梅雨の風邪
新入生対象の宿泊学習が終わり、梅雨の時期に差し掛かった頃。雨の降っていない日の放課後。目の前にいる少女がゆらりゆらりと揺れている。いつもよりも朱く、火照った頬。整っているはずの髪の毛も少し乱れていた。
彼女の眼を見据えて、頬に手を添える。そして顔を近づけて行く。皮膚と皮膚が当たる音がする。彼女は先程よりも朱くなった。
「なっななな……」
言葉もうまく出せなくなったようだ。
何でもないと思ってした行動だけれど、こういう反応をされると、自分まで朱くなりそうだった。
やっぱりいじるの楽しいな。そう思っていじろうとする俺の企みは、後輩女子に阻まれた。
「なにをやっているですか?」
…何故だろう。突っかかってきた後輩の顔もいつもより朱い気がする。
流石の俺にも、出会ったばかりの相手に同じことはできなかった。
回想をしているうちに、質問に回答することを忘れていたようだった。
なんと答えようか考えあぐねていると、不意に親友が口を開いた。
「結局 風邪だったのか?」
「微熱みたいだよ。疲れが溜まってるみたい」
そして俺は、鈴音を背負って部室を後にした。
※
「楓先輩は一体何を? せ…接吻をしてたように見えましたが…」
奈緒は顔を火照らせながらいう。
歩斗は困った顔をした。口で説明するよりも行動で説明しなければ、理解されないのではないか。彼は面倒事を増やしたくなかった。遼と目を合わせる。お互いがお互いに対し頷く。それからの行動は迅速だった。
奈緒の顎に手を添えて上向きに逸らす。彼女の顔に自らの顔を近付ける。そして、額を軽く押し当てる。
とくに何でもなかった。ただ、熱を確かめただけだった。奈緒は、崩れ落ちてしまった。