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1. 弟は苦労する。

一年以上、毎月一度、短編中心に書いてきたのですが、

今回、こちらの姉弟のお話、書きたいエピソードが幾つか出てきたので、連載形式で書く事にしました。

和系架空の古代史系?を目指してみます。

古代、群雄割拠の世に於いて。


ミカヅキ国は、周囲を強大なオオツキ国、シンゲツ国に挟まれ、なんとか生き延びる小国であった。



このミカヅキ国には、他とは違い、王を決める為の独特な風習があった。

それは、ある血族、梅宮(うめみや)の一族、全ての者の中から、祭祀(所謂シャーマン)のまじないによって、ひとりの王を、決めるのだ。



先王が亡くなり、一族の中でも、誰もがもてはやす有力な族長、筋骨隆々な力自慢の男、武術に優れた若武者など、老いも若きも様々な候補が居た中。

祭祀による王選定の儀式が行われた結果。



選ばれたのは。



女の王君、であった。




これは、ミカヅキ国の王朝系譜の中で、初めての女の王、麗王の御代の話である。


そして、その麗王に仕えし、ひとりの弟の話でもある。







王君の朝は早い。

日も昇らぬうちから、王君の住まいの梅宮(ばいぐう)では、国の神々を鎮める儀式が始まる。


ともすれば男と見紛う程に背も高く、長く真っ直ぐな黒髪を後ろに流し。

麗王は白い祭礼の着物を着て。



淑やかに、しめやかに、廊下を歩いてゆく。



麗王の後には、4、5人の家臣達が続いているのだが。

すぐ後ろ、麗王のすぐそばに控える弟が、厳かな気配をぶち壊して口を開いた。




「ん、あ〜〜あ。めんどくせ」



欠伸をしながら、大きく伸びをする、弟。名を、貴臣。



麗王は振り向いて弟に言う。



「……これぇ、たかちゃん!終わったそばから欠伸しないの!」


「たかちゃん言うな!仮にもオオキミ?なんだろ!」



「仮にもじゃない、ちゃんと王なんです〜ぅ!」



文句を言いながら、ぱしぱしと弟をはたく麗王。そんなことをしながら、梅宮(ばいぐう)最奥(さいおう)、祭殿の扉前までやってきた。



立ち止まり、貴臣と家臣達に向き直る、麗王。



「では、ここで。

知っての通り、今日は陽が落ちるまでの儀式にかかりきりだ。

何かあれば、皆、頼むぞ」



さっと片膝を突く、貴臣を筆頭とした家臣達。


「御意」



うむ、と頷いた麗王。

祭殿の扉が開き、中には女官達が並んでいた。

ずんずんと歩いてゆく麗王。



さらり、爽やかな風を後に残して。

麗王は祭殿へと入ってゆき、扉が閉まった。








「貴臣さまあ!大変です!」


「ぁあ?なんだよ」



昼下がりの宮、執務部屋で様々な書状を処理していた弟。

心地よい静寂は、突如破られた。




桜里(おうり)の族長が、王君に会わせろと」


「おい、さっき断ったばっかだろ」


「それが……」





代替わりまもない王君。

そして、有力な豪族による、遠方からの訪問。

折角足を運んだのだ、会わせろ、自分達を蔑ろにする気か、ということらしい。



「〜〜〜っ! あ〜〜もぉっ! 姉上は呼び出せねえし! どうすっかなあ! 」



がしがしと頭を掻き、髪を乱す貴臣。



「……そもそも、本当に王君はいるのか、などと言ってくる始末でして」


「オオツキ国との境を守る、有力な豪族です、あまり無碍にもできませんし……」



「ああ! わかってる!! …… 仕方ねぇなぁ、もぉ…… 」



弟はため息と共に立ち上がった。






一刻の後。



梅宮(うめみや)の謁見の間には、大きな御簾。

その前に座る、桜里の族長。背後には十人ほどの屈強な男達が続いていた。

その両側には、麗王の家臣団が、それぞれ一列に並んで、ことの次第を見ている。



ぎろり、辺りを見回す族長。家臣達は思わず目を逸らす。



「…… ふん」



たわいない、と族長が鼻を鳴らした時。



しゃらん。鈴の音が鳴った。




「……麗王様の、お越しな〜り〜」




御簾の奥で。



緋色の着物、大柄で、しかし淑やかな佇まい。

冠を付けた者が、厳かな気配を纏い、現れた。



「おぉ…… 」



桜里の男達が、感嘆の声を洩らす。

族長はじっと目を凝らす。



御簾の向こうでは、緋色の人物が、玉座の前に立ち、桜里の者達に向き直った。顔の前には檜扇をかざしていて、その向こうの顔は見えない。



「麗王様、こちらが、桜里の族長、千騎(せんき)

