コーヒー 携帯 テレビドラマ
マイペースな友人に送る
13/5/2 表現とかちょっと改変
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夜が明けて数十分。まだまだ地平線と接するような位置にある太陽の明かりに照らされて目が覚める。
「おぉ・・・。もう朝なのか」
昨日はずいぶん早めに眠ったということもあり、すっきりと目が覚めた。でも、少しだけ眠り足りない感じもする。
「大きな窓にしたのは良かったんだけどなぁ。東に向けたのは失敗だったかもしれないなぁ」
昼から夕方にかけてはあまり光が入らないし、今日のようにカーテンを閉め忘れた朝は朝日がとてもまぶしい。
「ま、今日はしっかり眠ってるからちゃんと起きれたしいいんだけどね」
おきあがって伸びをする。変な姿勢で眠っていたのか、体の節々からパキポキという音が聞こえる。気持ちいいのだが、あまりこうやって体を鳴らすのは体に悪いらしい。
「そんなことはどうでもいいんだけどね」
早朝以前に独り暮らしのため、誰からも返事がもらえることも無く、台所へ向かう。
さっと水をコーヒーメーカーに入れると、昨日買ったコーヒーの包みを開ける。このコーヒーを開ける瞬間が一番好きだ。
コーヒーの口の部分に鼻を近づけ、胸一杯に薫りを吸いこむ。
「うん。いい薫りだ」
香ばしい薫りが肺といわず台所いっぱいに広がる。この匂いをずっと部屋に閉じ込めておきたいとか思うんだけど。どっかの企業でコーヒーの香りの消臭剤とか作らないかな。売れるかもしれない。
少なくとも自分は買うな。
煎れたコーヒーをマグカップにたっぷりと注ぎ、朝日を眺めながら一服。なんて優雅な朝だろう。
たっぷり時間をかけてコーヒーを一杯飲みきった後、おかわりを注ぎながら携帯をチェックする。
「ぶっ」
電話着信二十件。
思わずコーヒーを吹き出してしまった。着信は…全部同じ奴だ。さらにメールの方にもいくつか送信されてきていた。送信主は同じくあいつ。
【なぁ、8ちゃんつけろよ8ちゃん。面白いドラマやってるぜ】
【なぁ無視? 面白かっただろ?】
【返事してくれてもよくね?】
【無視っすかー? いい御身分ですねー?】
ごめん、今つけても朝のニュースだわ。というか昨日そんなに早く寝落ちしたのか。帰ってすぐベッドに倒れこんだところまでしか覚えてないからなぁ。
【仕方がない。そっちが無視ならこっちにも考えがあるぜ】
ほう、何をするんだろうか。
【私、メリーちゃん。いま、交差点にいるの】
古っ!!超古っ!!
【私、メリーちゃん。いま、電車に乗るの】
しかも遠っ!
【私、メリーちゃん。いま、あなたの町にいるの】
【私、メリーちゃん。いま、歩道橋にいるの】
【私、メリーちゃん。いま、赤信号を渡ってるの】
歩道橋渡れよ。
【私、メリーちゃん。いま、団地にいるの】
だいぶ近づいてきた。
【私、メリーちゃん。いま、あなたの家の前なう】
「ぶっ」
最後ッ!! やられた・・・!!
