ウレタン枕 財布 エミュレータ
いろんな意味で師匠な友人におくる。
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「お前の財布の中、空っぽだなぁ」
「うっせーよ」
そういって財布を取り返す。
「勝手に人の財布の中身を見るとか趣味悪いぞ」
「別にいーじゃねぇか。どうせ中身空っぽだったし」
「そういう問題じゃねぇよ」
「はいはい。めんごめんご」
まったく悪びれずにそういうと、あいつはベッドの上に寝転がり、そこに置いてあったウレタン枕を抱きしめる。そのへんにクッションも転がっているのにわざわざ枕を抱きしめるとは。部屋を勝手に漁っているあいつを無視することを決めると、俺は再び机に鎮座しているパソコンに向かい、エミュレータをいじり始める。
しばらくすると、部屋を漁るのが飽きたのか、あいつが俺の後ろまでやってきた。
「今何してるの?」
そういってパソコンの画面を覗き込んでくる。
「ん。ちょっと作ったプログラムの動作確認をなー」
「今なんのプログラム作ってるんだっけ?」
「ウィンドウズのちょっとしたものをな。っていっても、そんなすごいものは作ってないよ。やろうと思えばお前だって簡単にいけるくらいだ。」
「プログラミングなんてほんとに触るくらいしかしてない俺ができるレベルっていうのもどうなんだよ…?」
そういってあいつは画面を覗き込んでくる。一応ウィンドウズだからある程度画面が動いているが、俺が見ているのはそのバックで動いている真っ黒い画面の方だ。こちらでどう処理が動いているのかが確認できる。この画面を見ていると、なんかすごくプログラムが出来る人のようでちょっとかっこいい気がする。
あいつもしばらくその画面を一緒に見ていたのだが、うあー。いみわかんね。と言って再びベッドに倒れ込んだ。ぼすぼすと音がするので、そのへんのクッションやらさっきのウレタン枕やらをひたすら叩いているのだろう。
少ししてプログラムの動作がひと通り終わり、プログラムに問題がないことを確認すると、俺はあいつに向き直った。
「お前さ、暇なら帰ったらどうなのよ?」
そこには枕を抱いたまま、ぐったりと横になっているあいつがいた。
「…」
「おーい。返事くらいしろー」
返事がないのでそいつの方へ確認に行ってみると、暇を持て余し過ぎたのか、虚ろな目でただ枕を抱きしめていた。
さすがに放っておくのは少々やばそうなので、とりあえず目の前で手を振ってみる。
「…」
反応がない。この程度ではダメなようだ。続いて、目の前で両手を合わせる、いわゆる猫騙しを仕掛ける。
「…」
これも反応がない。これで気づかないとは相当だ。
次の手段として、台所から胡椒を持ってくる。そして、あいつの鼻のあたりに向かっておもいっきり振りかけてやった。
「は、はくしょぃ!」
「…」
あいつより遥かに離れていた俺だけがくしゃみをした。そろそろ本格的にやばいんじゃないだろうか。
続いて、ビンタをかましてみる。
「おーい。おきろー」
そういって頬を叩いてみたのだが、先程かけた胡椒がまた舞い上がってしまった。
「ふぇ、うぇっくしょぃ!」
この方法は却下だ。俺の身がもたねぇ。
台所から豆板醤を持ってくる。そして、相変わらず虚ろな目をしているあいつの目の周りにタップリと塗りたくってやった。まずは効果の程を試すため、数分くらい放置してみよう。
五分経過。
「…」
十分経過。
「…」
十五分経過。
「…」
こいつ、本当に痛覚があるのだろうか。
仕方が無いので最終手段として、中学、高校時代と鍛え上げた俺のプロレス技、ボディプレスをかましてやるとしよう。これで起きなかったら救急車を呼ぼうと決め、ベッドから少し距離を取る。といっても、狭い部屋なのでそんなに距離はない。なんどか深呼吸すると、俺は一気にベッドに飛び込んだ。
「どっせーい!」
「ぐぁっ!!」
確かな手応え。どうやらやっと気がついたようだ。
「やっと起きたか」
俺が起き上がって声をかけると、あいつはゆっくりと体を起こした。
「やっとってなんだよ…へ、へっくしょい! はっくしょい! ふぇっくしょい!! ぐぁ、眼が痛てぇ!! っっくしょい! な、なんだ!? 催涙ガスかっ!?」
俺が行ったボディプレスのせいか、再び胡椒が舞い上がってしまったようだ。更に、未だに拭っていなかった豆板醤が聞いているようで、あいつはくしゃみと眼の痛みに悶えていた。
「催涙ガスなんてまかれてるわけ無いだろう。ほら、さっさとこれで顔を拭け」
そういって今もってきた濡れタオルを渡してやる。あいつはそれを受け取ると、急いで顔を拭きとる。あっ。やば。
「ぎゃぁぁああ!! なんか痛いのが顔中に!! しかも辛い! むしろ痛い!! ちょ、助けッ」
どうやらタオルで豆板醤が伸びてしまったようだ。原因は俺だし、すこし良心が痛む。
「仕方がないな。セイッ!!」
「ぐぉっ」
のたうちまわるあいつの鳩尾に掌打をかまして伸びさせると、素早く顔の豆板醤を拭き取り、髪についた胡椒をある程度とってやる。その後、普通に気付けをしたらすぐに起きた。
「…あ、あれ? 俺は何をしてたんだっけ?」
「さあな。悪い夢でも見て転げ落ちたんじゃねぇの?」
どうやらさっきのことは忘れているらしい。そのまま夢ということにしておく。
「うーん…。そうだな。なんか痛くて辛くてくしゃみしまくった変な夢だったよ。」
どうやら少し覚えていたらしい。俺を微塵も疑っていない純粋な視線が痛い。
「たしかに変な夢だな。それよりもさ、これから飯行かね? 俺が奢ってやるよ」
「ぉっ。今日はいつになく太っ腹だな。なにかいいことあったのか?」
いいことというか。ちょっとした罪滅しというか。
「ま、別にいいけどな。んじゃ、さっさといこうぜ」
そういって財布を取って玄関へと向かう。あいつはすでに外に出ているようだ。
ドアを開けると即座に家に帰りたくなるほどの熱気と蝉の大合唱。挫けそうだ。
「さぁ、何食いに行く?」
隣のこいつに罪滅ぼしをすると決めていなかったら、すでに挫けていただろう。
この暑さも、蝉の鬱陶しさも、自分へのちょっとした罰だと思って、俺は歩き出した。
その後、十数分歩いた先に言ったラーメン屋の前で、財布の中身が空っぽだったことに気付いたのはまた別の話。
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リアルが死にそうなほど忙しい…
先生の嫌がらせとしか思えない。
小説あらすじの方にも書きましたが、随時お題募集しとります。
感想とかついでに書いてくれるとなお嬉しいです。