第七章 * 橋での対決 〜一戦目〜
一戦目は・ギルムード・VS・ディーナ・
どうして、みんな同じことを言うんだろう。
――奪ったとか。野放しに出来ないとか。
・・・・・・私も獣たちも、みんな。自由なのに。
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ギルムードの差し出した右手と、男の浮かべた笑みとを見比べながら――。少女の表情が全てを物語っていた。
せっかくの可愛らしい顔を険しくさせて、何とも煩わしそうだった。
そのうろんげに見下ろす様子から、答えは聞くまでもなさそうだと思った。そして実際その通りだった。
「――・・・・・・イヤだって、言ったら?」
「なぜです?悪くない話だとは思いませんか?」
「気が乗らないわね」
「そうですか。残念です。それなら、仕方がありません――」
手を引っ込めると、己の目の前で拳を握り締めた。左手で剣を持ち上げ、腰帯に掛ける。
そして立ち上がり、頭を深く下げたまま告げる。
「――ならば、無理にでもご招待するまで」
告げたと同時に伸ばした腕を、少女は油断無く見極めていたらしい。飛び退いてかわしたのには、正直驚いた。
仮にも訓練を積んだ軍人の動きをかわすとは。思ったよりも身軽で、勘もいいようだ。
「そういうの!世間じゃ、誘拐っていうのよ!!」
ギルムードはディーナを捕まえ損ね、空を切った勢いのままに、剣の柄に手を掛けた。
少女に刃を向けるためでは、無論ない。
獣を往なすためだ。ディーナ嬢お気に入りのご様子の、銀の獣。
コイツを聖句で縛れれば、彼女もまた大人しく言う事を聞く気にもなるだろう。そう踏んだ。
「はは。あなたの立場じゃ断れないのに、断るからいけないんですよ」
「何よ、ソレ!?ワケが判らないわよ」
ギルムードの動きに、ディーナは体を強張らせて叫んだ。
(怯えても竦まぬか、ディーナ嬢)
ディーナは上体をやや前に構えて、両脇を引き締めいつでもかわせるように、膝を曲げて立っている。
男から、柄にかけられた手から、視線を外さない。ギルムードは感心した。
素人ならば剣をちらつかせただけで、竦みあがってしまう。そうなれば、自分の思うツボだ。
いっそ、そうあってくれたら扱いやすいのだが。この少女には当てはまらないらしい。
空色の瞳に、鋭利なものと同じ輝きが宿る。――面白い。そう目を細めた。
ギルムードは斜めに体を構えると、左の親指でわずかに剣を浮かせた。
・・・カチン・・ン・・と、剣が鞘から顔を出すときの、乾いた音が響く。一気に場が張り詰めたものとなった。
鞘から覗き鈍く放たれる光に、流石のディーナ嬢も凍りついたようだ。
「次々と獣を術者から奪う貴女を、誰が野放しにしたまま――放置すると思いますか?」
「奪った!?とんでもない言いがかりは、何を根拠に言ってくれるのよ!?」
身に覚えなんてないね、と言い切るディーナにギルムードは改めて、少女の能力のタチの悪さを見た気がした。
自覚がないのだ。それは意識せずに、能力を振るっている証でもある。
それはすなわち、自然と身に備わっているという事。
(・・・・・・『天才』型か。厄介だな)
我々を脅かす、最強の術者に成りうる少女が――。今、目の前にいる。
(これはこれは。ますます、意地でも我々の手を取っていただきますよ。ディーナ嬢)
「では、レドは?ダグレスは?このギルムードの聖句の徒であった獣たちの、
今のこの状況は何と説明下さるおつもりですかな」
「獣たちは最初から、誰のものでもないでしょう。それを奪ったと言うのならば、あんた等の聖句とやらがそうでしょうよ」
「ディーナ嬢は、勘違いされていらっしゃるようだ。聖句は獣たちと【共存】して行くにあたって、欠かせないものですよ」
言葉を交わす毎に、ギルムードは慎重に剣を抜いていった。もう半分以上、刃はむき出しになっている。
「共存?そのために必要だったら、自由を奪ってもいいの?」
「知りたいですか?神殿に上がっていただいた後で、納得行くまで詳しく――。このギルムードがご説明致しましょう!!」
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言い終えたのとほぼ同時に、一気に剣を抜いた。大きく足を踏み込む――。
・ガキィ・・ィ・・・ンン・・・!!
辺りいっぱいに、金属とそれに負けない何かがぶつかった音が響き渡った。
・・・みんな=『フィルガ殿』ですね。ディーナさんの中では。ルゼも含まれますが、怒りはフィルガ行きです★
ギルムードもフィルガと同じ見解のようですね。術者として、ディーナを見ると。
かわいそうに(どっちが)ギルもフィルガも・・・ひとくくり、ですか。