第二章 * 孔雀、お目見え
やっと状況説明されるようですが、まだまだ自由に身動き取れない様子のディーナです。
事情を説明するからと、資料室なる部屋へと案内された。
気持ちばかり地下に造られているようで、ディーナは慎重に階段を下る。
ほんの五段ばかりなのだが、ドレスのすそが長く、ひらひらとまとわりつくのだ。
「気をつけて」
先を行くフィルガに手をとってもらい、最後の一段はぴょんと飛び降りた。
「フィルガ殿。この服、不自由」
右手を引かれたまま、左手でドレスのすそを摘み上げて文句を言う。
乳白色の色合いが、優しい淡い印象の衣装。
それがかえって、自分の赤毛を鮮烈なものに見せてしまう気がする。
やや腰周りを高くから取られているため、背筋は伸びるがキュウクツで堪らない。
肩に落ちる自分の髪を横目に見ながら、ため息混じりに付け足す。
「・・・・・・せっかく貸してくれたのに、悪いんだけどさ」
「まあまあ。良くお似合いですよ」
「・・・・・・。」
(だから何よ)
フィルガの宥めるかのような笑顔をうさん臭く思いながら、黙って手を引かれて進んだ。
要はディーナの意見は却下されたのだ。
ディーナはさっきのやり取りで、言うだけ無駄だと学習済みだった。
「暗くて申し訳ありませんね。
資料が傷むのを防ぐために、あえて採光は最小限に設計されているものですから」
確かに室内は昼間だというのに薄暗い。
だが、灯かりが必要な程でもなかった。
微かに首筋を風が掠めるから、風路があるのだろうなと、思った。
通された部屋は天井高く吹き抜けで、壁一面四方を書物が並べられてある。
ここまで本に取り囲まれて、見下ろされているというのは威圧的でさえあった。
ディーナはその様子を仰ぎ見ながら、先に迷いなく進むフィルガに歩みを任せている。
「ディーナさん・・・・・・」
名を呼ばれ、手を少し引っ張られて、フィルガを見た。
次いで、彼の背後に微笑む少女に気がつく。
ディーナは一瞬身動きが出来なかった。
何がなにやら理解できなかったからだ。
やや見上げたまま、釘付けとなり視線が外せなくなる。
「このコ、誰・・・・・・?」
「―――・・・母が――。シィーラが十六歳だった頃の肖像画です」
長い間を置いてから、フィルガは説明してくれた。
「彼女の見合い用にと、描かせたものだそうです」
言葉を忘れてただただ、頷く。
部屋の一番奥の壁に、その絵は飾られていた。
絵画の両脇には、小さな円卓が置かれてある。
その上をそれぞれ、花瓶が置かれ花が活けられてあった。
花瓶の図柄もくじゃくだ。
孔雀は左右に首をかしげて、少女を中心に互いに向き合うよう、ちょうど対になっている。
――優雅に微笑みたたえて、たたずむ少女。
この円卓、花瓶も含めて一つの絵画として、完成されたもの。
まるで厳かに崇めるべき対象とされているかのような、神秘的な空間が目の前にある。
ディーナは魅入ったまま、ゆっくりと歩み寄った。
そして慎重に感想を述べた。
「似てるわ。フィルガ殿に」
「母親ですからね」
あっさりと答えてから、間をおかずフィルガは言う。
「それよりも俺は、ディーナさんの方が似ていると思いますよ」
思いもよらない意外な意見に、フィルガを見た。
彼は真顔で強く、いやにゆっくりと頷いて見せる。
本気で言っているようだ。
ディーナは非難を込めて見つめ返すのだが、フィルガも怯む事のない視線で・・・見返してくる。
やっと第二章です。
・・・・・・実はすでに第十章までできているのに〜
パソコン苦手で遅いです。
ちらとでも読んでくださった方、ありがとうございます。ネットってすごいですよね。ホントにありがたいです!