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       * 種明しの時

月日というのは、おかしいくらいに早いものですね。


おかしい。こんなに間あけてましたか!?


すみません。


 

 いよいよ、種明かしの時がきた。


 ただ、それだけだよ


 ・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・


【そうだよ。勝手をしてもらっては困るな。いくら記憶を差し出しているとはいえ、ね?】


 差し伸べた左腕に(いざな)った、孔雀を肩に導く。孔雀がこちらを見つめる。ヅゥオランだ。

 しかし様子がおかしいのは明らかだった。

 おしゃべりで人懐っこいヅゥオランが、ただの置物と代わりが無いほど大人しい。

 意識は丸ごと奪われ、トゥーラの目としての機能を働かさせられているようだ。


(ヅゥオラン、大丈夫?返事をして!)


 声には出さず呼び、今はガラス玉のような眼を見た。

 返事は無い。

 その瞳が映すのは虚無だ。


 ディーナはその眇められた眼差しに畏怖を感じ取った。しかも少年と孔雀、両方の。

 トゥーラは自身の瞳だけではなく、孔雀の眼差しを介してもディーナを責めているようだ。

 それは直接、自分に害なすものではなかったが、底知れぬものを感じずにはいられない。

 トゥーラが一歩踏み込んできた。

 彼のまとうローブの裾の刺繍、波に似せた模様が打ち寄せるかのように見せる。


 ディーナは後退しそうになる足をその場に踏み留めた。

 これ以上、下がってはならない。フィルガ流に言うのなら、己が領域とやらを守るために。

 しかし、微々たる小波(さざなみ)でも、ディーナを侵食しようとする気迫に満ちている。

 正直、自分の無力さに逃げ出したい。

 それでも踏み止まれているのは、ディーナを庇って前に一歩踏み出した、ダグレスの存在を心強く思ったおかげだ。


 そんな自分はやはり卑怯だ。苦笑するというより苦々しさで口元が歪んだ。


「勝手?何を言っているのか解らないわ。私はディーナ。ただそれだけ。その存在の価値など意図など、他人に決められたくなど無いわ!」

【言うね。ただの僕の・・・・クセに】

「な、何?」


 不覚にもその底冷えしたかのような眼差しに竦む。

 ほんの一瞥(いちべつ)、くれられただけだったというのに。

 時間で計るまでもない、ほんの数瞬またたく間だった。

 トゥーラはすぐさま孔雀へと眼差しを向けている。

 その幼く、か弱いともとれる表情の中で、眼差しだけが以上に鋭い。

 いや。それだけではない。

 彼の異質さが際立つのはそのまとう雰囲気も上げられる。

 彼の周りだけひどく・・・ひどく静かなのだ。

 静まり返っている。

 何一つさざめかない湖面に臨んだかのような畏怖を覚えた。

 そこに潜むはずの、命の気配がまるで感じられないから。


 今さらながら、トゥーラの視線によく耐えられていたものだと思い当たる。


 彼自身も気取られぬようにとの配慮もあったお陰かもしれないが、こうもひたすらに己の在り様をつぶさに見逃すまいとする視線など他に例えようも無いではないか。


 慈しみ、哀愁を込めて見つめるルゼとも、何らかの期待に満ち満ちた視線寄こすフィルガとも違う。

 それこそ、天と地ほどに!


(フィルガ殿、ごめんなさい)


 心の中でひっそりと祈るように、詫びる。

 瞳を一瞬だけ伏せると目の裏に浮かぶのは、冬空の曇天の色彩だった。

 それはディーナを包み込んで鈍く深く輝く。


(でも、もう引けはしない。確かめたいから。真実を知って確実なものにしたいから、フィルガ殿)



 ””トゥーラよ。何のつもりだ。そこを避けろ。嬢様が橋の向こうへと渡りをご希望だ””


【いいの、ダグレス?また君は手綱を・・・こちら側に留まるためのいかりを失って、さ迷うはめになってもさ】


 ””我はそうはならない””


 ダグレスは凛と言い放った。

 顎をそびやかす少年に、対する黒い獣は顎を引いた。しかし脚は引かない。

 一角の先が少年へと向けられる。

【何を根拠に言いきるのさ!僕は反対だ、ディーナ。君は一生ジャスリート家の領域から出るべきではない。一歩たりともね。だから、行かせやしないよ】

「何故?一生ってそんな」

【決まっている。むざむざ僕の最高作品を人に――神殿の術者(バカ)共にいい様にされるなんてガマンがならない!僕の血を受け継ぐ者にならまだしも】


(最高作品?)


