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三題噺  作者: 夕暮 帷
15/23

聖母 おかわり クズ

最高の落ち着きを持った友人へ




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「おかわりっ!」

 そう言って茶碗を突き出す。それを彼女はすぐに受け取って再びご飯をよそおってくれた。

 「はい、どうぞ」

 笑顔とともに差し出された茶碗を受け取り、再び口の中にかっこんでいく。

 4畳半よりは少し大きいくらいの、この協会の規模から見たら申し訳程度に作られた小さな和室。そこにおかれたちゃぶ台で、俺はご飯をごちそうしてもらっていた。

 おかずはおそらくさんまの塩焼きとキャベツの千切り、味噌汁。ごく一般的な和風料理だ。

 ちなみに食べているのは俺だけで、彼女は俺が食べ始めたときからずっと向かいでにこにこと俺を見ている。正直、かなり居心地が悪い。

 食べ始めてしばらくはご飯を食べることが夢中で気にならなかったのだが、さすがにおかわりも四杯目となれば俺の胃袋もたいぶ満たされてきており、周りに気を配る余裕も出てきている。そして、自分が予想以上――――つまりこの人の分と思われる部分まで――――食べていることに気づいた。

 「こんだけ食っといていうのもなんだが、あんたは食わないのか?」

 俺がそう尋ねると、彼女は微笑んだまま、「私のことは気にしないで」と言ってきた。

 「あんたがそういうならいいんだけどよ・・・。とりあえず、だ」

 「とりあえず?」

 首をかしげる彼女に左手を差し出す。

 「おかわり」

 もちろん、茶碗を持っている方の手だ。

 「はいはい」

 そして彼女は、もちろん笑顔のままそれを受け取った。


 そもそも俺が、なんで教会に拾われてご飯を食べさせてもらっているのか、それは数日前にさかのぼる。

 大学を卒業して、大学院に進学するでもなく、専門学校に入るわけでもなく、ましてや就活なんてすることも無く、いわゆる俺はニートと呼ばれる生活を謳歌していた。

 仕事をしているわけではないが、親元は一応離れているので、適当にひっかけた女数人の家を転々としてなんとかその日をしのいでいく生活をしていた。働いたら負けだな、なんて思っていたんだ。働かないと人生で負けることはわかっていたはずなのに。

 まぁ、そんなこんなでだらだらと女性のもとで日々を過ごしていたわけなのだが、もちろんそんな危ない生活が続くわけがない。

 彼女の一人と歩いてるところで他の彼女とみつかり修羅場になってるところにできた野次馬にさらに他の彼女が寄ってきての繰り返しだ。

 最終的に五人に囲まれたところで俺の心が折れた。

 何をしたのかって、彼女たちを置いて全力疾走で逃げ出したのだ。

 無論しばらく追いかけられていたのだが、これでも高校時代までマラソン部だった俺に、速度も持久力もかなうはずがなく、簡単に逃げ切れた。

 逃げ切ったまでは良かったのだが、いかんせん身寄りなし。今更働いてなかったといって親の元に買えるわけにもいかず、適当に街から街へとホームレスな生活を過ごしていた。ただ、そこでも女をひっかけては修羅場な生活をしていたためか、いままで行ったことのある街には帰れなくなっている。ひどいところでは見つかり次第刺されそうだし。

 そうした段々と逃げ場と居場所をなくしていった結果がこれ。行き倒れだ。

 最後の方はホームレス生活でひどい空腹に襲われていて、さらに昔の女に見つかって万能ナイフで刺されそうになり、命からがら逃げだしたあたりから記憶が朦朧としている。

 たぶんどこかの道で倒れたのだろうが、それがどこなのかも、ついでにここがどこなのかも不明だ。

 まぁ、命があってご飯を食べているということは、きっとなんとか逃げ切れたのだろう。

 今は逃げ切れたこの状況よりも、あの女がなぜ万能ナイフなんて持っていたのかのほうが気になる。もしかして俺に遭った時のために常備していたのだろうか? それだとしたらなかなか怖いな。

 確かに誠実とはほぼ対極なことをしていた自覚はあるが、その分必要最低限以上の物はなるべくもらわなかった。

 服だって五着以上は持たなかったし、娯楽系の物も何もしていない。最低限の衣食住だけでなんとか過ごしていたんだけどなぁ。


 今までのことを振り返っている間に、ご飯を食べ終わった。最近はホームレス生活のせいでいろいろとギリギリだったせいか、昔より食べ過ぎてしまうようになってしまった。

 「御馳走様でした」

 「お粗末様でした」

 ここにきたばかりの俺ならば、この後横になって眠るとか、だらだらとヒモらしいダメ人間的生活を送るところだったのだが、彼女の料理を食いすぎたせいか太ってきたので、最近は体を動かすがてらに協会の裏で育てている畑の世話をさせてもらっている。

 なんというか、初めはただお世話になり続ける気でいたのだが、彼女の聖母のような笑顔を見ているとだんだん働かなくてはいけないような気持ちになってきてしまったのだ。

 協会の裏手の小さくはない、だが決して大きくもない畑にやってくる。ここに来るまでにじょうろなんかを持ってくるのも忘れてはいけない。

 畑仕事といっても、俺がやるのは基本的に雑草抜きと水やりだけだからだ。素人があまり勝手にいじると作物が駄目になるかもと考えると、とてもじゃないが俺には勝手に手を出す勇気はなかった。

 この畑の植物は俺にはよくわからないが、とても元気なようで、まだ一週間くらいしかこの協会に世話になっていないはずなのに、数センチほど伸びているような気がする。

 雑草抜きを一通り終わらせ、じょうろで水を上げて回る。

 空はきれいな晴れ。どこまでも透き通るような青だ。

 じょうろから零れる水にかかる虹を見ながら、こんなゆったりとした日常もいいかもしれないなぁ。なんて思う。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なんだか終わりがすっきりないなぁ。

いつか改稿するかも。

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