1. 弟は苦労する。
一年以上、毎月一度、短編中心に書いてきたのですが、
今回、こちらの姉弟のお話、書きたいエピソードが幾つか出てきたので、連載形式で書く事にしました。
和系架空の古代史系?を目指してみます。
古代、群雄割拠の世に於いて。
ミカヅキ国は、周囲を強大なオオツキ国、シンゲツ国に挟まれ、なんとか生き延びる小国であった。
このミカヅキ国には、他とは違い、王を決める為の独特な風習があった。
それは、ある血族、梅宮の一族、全ての者の中から、祭祀(所謂シャーマン)のまじないによって、ひとりの王を、決めるのだ。
先王が亡くなり、一族の中でも、誰もがもてはやす有力な族長、筋骨隆々な力自慢の男、武術に優れた若武者など、老いも若きも様々な候補が居た中。
祭祀による王選定の儀式が行われた結果。
選ばれたのは。
女の王君、であった。
これは、ミカヅキ国の王朝系譜の中で、初めての女の王、麗王の御代の話である。
そして、その麗王に仕えし、ひとりの弟の話でもある。
*
王君の朝は早い。
日も昇らぬうちから、王君の住まいの梅宮では、国の神々を鎮める儀式が始まる。
ともすれば男と見紛う程に背も高く、長く真っ直ぐな黒髪を後ろに流し。
麗王は白い祭礼の着物を着て。
淑やかに、しめやかに、廊下を歩いてゆく。
麗王の後には、4、5人の家臣達が続いているのだが。
すぐ後ろ、麗王のすぐそばに控える弟が、厳かな気配をぶち壊して口を開いた。
「ん、あ〜〜あ。めんどくせ」
欠伸をしながら、大きく伸びをする、弟。名を、貴臣。
麗王は振り向いて弟に言う。
「……これぇ、たかちゃん!終わったそばから欠伸しないの!」
「たかちゃん言うな!仮にもオオキミ?なんだろ!」
「仮にもじゃない、ちゃんと王なんです〜ぅ!」
文句を言いながら、ぱしぱしと弟をはたく麗王。そんなことをしながら、梅宮の最奥、祭殿の扉前までやってきた。
立ち止まり、貴臣と家臣達に向き直る、麗王。
「では、ここで。
知っての通り、今日は陽が落ちるまでの儀式にかかりきりだ。
何かあれば、皆、頼むぞ」
さっと片膝を突く、貴臣を筆頭とした家臣達。
「御意」
うむ、と頷いた麗王。
祭殿の扉が開き、中には女官達が並んでいた。
ずんずんと歩いてゆく麗王。
さらり、爽やかな風を後に残して。
麗王は祭殿へと入ってゆき、扉が閉まった。
*
「貴臣さまあ!大変です!」
「ぁあ?なんだよ」
昼下がりの宮、執務部屋で様々な書状を処理していた弟。
心地よい静寂は、突如破られた。
「桜里の族長が、王君に会わせろと」
「おい、さっき断ったばっかだろ」
「それが……」
代替わりまもない王君。
そして、有力な豪族による、遠方からの訪問。
折角足を運んだのだ、会わせろ、自分達を蔑ろにする気か、ということらしい。
「〜〜〜っ! あ〜〜もぉっ! 姉上は呼び出せねえし! どうすっかなあ! 」
がしがしと頭を掻き、髪を乱す貴臣。
「……そもそも、本当に王君はいるのか、などと言ってくる始末でして」
「オオツキ国との境を守る、有力な豪族です、あまり無碍にもできませんし……」
「ああ! わかってる!! …… 仕方ねぇなぁ、もぉ…… 」
弟はため息と共に立ち上がった。
*
一刻の後。
梅宮の謁見の間には、大きな御簾。
その前に座る、桜里の族長。背後には十人ほどの屈強な男達が続いていた。
その両側には、麗王の家臣団が、それぞれ一列に並んで、ことの次第を見ている。
ぎろり、辺りを見回す族長。家臣達は思わず目を逸らす。
「…… ふん」
たわいない、と族長が鼻を鳴らした時。
しゃらん。鈴の音が鳴った。
「……麗王様の、お越しな〜り〜」
御簾の奥で。
緋色の着物、大柄で、しかし淑やかな佇まい。
冠を付けた者が、厳かな気配を纏い、現れた。
「おぉ…… 」
桜里の男達が、感嘆の声を洩らす。
族長はじっと目を凝らす。
御簾の向こうでは、緋色の人物が、玉座の前に立ち、桜里の者達に向き直った。顔の前には檜扇をかざしていて、その向こうの顔は見えない。
「麗王様、こちらが、桜里の族長、千騎
と、その一族でございます。挨拶をさせても? 」
麗王、と呼ばれた人物は、檜扇の奥で、こくり、と頷く。ふわり、と柔らかな風が、動く気配がした。
「よいそうだ。桜里の族長、千騎殿。述べよ」
族長は、うむ。と悠々とした一呼吸を置き、定例の文言を述べた。
「麗王に於かれましては、…… 」
歴戦の猛者と呼ぶに相応しい、堂々たる佇まいで述べながら。
族長は強く、御簾の奥の人物を睨み続けた。
周りの家臣達が息を呑むのに対して。
御簾の奥、麗王と呼ばれた人物は、たじろぎもしない。
檜扇の上から僅かに覗く両の眼は、族長に負けぬ程強く。そのくっきりとした目元で、相手を睨み返していた。
述べ終えた族長は、目を離さずに立ち上がり、言った。
「この千騎、引き続き、桜里の里を守り、治め続ける事を。王は認めたもうか」
