* 橋での対決 〜二戦目〜
二戦目は、・ギルムード・VS・銀の獣・
この身の誇る跳躍力。何者にも屈する事のない牙。
湧き上がってくる、抑えようのない躍動感は獣たるものの本性。
その醜態を晒してでも、彼女は渡さない。
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――ギルムードの刃と、銀の獣の牙とがぶつかり合う。
辺りに響き渡った不協和音が、余韻を引きずる・・・・・・。ディーナは思わず閉じていた目を開けた。
「なっ・・・・・・!?やめてよっ!!」
てっきり刃は、己に向けられたものと思っていた。
(かわしきれない!!)
そう体が告げた。だから、両腕で守勢を取りその時を――覚悟したのだが。
一瞬後――。瞳を開けると獣に庇われている己に気がつき、絶叫した。
「何やってるの!アナタ、避けなさいっ!!」
獣は退こうとはしない。
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ギルムードは剣を引き抜いたと同時に、銀の獣の牙を受けていた。
巨体の勢いある重みが、獣の牙一点に集中した一撃だった。
獣に押し倒される前に、振り払う。ギルムードは不覚にも、よろめいてしまった。
右手に響き伝わった衝撃に痺れ、剣も落としそうになった。だが、どうにか堪える。
対して銀の獣はギルムードから、顎に一撃を喰らっても体勢を崩さず、身を翻し少女の前に着地していた。
鼻に深くシワを刻み、牙をむき出したまま低く唸り声を上げている。獣の牙と牙の間から覗く舌が、嫌に赤くて気に障った。
獣の発する殺意むき出しの敵意に、容赦の入り込む隙など無いのは明確だった。
ディーナに触れるもの全てに、向けられるであろう感情にギルムードはあざ笑う。
「――獣めが!四つ足風情が、ディーナ嬢をどうしようというのだ?身の程を知れケダモノ」
“・・・・・・・・・・・・。”
吐き捨てながらも、睨み合いは続く。
少女に庇われながら、この獣はずっとギルムードの動きを眼で追っていた――。
いつ躍り出てくるやらと、互いに睨み合っていたのだ。
はじめにディーナの腕をつかみ損なった時点で、次に手を伸ばした途端に獣が割り込んでくるだろうと、
予想は付いていた。
「ちょっと、何てこと言うのよ!貴方・・・いいから!避けなさい!」
ディーナ嬢は抗議の声を張り上げた。なぜ、ここまで四つ足風情に肩入れするのか。
ギルムードには理解できない。その上、自分の存在の方が下に見られている気がする。
ますます余計に、この獣を配下に置きたくなった。多分コレは、嫉妬というものだ。自覚はあるが、止められない。
「そうだ。退け獣。騎士気取りじゃ、命を落とすぞ?――身の程をわきまえるんだな」
ギルムードは右腕を目線の高さにまで上げ、引き構えて狙いを定めた。左手は剣刃に添え置く。
視線は剣の切っ先の延長上、銀のケダモノへと定めた。
あれだけの距離を、一蹴りで縮めてきた脚力だ。さっきよりも近い分、より一層の負荷がかかるだろう・・・・・・。
手振れを起こしたら、敗者はギルムードに決まる。ここまで自分にさせる獣には、腹立ちは隠せないが事実だ。
それなりの対処で迎え撃つしかない。
「掛かって来い、ケダモノ・・・・・・。」
ギルムードは挑発する――。
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「・・・・・・。」
“・・・・・・。”
獣は挑発には乗らず、ただギルムードの向けた刃に集中していた。
そうだ。忘れてはならない。
(・・・・・・ディーナを渡さない。それが目的だ。男をしとめるのではない)
例え・・・二度とディーナにいらぬ手出しが出来ぬように、闇に葬りたい相手であってもだ。
獣であっても、ケダモノに成り果ててはならない。なるつもりも無い。この身は、ディーナを守る為のみに使う。
ましてや、ディーナの目の前だ。殺戮じみた戦いを、繰り広げるつもりはない。
「掛かってこぬのか?獣よ、オマエの牙はただの飾りか?」
挑発には乗らない。
「――どちらがディーナ嬢に相応しいか。獣の身であっては、推し量る事もできぬお頭か?」
言葉には耳を貸さず、男の動きが発する音のみに耳を傾ける。
勝負は一瞬で決まる。男の刃を奪ってしまえれば、こちらの勝ちだ。
獣は狙いを定め続ける。互いに睨み合ったままの、間合い取りは続く。
『――・ ・ ・ ・ ・ ・我、ギルムード・ランス・ロウニアが眼前の地に伏す【銀のケダモノ】よりも高見に立つ――』
男が先手を打って、詠唱を開始した。銀の獣は挑発には乗らない。そう判断し、煮え切らなくなったのだろう。
獣は四肢をより一層、後方へと引いた。後ろ足に体重を掛ける。
ギルムードはそれを見逃してはおらず、自身も重心をやや後方へと構えた。体勢を整えながら、詠唱を慎重に紡ぎ始める――。
(さあ、どうくるか・・・・・・。俺の属性は読めたか、ギルムード?)
ギルムードの狙い。おそらくそれは、物体と精神の両方から自分を弱らせようという考えだろう。
聖句で心を縛りつつ、剣でこの身の勢いを削ぐ――。あるいは刃で身をいなしつつ、聖句で心を屈させようといった所か。
面白い。そう思う。この俺を縛れるものがあるとしたら、それはディーナ。彼女だけだからだ。
(だからな、ギルムード!俺は縛れぬぞ。オマエのちゃちな聖句ごときではな!)
言ってやれないのが癪に障る。だが、獣は心の中で罵声を浴びせた。
『我は暗闇を称え――その全ての闇をもって包み込む――。包むは身体では無く、その魂の在り処』
――闇の章の聖句!
(そう来たか、ギルムード!)
獣は全身の毛が逆立つのを感じた。
お互い一歩たりとも譲りません。
ディーナがからんでいるのですから、当然です。
でもちょっと、ギルも銀(仮名)もわくわくしてやいませんか?――してますね。
戦うのが本質的にお好きなのでしょう。二人(←?)とも。バレバレですね。銀の彼の正体★