* 手土産の焔
(仮)タイトルから、かけ離れた展開です。
案の定。
と、いうよりもそこまで話が続けられませなんだ★
区切りが悪すぎて、長すぎて・・・
―――‐‐‐‐‐‐
・・・・・・ ア ツ イ 。ク ル シ イ 。
憎い・・・・・・・・・・ニクイ、ニクイ、ニクイ・・・・・・。
・。・;*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・
「――剣をおしまい下さい!!御使者殿・・・一体何を!?」
ルゼの叱責にギルムードは、わざとらしく首をすくめて見せた。何も答えないまま、構えた両手をほどく。
そのまま流れよく、剣を鞘に戻した。それから、肩もすくめて見せた。
その上いたずらっぽく笑み浮べるものだから、ルゼの怒りをさらに買う。
「ギルムード殿!!いくら神殿の使いであろうとも、このジャスリート家でそのような狼藉!許されるものではありませんよ」
「・・・・・・これは失礼を。無礼はお詫び致します故、どうぞご容赦を。何分『証拠』をご所望のようでしたので。揺るぎの無い、確たる証拠を」
そう自信満々に告げるギルムードに、二頭の獣は唸り声を高める。
頭を垂れ、頂く一角を向けるはダグレス。照準は、かつての『聖句の主』。
身を低く構え、今にも飛び出さんばかりのレドも同じく――。
「レードッ」
「ダーグ・レスッ」
その唸り声を諌めるように・・・宥めるかのように、優しい声音が名を呼ぶ。
警戒に満ちて、牙の間から零れ落ちていた威嚇音が鳴りを潜める。
二頭は不承不承といった様子で、いくらかはうなり声を落ち着かせた。
だが、警戒は解いた訳ではないらしく、鼻ツラにシワを寄せて牙を覗かせ続けている。
「お利口さんたち。大丈夫だから、牙を終ってちょうだいね?ギルムード殿だってもう、剣を終って下さったのよ。・・・ね?」
””でも、ディーナ。コイツは悪い奴。ディーナに剣を向けた、悪い奴!””
「レド、いい子だから・・・あのね・・・」
納得行かぬとごね続けるレドに、ディーナが根気良く言って聞かせようとする。
そのやり取りは何の前触れも無く、遮られた。
『――高見に立つ我が、この獣の心を預かる』
””―――――‐‐‐‐‐。””
””・・・・・・・・・・。””
フィルガが聖句の一節を唱えた途端、レドの意識がこの場から感じられなくなった。ダグレスは意識残したままのようだが、大人しい。
ダグレスの方はフィルガの聖句には従わぬと、常々明言していた。――取るに足らぬ、と。
レドは一度介入されてから、時折りこうして意識を奪われる。ディーナがいくら泣いて頼んでも、フィルガは聞かないのだ。
そんな二頭の眼に何が映っているのか。それすらも、ディーナにはわからない。
その事に焦りを覚えたディーナは悲鳴にも近い声で、彼を呼ぶ。
「――フィルガ殿!何を?」
意志奪うそのやり方を、ディーナはけっして許すことは出来ない。非難の眼差しをフィルガへと向けたが、彼は一瞥もくれず取り合わなかった。
フィルガの見据える先にいるのは、かつての二頭の主だった者だ。
「この獣は私めの『聖句の徒』です。――このモノ達にはディーナの護衛をせよ、と命じてありますからね。徒の正しい振る舞いの何が、確たる『証拠』と仰るのですか?神殿の使者殿」
「これは、これは、これは――。さすがは、白孔雀の忘れ形見の若様だ!とでも、申し上げておきましょうかね?」
皮肉った物言いにいくらかの棘を響かせながら、ギルムードは居ずまいを正した。
彼の癖なのだろう。気に食わない相手と対峙するときは、剣の柄に手をかけて弄んでいる。
彼の属する集団の性なのか、元もとのものなのかは計りかねるが、とにかく感じのいいものではなかった。
むしろ不快感を煽るために、意図的にわざと行っているのかもしれない。
彼は誰とも馴れ合う気など無いのだ。敵陣に単体で踏み込んできたのだから、当然といえよう。
親しげな笑みは、ただの社交辞令というものだ。それくらい、ディーナにだってわかる。
その貼り付けた笑みを見ているだけで、胸の辺りが重苦しい。・・・不快でたまらない。
見ているだけのディーナでさえそうなのだから、向けられた者はもっとだろう。
ディーナは気遣いも込めて、フィルガを見上げた。
「――私の聖句に囚われた獣を、ディーナの護りに付けた。ソレを証拠と仰られても、誰も頷けますまい?」
「・・・・・・。」
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もはや返す言葉も無く、ギルムードは押し黙ったかのように見えた。彼は顎を引いたまま、ねめつけるかのような底意地の悪い笑みを浮べる。
『クゼラ』
――出でよ。そうは付け足さなかったが、心の中ではそう呟いた。
