* 病み上がりの嫌がらせ
せっかく体力を養ったというのに、やや無駄遣いしているディーナさんです。
のんきにお茶なんかすすっている場合じゃない。
始めにそう思って手付かずだったお茶が、すっかり冷たくなっている。
だからぁ、とディーナは一呼吸置くためにカップに手を伸ばした。
華奢な持ち手をもどかしく思いながら持ち上げると、一気に全部飲み干す。
勢い良くカップを受け皿に戻したから、ぶつかって不穏な音を奏でた。
・・・・・・ちょっぴりだけ、ひびでも入れてないかと心配になる自分の貧乏性が哀しい。
それでも気を取り直してもう一度、フィルガに真向かう。
「この状況をちゃんと説明してよ!私罪人なんじゃなかったの?」
「・・・・・・。」
「?ねえったら!」
「ああ、すみません。で、何でしょうか?」
「〜〜〜〜〜だから!!この状況は何っ、説明してよって言ってるの!」
「―まあ、落ち着いてディーナさん、」
「落ち着いてるわよ!」
フィルガの言葉をさえぎって叫んだ。いい加減にしてほしい。
何がどうしたのかこの男。
先程からやたらそわそわと落ち着かない。
かと思えば、ディーナを見てはただぼんやりとしていて、人の話をまるで聞いちゃあいないのだ。
「だから、」
「そのドレス、よくお似合いですよ。ディーナさん」
今度はわざとなのか、フィルガが言葉をさえぎってきた。
「は、あぁ!?」
「なにか不自由はありませんか?ディーナさん。何でもお申し付け下さいね」
「〜〜〜〜〜お・お・あ・り・で・す・わ・よ!フィルガ殿!!」
「!!」
フィルガが突然テーブルに突っ伏したので、驚いた。
それこそ、椅子から飛びずさらんばかりに。
カップは横倒れてしまっている。飲み干していて、良かった。
「な、何よ、どうしたの?」
「ディーナさんが、俺の名をちゃんと呼んでくれたので感激して・・・」
「だ〜か〜ら〜!もう、何なのよぅ!?」
かれこれこのバカバカしいやり取りに、一体どれくらい費やしているのだろうか?
怒りを通り越して、この若者のおつむは大丈夫なのかどうか。
心配になって来る。
ディーナが床上げしたと聞き、フィルガは見舞いに訪れていた。
ジャスリート家の主の次は、若君ですか。
なんなんでしょう一体。
ルゼの持つ雰囲気に何となく圧倒されてしまい、この間は上手く言いたい事を伝えられなかった。
その分を取り返すつもりでいたのだが。
ディーナは先程から一向に、手ごたえ所か足がかりさえつかめずにいる。
***
全くもって訳がわからない――。
館に来てからもう、早いもので五日目を迎えている。
着いたばかりの頃は空腹やら疲労やらで、体力も底を突きかけていた。
そこを追い討ちをかけるかのように、罪人呼ばわりされたのだから、必要以上に動揺
してしまったと思う。
不服を申し立てる気も消えうせて、へたり込みそうになった。
(情けない・・・・・・。)
暴れておけばよかったかもしれない。
ちらと、そう考えもしたが、落ち着いた今なら解る。
やらなくて良かった。
多分、不敬罪やら器物破壊罪やらを、言い渡されて余計に身動き取れなくなっていただろう。
そう、自分を慰めてなだめた。
不法侵入の罪人扱いの次は、病人扱いだった。
実際ディーナは発熱していたから、思うように体が動かせなかったし、
ダルさのあまり思考も鈍っていた。
・・・深く考えても仕方がない。
そう開き直ってまずはともあれ、この状況をアリガタク利用させて頂く事にした。
騒ぎ立てるための体力を養わねば。
自分にそう言い聞かせて、おとなしくしていたのだ。
熱でうつらうつらしながらも、言いたい事のリストをこしらえてやり過ごした。
そして待ちに待った機会が、こんな調子なのだ。
(疲れてきた・・・)
病み上がりなのに、こんなに疲れるお見舞いなら要らない。
ただの嫌がらせなのかと、疑ってしまう。
「・・・・・・。」
目の前の挙動不審の若君の様子を、ディーナはうんざりと見守って待つ。
「すみません、取り乱したりして・・・・・・」
フィルガははにかみながら、顔を上げて詫びた。
自分を熱い視線で見つめる男を、冷たくいちべつしてから顔を背ける。
途端に捨てられた子犬にも等しい眼差しがすがって来る。
(まだまだ長くかかりそう)
――ディーナは無言のまま、自分のカップにお茶を注いだ。
なかなか状況説明されず、イラつきMAXですよね。
もうしばらくお待ち下さい。
・・・・・もっと、イラつくと思いますけど。
次回から第二章に入ります〜。
よろしく、どうぞ。お願いします。