吹き出してしまったコーヒーを拭く。くそう、こんな簡単なところにやられるとは。
ここでメールは終わっていた。どうやら一度家の前までは来たようなのだが、おそらく昨日家まで来たところで戸締りが完璧な家に太刀打ちできずに帰ったってところだろうか。
メリーちゃんのメールでしばらく笑った後、そういえば新聞を取っていなかったと玄関へ向かい、適当にスリッパをひっかけて扉を開ける。
うちの玄関は東に向いているので、こう目覚めのいい朝は朝日が爽やかな朝を約束してくれる。
目の前に、体をガチガチ震わせてあいつが立っていた。
「遅い・・・!! 部屋の鍵占め完璧にしてるんじゃねぇよ・・・! 俺を殺す気か!?」
地獄の底から響くような声で俺を責めるように声を上げる。離れてみても体が震えているのでまったく恐ろしげもないのだが。
何も考えずに扉を閉め、再び鍵を閉める。
「ちょ・・・! まって! 締め出さないで! マジでこれ死ぬって! 温まらせて! 不法侵入しようとしたことは謝るから! マジで! 本気と書いてマジで!」
というかあいつ、一晩中待ってたのか? バカだろ。つーか不法侵入しようとするなよ。
とりあえず深呼吸してひとまず落ち着いて、再び鍵を開ける。
「それで? 何しに来たの?」
「メールの通りだよ。どうせ眠ってるんだろうから起こそうかと思ってきた。とりあえず、中で暖かいものをくれ。これじゃせっかく夜を超えたのに凍死しそうだよ」
夜通しこんなところにいるなよという話なのだが、とりあえず脇にどいて部屋の中に入れてやる。ついでに新聞を持っていくのも忘れちゃいけない。
先ほど沸かしていたお湯を使ってコーヒーを入れてやる。砂糖は少し多めの方が体が温まる気がするから、砂糖を少し多めに入れてやる。
あいつに出してやると、甘いなこれ。というか甘すぎ、シロップ飲んでるみてぇ。とか言いながら全部飲み干していた。昨晩の寒さは相当きつかったらしい。
コーヒーを飲ませた後は、有無を言わせず沸かしていた風呂に放り込む。ぎゃーぎゃー騒いでいたが全部無視だ。
適当に着替えとして俺の服を見繕った後は、再びコーヒーを飲んであいつが風呂から出てくるのをゆったりと待つ。
たっぷりと数十分はまったりとして、やっとあいつが出てきた。
「あー生き返ったぁ。やっぱり風呂は日本の宝だね」
「この真冬にそこまで厚着でもないやつが一晩中外にいたらぬるま湯でも十分天国に感じると思うけどな」
「いいんだよ生きてるんだからなんでも。着替えありがとさん」
俺の服が誰かに切られているのは結構変な感じだ。
「よし、それじゃあお前も復活したことだし、昨日メールで送ってきてたドラマとやらについて話してもらおうか」
「ほんともうお前なんで昨日眠ってたんだよ。最高の盛り上がりだったんだぞ」
「いや俺そのドラマ見たことないから」
本当に残念そうに言ってくれるのはいいのだが、俺は実はそのドラマを見たことがない。世間ではわりと人気作やらなにやらいろいろと騒がされていることも知っているのだが、どうにも毎週見れないとしっかりドラマを見ようという気にはならないのだ。もちろん、DVDを借りてみるなんてことは考えない。
それを聞いたあいつの顔はまるでムンクの叫びのようだった。あの、顔が縦長くなるほど叫んでるあの有名な絵画だ。
「ありえないだろお前っ! あれ今年どころかここ十年で最も傑作って言われてるほどの人気ドラマだぞっ!? まだそれを見ていないやつがいるなんて・・・。 日本は広いな」
「そんなにすごいのか? それ」
「すごいぞお前。なにしろ最高視聴率が今八十パーセントを超えたらしい。しかもまだあがり続けてるんだとか」
今や日本の八割がそのドラマを見ているってことになるのか。すごいな。
「更に今流行りの人気俳優やら女優やらも結構使ってるからいろんな人がとっつきやすいしな」
あいつはまるで自分が作ったかのように自慢げに話し続けている。正直、そんなに一度にいろいろ言われても頭に入りきらないんだが。
「流行りの芸人やら俳優やらは知らないけどさ。視聴率八十越えっていうのには興味があるな。どんなもんなのか俺も見てみたいよ」
俺があいつの話をさえぎってそうぼやいた途端、あいつは急に立ち上がると、玄関に向かって歩き出した。
「よし分かった。今からとってくるから待っとけ」
「いやいや、今から行くのかよ?」
「当たり前だ。どうせお前今日は休みだろ」
「そうなんだけどさ・・・」
なぜお前が俺のスケジュールを把握しているのか激しく謎だ。
「そんなのきまってるだろ。親友だからさ」
そういって親指を立てる。親友でも知らない気がするが・・・?
「まぁいいや、そんなに見せたいなら待っててやるよ」
「そうこなくっちゃ。それじゃあ急いでとってくるから待ってろ」
そういって慌ただしく外へ走り出していった。
俺は再びコーヒー用にお湯を沸かしながら、今日の休日は久しぶりに騒がしい日になる予感に一人顔をにやけさせているのだった。
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ずいぶん間開けちゃった・・・。
もうちょっと頑張って書こう。