 先程、聞き取れなかった部分はきっとそこだ。

 トゥーラは何を言っているのだろう?

 耳を疑うというよりも、その身勝手極まりない発言にその性根を、正気を疑う。


「そこをどいてちょうだい、トゥーラ!私は自由よ。どこへだって好きなように行くわ」


【なぜ?】


 ふいに可愛らしく小首を傾げて、少年は問うた。


「何故って!」

 訊きたいのはこちらの方だ、とばかりにディーナはトゥーラを睨んだ。

【君の行きたい場所はフィルガの側だったはずだ】

 きっぱりと少年は言い切った。

【それすらも記憶に無いのは解るけど、深いところでは覚えてはいるだろう?ねぇ、ディ・ルーマ?】

「ディ・?何?私はディーナでしょう」

【ああ。そうだ。君は自分の名を忘れかけて、それでも必死でしがみ付いたんだ。だから、歪んでしまった。混乱して少しばかり名を取りこぼしたとしても責められない。しかし、君が真に大事にしたい名はどちらであったかな?君が彼から唯一授けられた大切な名は?】


 また、だ。


 のがれたいと願うのに、身体が動かない。

 まばたきすら封じられたディーナの眼前に、トゥーラの手が迫った。


 嬢 様 ? や め ろ 、 ト ゥ ー ラ ! も う 、嬢 様 の 好 き に さ せ て や れ ぬ の か


 そんなダグレスの叫び声が遠くで鳴り響く。


 ・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・


 橋を吹き抜ける風が今日は凪いでいる。



【ディーナに何をした!トゥーラ】


 掛け付けた時は既に遅く、フィルガは最悪の結果を覚悟したと言ってもいい。


 薄淡い空色の瞳に、色素の薄い金の髪の未だ幼さの抜け切らない少年。

 左肩には孔雀を止まらせ、右手には闇色の獣をはべらせ、彼は微笑んだ。

 その傍らに寄り添うように立つのは、紛れも無くディーナだった。


 ただし、彼女の焦がれるはずの銀の獣を前にしても何の反応も示さないが。


 それはディーナであって、ディーナではない。

 また意識を追いやられたのは目に見えて明らかだった。

 日を置かずにこうも意思を奪われては、ディーナの精神に傷が付く。

 術者としてそう冷静に見立てる。

 そんな自分が(いと)わしかった。

 その思考を振り切るためにも、声を張り上げる。

 恐怖に囚われてはならない。


【ディーナ!!返事を、どうか!白雷っ!ダグレス、貴様が付いていながら】


 ””オマエに言われる筋合いはない””


 静かに黒い獣は答える。

 その紅い眼がたぎる様に輝く。

 彼とて怒っている。トゥーラのやり方に。


(では、何故?)


 大人しく控えて、トゥーラの邪魔をしないのだろう。

 その真意を量るために真向かうべきは、獣ではなく少年の方だろう。


 フィルガは視線を移し、睨み据えた。

 少年は満足そうに顎をそびやかして、目を細めて見下ろしている。


【よく来たね。紅の名を持つ、銀の君。もっと遅いかと思ったのに。その跳躍力は誰かさん譲りだものね。感謝する事だ】


 トゥーラのからかうような口調で皮肉を言われても、それに反応する余裕など無かった。


【さぁ、術者対決と行こうじゃないか。準備はいいかい、フィルガ?】


 答えを待たずして、一歩踏み出したのは少女のつま先だった。





 

『いいかげんにさぁ・・・しなよ?』


トゥーラ風。


おおおおおお久しぶりでございます。

清清しいほどアクセス数はこざっぱりとしたものですが、何気に書く気は投げてません。

そんなこんなの「あの橋」にお付き合いありがとうございます!


そろそろ種明しです。


なんのこっちゃ?でしょうが。


実はそのキャラに「なりきって」かけるのは「トゥーラ」と「ダグレス」と「ルゼ」であります。


他キャラとは対話しつつ話を進める感覚に近いです。


この三名の共通するものはなんだろうかと自問自答。


早く、橋(物語)のむこうに行きたいです。



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