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第八章 * 守られている自覚


 ディーナ、自分の甘さに一人・反省会です。

 

   ・・・・・・自分は叩かれる(・・・・)かもしれない。


   何故そう思ってしまうのか、理解できない。


   こんなにも、全力で守りたいと思っているのに――。


  * : * : * : * : * : * : *


 ディーナは泣きじゃくりながら、銀の獣にすがり付いていた――。

 

「・・・・・・だい、じょぶ、っじゃ・・・ないよね?ごめんね、私が・・・・・・」

 

 橋を渡ろうとしたせいで?それとも、『何者をも物ともしない』術者じゃないせいで?

 ともかく、ディーナは己の無力さを責めていた。自分自身を、軽く呪ってしまうほど。

 

「血が・・・・・・。どうしよう、痛いでしょう?」

 

 ディーナは恐る恐る、銀の獣の傷口に手を這わせた。

 銀の毛並みに、固まり始めた血がこびり付いている。そのせいで、ぱっくりと開いた傷口が見えた。

 出血は収まってはいるようだが、獣は左足を地には着けず浮かせていた。体重を掛けると、痛むのだろう。

 

(それなのに)

 

 ギルムードに柄で下顎に、一撃を食らわせられたのだ。その上。

 続けざまに仕込んであった隠し刃で、左肩口を刺されたのだ――。

 

(・・・・・・それなのに・・・・・・)

 

 銀の獣は背にディーナを担ぎ、恐るべき跳躍力であっという間に――。

 こうして、ジャスリート家の館に送り届けてくれたのだ。

 ギルムードも、ダグレスも、あの橋に置き去りにして。

 

 * : * : * : * : * : * : * 

 

 ディーナは館の庭園の地べたに、しゃがみ込んで泣きながら途方に暮れていた。銀の獣の瞳を覗き込みながら、嗚咽が止まらない。

 

「・・・・・・どうしよう、ケガ。――フィルガ殿なら、どうにか出来るかもしれないけど・・・・・・。もしかしたら、貴方の事も従えてしまうかも、しれないし」

 

 “・・・・・・。”

 

 なにせ口を付いて出るのは、情けない事この上ない泣き言ばかりなのだ。

 申し訳なさと悔しさで、涙が止まらない。結局の所、自分が頼りにしてしまうのはフィルガなのだ。

 こうやって何かあった時に、自分が頼りにするのは彼だという事。

 ルゼでもリゼライでもなく、真っ先に浮かんだのはあの灰色の瞳だった。それを思い知らされた。

 

 あれだけ、自分でやって見せる気でいながらだ。あの宣戦布告――。

『フィルガ殿を超える術者になってみせる、彼の保護を必要としないまでになる』は、身の程知らずも、いいところだろう。

 

 ディーナは今更ながら、己のレベルの低さを恥ずかしいと思った。

 

【アナタが橋を超えれば、アナタという光を目指す連中が・・・・・・】

 

 フィルガの言うとおりだった。自分は彼の庇護を突っぱねておきながら、このざまだ。

 自分は彼に守られていたのだ。

 フィルガはディーナがこのまま外部に接触すれば、望まない結果になるのを見越してくれていたのだろう。

 

 レドを従えた時に、先に視線を外したのは彼の方だったではないか。フィルガの様子が今になって蘇る。

 

(フィルガ殿、苦しそうだった・・・・・・。私、泣いてて気が回らなかった)

 

 うっ、とディーナは固く瞳を閉じた。ひときわ大きな嗚咽が込み上げてきて、胸が詰まったからだ。

 

「フィルガ殿に、貴方のこと診てもらおう。私の事、きっと怒るかもしれないけど――。言う事ちゃんと聞く、って約束すれば貴方の事『聖句』で縛ったりしないと思うの。私は・・・・・・あきれて――叩かれるかもしれないけど、何てことないわ」

 

 “・・・・・・!?”

 

 ディーナは、それくらい当然の仕置きと思っている。これだけ、周りを巻き込んで大事にしたのだから。大人しく殴られよう、と思った。

 

 銀の獣は相変らず一言も発しない。だが決意固めるディーナに、小さくかぶりを振って見せた。ディーナはそれを、治療の拒否と受け取った。

 

「大丈夫、きっと。・・・貴方は悪くないんだもの。叱られるのは、私よ?だから、手当てをしてもらおうよ」

 

 安心させるために、ディーナは涙を拭う。無理やり、口調もしっかりとさせた。涙で声がやや、くぐもってこそはいたが。

 

「待っていて。フィルガ殿のところに行って、呼んでくるから」

 

 言いながら膝立ちになったところで、また新しく涙が溢れ始めてしまった。慌てて拭う。

 だが、止まらない。

 

(・・・・・・やだな。どうしちゃったんだろう?)

 

 見ず知らずの男に剣を向けられた。巫女として無理やりにでも、神殿に上がってもらうと(さら)われかけた。

 銀のこの()が駆けつけてくれた。だから、こうしてまたこの館に戻ってこれた。

 

 そうでなければ、彼にはもう会うことも無かったのかもしれない。

 ――その可能性を思って、胸が締め付けられるのは何故だろう?

 

(フィルガ殿に、会うのが・・・・・・。イヤ、なのかな?怒られるかもしれないから)

 

 しかし、そうも言っていられない。獣のケガを何とかしてあげなければ。

 ディーナは頭を振ると、ゴシゴシと目をこすった。

 

「・・・・・・ゴメンね。すぐ、行ってく、るから。ま・・・ってて」

 

 今度こそ立ち上がろうと、膝を立てた。だが、立ち上がる事は出来なかった。

 獣がディーナのドレスの(すそ)に、前脚を掛けていたからだ。勢いづいていたディーナは、当然ながら体のバランスを失う。

 

「・っ・・・きゃぁ」

 

 小さく悲鳴を上げて倒れこみ、ディーナは思わず獣に抱きついてしまった。それを銀の獣は優しく受け止めてくれた。

 ディーナを再び座り込ませる。そのまま獣はディーナのドレスを踏みつけ、脚をどかそうとはしなかった。

 

「ゴメンね、怪我してるのに。痛くなかった?」

 

 ディーナは慌てて、手を放した。灰銀色の瞳と、真正面からぶつかる。

 その瞳がほんの一瞬だけ、和らいだように感じた――。

 

 だ い じ ょ う ぶ

 

 え、と声にならない声を上げ損ねたディーナの頬を、獣は鼻先で押しやった。

 やわらかく遠慮がちに触れると、そろそろと・・・乾ききってない涙を舌先で拭ってくれた。

 

「・・・・・・ありがと」

 

 くすぐったさに思わず、笑みがこぼれた。ふ、と強張っていた気持ちまでが、ほぐれた気もした。

 獣の優しさも、ディーナの心をくすぐってくれたからだ。

 

 ディーナはやんわりと、獣を抱き返した――。



 なぜ、フィルガがディーナを叩いたりするなどと、考えてしまうのかは理由があります。


ディーナはキレイ★さっぱり★忘れていますが、無意識に覚えているのです〜。


フィルガ。今のフィルガは、そんなことはしませんよ。


〜〜第八章まできました。すさんでいた少年時代のフィルガ殿の話にも、入っていきます。

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