎない?」

「承知の上です」

「あら、そぅ」

 

 きっぱりと答えたフィルガに、ルゼは小さく呟いたきり、それ以上何も言わなかった。

 

 


フィルガ、暴走始まってます。彼はかなりイタタなキャラだな、と哀れに思えます。ディーナもがんばって対抗して行きます。二人の対決はまだまだ序の口です★男と女の(運命の?←大げさ。)対決が好きです。

――甘い関係には二人、まだまだ遠い。ガンバレ。若造!みたいな。


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