族長の言葉に、御簾の奥では、緋色の人物に家臣の一人が駆け寄り、檜扇で隠しながら、なにやらひそひそと話した。
御簾の向こうから、家臣が言った。
「麗王様が、認めよう、と」
その家臣の言葉を遮るように、族長は怒鳴った。
「身共は、麗王より直接、返事を賜りたい!! 」
辺りは張り詰め、その場に居るものは皆、背筋が凍るような心地がした。
しばらく、重苦しい静寂が、辺りを包む。
その時。
す、と。御簾の奥で、麗王と呼ばれた人物が、歩みをひとつ、進めた。
張り詰めていた中に、凛、とした気配が漂う。
緋色を纏い、檜扇を掲げた奥で。
僅かに、息を吸う音がして。
「……認めよう」
女のような高い響き。それでいて、芯の通った、重みのある声。
それは正に、王たる風格、を兼ね備え。
族長は、膝を突き一礼した。
「無礼を許されよ。我ら桜里の一族、王を認め、心を尽くして仕えよう」
族長に続き、桜里の者達は次々に、礼をした。
御簾の向こうで頷く、麗王と呼ばれた人物。
堂々と歩き去ってゆく族長以下、桜里の者達を見送り、謁見の間の扉は閉ざされた。
*
執務室に戻った弟は。扉を閉めると。
その、緋色の着物を盛大に脱ぎ捨てて叫んだ。
「あ〜〜〜っ!! ったく、あのクソジジイ! 」
「貴臣様、言葉が過ぎます」
普段から口は悪いが、整えてしまえば、貴臣の背丈は、姉の麗王と然程変わらない。
御簾越しに、何も話さなければ乗り切れるであろうと、替え玉での謁見を、決行したのであった。
いつもの荒々しさが嘘のように、凛とした佇まいを宿し。
御簾越しならば、例え家臣達でも、まるで麗王と見紛うほどの出来栄えであったのだが。
「しっかし、肝が冷えましたな」
「全くです。どうなるかと思いましたよ」
「良かったですな、声を発しても、気づかれる事なく終わって」
「はあぁああ。後で、姉上に愚痴らねぇと、やってられぬわ!」
折角真っ直ぐに整えられた髪を、ぐしゃりと掻き乱し。吠えるように弟、貴臣は言ったのだった。
さて、ともかく一仕事を終えた弟が、己の着物に着替えようとして。
ふと、近寄った家臣の一人が、耳打ちする。
「流石は、貴方様も、梅宮の一族。先程の佇まい、お見事でございましたぞ、正に王の風格。
どうです?貴方様こそ、王に相応しい者かと。我が柿原の一族は、後ろ盾となりましょうぞ?」
動きを止める、弟。
「……言いたい事はわかった。追って返事をする故、待て」
「はっ! 」
「今日は下がってよいぞ」
「ははっ! では」
嬉しそうに下がる柿原を名乗った家臣。
扉が閉まって間を置き、身動きひとつしなかった弟が、他の家臣をぎろりと見て、告げる。
「…… 柿原の一族の、粗を探せ。姉上に気づかれぬ内に、潰すぞ」
「畏まりました」
はああ、とため息と苛立ちを隠しもせず、弟は着替えを再開する。
家臣達はぼやいた。
「柿原の者は、来たばかりであったか」
「愚かなものよ」
「あれだけ普段の王君と貴臣様を見て、何も思わないんですかね」
「節穴なのでしょう、あれだけお慕いしてるご様子なのに」
「何のために、王君に続き、己の名までも、『貴人』から『貴臣』に変えたと思ったんですかね」
「ほんっと、姉上想いなのを、王君には全くお見せにならないのですから」
「てめ〜〜ら、うるせぇぞ!! 」
姉が居ないのをいい事に、弟の怒鳴り声が響いた。
弟の苦労は尽きない。
*
その頃、帰路に着いた桜里の者達は、口々に褒めそやしていた。
「流石は族長!我らが一族の存在、見せつけられましたな」
「いやあ、しっかし、新たな王も、中々侮れませぬな!」
そんな中、族長はしたり顔で口を開いた。
「…… あれは、替え玉よ」
「何っ?! 」
「今日は、王が抜けられぬ祭祀とは聞いてたからな、どのように我らを扱うか、試してみたのよ」
「千騎様…… 、またそれは危ないことを…… 」
「しかし、侮られたものよの!」
「いいや?おかげで、面白いものが見られた」
にやり、と笑う族長。
「おそらく、あれは王の弟、であろう。
声を発した時に、辺りの家臣どもが驚きに息を呑んでおったわ。……あまりに、似ていたから、であろう。
弟が似せてあれなら、本物も只者ではなかろう。そう思って、この場は認める事にしたのだ」
「はあ〜なるほど」
「それにな。…… ひとつ、貸しを作っておくのも、悪くないと思ってな。はっはっは! 」
「さっすがは、我らが族長!!」
桜里の者達は沸いた。族長は、一筋縄ではいかぬ、中々の狸だったようである。
益々、弟の苦労は尽きない。
まずは1話、読んでいただき、ありがとうございました!
すみません、現在のところ、なろうでの投稿更新は月1回と決めているので、
次回の更新は、3月5日夜22時台、を予定しております。
のんびり気長にお待ちいただけると有り難いです。
よろしくお願いします。