名を呼ぶ。呼ぶことはすなわち、駆けつけろと命じたも同じ。
そんな事を考えている僅かの間に、獣は身を現していた――。どこからかと言ったらそれは・・・ギルムードの背後、足元の影の中から。
虚ろな瞳が見つめるのは、己と同じ色合いの少女の髪だろうか。それともかつて封じの間に押し込められた頃に芽生えた、不信という名の闇かもしれない。
赤と言うよりも朱紅色――。獣の体毛を言葉にするならそうだ。
炉にくべられた薪が、燃え盛るかのような色合いは揺らめいてくゆる。
ちょうど対照的にダグレスが闇の気配を巻き散らかして、攻撃の構えを取っているから余計に、その様が映える。
(さあて、と。闇の属性を相殺する火炎の――焔の属性の獣だぞ、っと・・・・・・)
””・・・・・・・・・・・・・・・。””
クゼラの意志は微塵も残っていない。ギルムードの術が奪って、封じてあるから獣は生きた木偶だ。
そうでなければ、この紅い孔雀には対抗できない。おそらくは。そう、見積もっているからここまで根回ししてきた。
言うなれば彼女に渡すべき手土産のつもりなのだが、いかがだろうか。
「ダグレス!レド!身を退け――防御の構えを取れ!!」
シィーラの息子がいち早く判断を下す。ディーナ嬢を背の後ろへ庇うと、ルゼ公の手も引いた。
命じられたままに身を退くレドを尻目に、ダグレスは退こうとはしない。先陣を切って矢面に立つ。
「ダグレス!!お願いだから、退いて!!」
愛しの紅孔雀が叫んでも、ダグレスの性格上きけないようだった。――当然だ。己が下がれば、この圧する気配はディーナ嬢に及ぶ。
この、見えないながらもこの場を支配しだした・・・灼熱の気配は身を守る術持たぬ者には毒になる。
熱さは感じられままに、焼かれてはひとたまりも無かろう。気が付いた頃には、術者の気力はかなり奪われていてもおかしくは無い。
火ぶくれも火傷も見当たらないままなのに、その場にいるだけで『気』を削られる。
そんな存在自体が、危険な獣。
そうやって『やっかいな化け物』とされたから、コイツは封じられていたのだ。
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それは焔の獣。
シャグランスの。そうだあの、獣筋の娘が体を張って『聖句の徒』にしてきた獣。
それに今呼んだ響きを与えたのが他でもない。――ギルムードだった。
リゼライが持ちかけた契約に、自分は頷いたのだった。
命を預ける。――そのつもりで。
この燃え盛る炎をまとうかのような獣に、名を与える名誉を賜ったのだから笑える。
名あての儀式に及んだ際に、ギルムードはちょっとした『いたずら』を思いついた。
(いや・・・腹いせか?)
獣の名をこの小さくて、小生意気な少女の名からとってやろうぞ。そう、考えても罰は当たるまい。そう考えた。
「じゃぁ、コイツの名前は・・・クゼラ・・・ィでって・・わかった!悪かった!!悪かったから、そう睨むなよ。『クゼラ』にする。それでいいだろ?」
やると思った。そう言いたげな少女に、眼差しでやり込められてギルムードは慌てて名を決めたのだ。
そうさせられた、と言ってもいいかもしれない。本当は『クゼライ』としてやろうかと思っていたのだから。
ほんの一字違い。
それはすなわち、生意気な手下の代わりに獣を傅かせてやろうかという――魂胆だった。
悪ふざけはせめてもの、上司としての自尊心の主張。
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(――『クゼラ』・・・呼ばれたようね)
部屋を整える、リゼライの手が止まった。
この部屋でくつろいでいた獣二頭が、それはそれは勢い良く飛び出して行ってから、そう時間も経っていない。
それとたいした差も無く、自分が手綱を握る獣の気配がした。それが何を意味するのか。
説明されずとも、嫌でも状況が読める。
それに『クゼラ』の気配はたいそう派手だから、目立つのだ。火炎独特の何もかも飲み込もうとする、勢い――。
それは焔という属性の性質のせいもあろうが、対峙した彼はたいそう厄介だった。
近付くもの全てを・・・燃やさんばかりの勢いに、流石のリゼライも手こずった。
あの獣は人を憎んでいたから、日々己自身の焔に身の内から焼かれ続けていた。
そうなると獣は、どういった事になるのか。獣は・・・『個』を失うのだ。ただの焔を巻き散らかすだけの存在と化す。
――それを目の当たりにしたリゼライは、知ってしまったから。
こうして、全ての動きを止めて。・・・・・・気配を窺わずにはおられないのだ。
・・・・・・仮タイトルは「殴ってもいいですよ、また」でした★
(おおおおおぃ!!全年齢対象ですから・大丈夫です。ええ。)
それは次回!!(←予告)