と、その一族でございます。挨拶をさせても? 」



麗王、と呼ばれた人物は、檜扇の奥で、こくり、と頷く。ふわり、と柔らかな風が、動く気配がした。



「よいそうだ。桜里の族長、千騎殿。述べよ」



族長は、うむ。と悠々とした一呼吸を置き、定例の文言を述べた。



「麗王に於かれましては、…… 」




歴戦の猛者と呼ぶに相応しい、堂々たる佇まいで述べながら。

族長は強く、御簾の奥の人物を睨み続けた。



周りの家臣達が息を呑むのに対して。



御簾の奥、麗王と呼ばれた人物は、たじろぎもしない。

檜扇の上から僅かに覗く両の眼は、族長に負けぬ程強く。そのくっきりとした目元で、相手を睨み返していた。



述べ終えた族長は、目を離さずに立ち上がり、言った。



「この千騎、引き続き、桜里の里を守り、治め続ける事を。王は認めたもうか」



族長の言葉に、御簾の奥では、緋色の人物に家臣の一人が駆け寄り、檜扇で隠しながら、なにやらひそひそと話した。



御簾の向こうから、家臣が言った。



「麗王様が、認めよう、と」



その家臣の言葉を遮るように、族長は怒鳴った。



身共(みども)は、麗王より直接、返事を賜りたい!! 」



辺りは張り詰め、その場に居るものは皆、背筋が凍るような心地がした。



しばらく、重苦しい静寂が、辺りを包む。




その時。



す、と。御簾の奥で、麗王と呼ばれた人物が、歩みをひとつ、進めた。



張り詰めていた中に、凛、とした気配が漂う。

緋色を纏い、檜扇を掲げた奥で。

僅かに、息を吸う音がして。




「……認めよう」



女のような高い響き。それでいて、芯の通った、重みのある声。



それは正に、王たる風格、を兼ね備え。




族長は、膝を突き一礼した。



「無礼を許されよ。我ら桜里の一族、王を認め、心を尽くして仕えよう」




族長に続き、桜里の者達は次々に、礼をした。




御簾の向こうで頷く、麗王と呼ばれた人物。



堂々と歩き去ってゆく族長以下、桜里の者達を見送り、謁見の間の扉は閉ざされた。






執務室に戻った弟は。扉を閉めると。



その、緋色の着物を盛大に脱ぎ捨てて叫んだ。



「あ〜〜〜っ!! ったく、あのクソジジイ! 」


「貴臣様、言葉が過ぎます」




普段から口は悪いが、整えてしまえば、貴臣の背丈は、姉の麗王と然程変わらない。


御簾越しに、何も話さなければ乗り切れるであろうと、替え玉での謁見を、決行したのであった。



いつもの荒々しさが嘘のように、凛とした佇まいを宿し。

御簾越しならば、例え家臣達でも、まるで麗王と見紛うほどの出来栄えであったのだが。



「しっかし、肝が冷えましたな」


「全くです。どうなるかと思いましたよ」



「良かったですな、声を発しても、気づかれる事なく終わって」



「はあぁああ。後で、姉上に愚痴らねぇと、やってられぬわ!」



折角真っ直ぐに整えられた髪を、ぐしゃりと掻き乱し。吠えるように弟、貴臣は言ったのだった。






さて、ともかく一仕事を終えた弟が、己の着物に着替えようとして。


ふと、近寄った家臣の一人が、耳打ちする。



「流石は、貴方様も、梅宮の一族。先程の佇まい、お見事でございましたぞ、正に王の風格。

どうです?貴方様こそ、王に相応しい者かと。我が柿原の一族は、後ろ盾となりましょうぞ?」



動きを止める、弟。



「……言いたい事はわかった。追って返事をする故、待て」


「はっ! 」


「今日は下がってよいぞ」


「ははっ! では」



嬉しそうに下がる柿原を名乗った家臣。



扉が閉まって間を置き、身動きひとつしなかった弟が、他の家臣をぎろりと見て、告げる。



「…… 柿原の一族の、粗を探せ。姉上に気づかれぬ内に、潰すぞ」



「畏まりました」




はああ、とため息と苛立ちを隠しもせず、弟は着替えを再開する。




家臣達はぼやいた。



「柿原の者は、来たばかりであったか」


「愚かなものよ」


「あれだけ普段の王君と貴臣様を見て、何も思わないんですかね」


「節穴なのでしょう、あれだけお慕いしてるご様子なのに」



「何のために、王君に続き、己の名までも、『貴人(たかひと)』から『貴臣(たかおみ)』に変えたと思ったんですかね」



「ほんっと、姉上想いなのを、王君には全くお見せにならないのですから」



「てめ〜〜ら、うるせぇぞ!! 」



姉が居ないのをいい事に、弟の怒鳴り声が響いた。



弟の苦労は尽きない。





その頃、帰路に着いた桜里の者達は、口々に褒めそやしていた。


「流石は族長!我らが一族の存在、見せつけられましたな」


「いやあ、しっかし、新たな王も、中々侮れませぬな!」



そんな中、族長はしたり顔で口を開いた。



「…… あれは、替え玉よ」


「何っ?! 」


「今日は、王が抜けられぬ祭祀とは聞いてたからな、どのように我らを扱うか、試してみたのよ」


「千騎様…… 、またそれは危ないことを…… 」


「しかし、侮られたものよの!」



「いいや?おかげで、面白いものが見られた」



にやり、と笑う族長。



「おそらく、あれは王の弟、であろう。

声を発した時に、辺りの家臣どもが驚きに息を呑んでおったわ。……あまりに、似ていたから、であろう。

弟が似せてあれなら、本物も只者ではなかろう。そう思って、この場は認める事にしたのだ」



「はあ〜なるほど」



「それにな。…… ひとつ、貸しを作っておくのも、悪くないと思ってな。はっはっは! 」



「さっすがは、我らが族長!!」



桜里の者達は沸いた。族長は、一筋縄ではいかぬ、中々の狸だったようである。



益々、弟の苦労は尽きない。



まずは1話、読んでいただき、ありがとうございました!


すみません、現在のところ、なろうでの投稿更新は月1回と決めているので、

次回の更新は、3月5日夜22時台、を予定しております。

のんびり気長にお待ちいただけると有り難いです。

よろしくお願いします。

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