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【超短編小説】ノーパンしゃぶしゃぶ

掲載日:2025/12/17

 係長のメール文言からは想像もつかないくらい立派な門が建っている。

 いわゆる料亭というやつではないのか。

 ──ご馳走になるとは言え、緊張は免れられない。

 おれは衣服の乱れを軽く正して、黒々とした門を潜った。


「遅くなってすみません、家内がうるさくて」

 頭を下げながら仲居の開けた襖の先には、

既に始めていた上司たちが見えた。

 部屋の中からは驚くくらい冷たい空気が流れ出てきた。

「新婚さんは大変だね」

「まだ仲良くやれているのは良い事だ、気をつけろよ」

「まぁとにかく座れよ」

 上司連中が口々にかける言葉に、そこそこ丁寧な愛想を返しつつジャケットを脱いでハンガーに掛けると、さっそく掘り炬燵の中に足を入れた。

「さっきの仲居は肉付きがイマイチだったな」

 課長が赤い顏をしながら、それでも真顔で言った。

 個人的には好みの線が細い女だったので、おれは何も言わずに曖昧に笑って誤魔化した。




「珍しいですね、掘り炬燵の居酒屋なんて」

 一年を通して掘り炬燵を楽しむと言う表のコンセプトは悪くない。

 その為にこの時期は寒いくらいの空調を稼働させているようだが──。



 おれは部長の隣に腰を下ろして両足を炬燵に突っ込んだ。

 皆がこちらを見ている。

 おれはズボンのベルトを外しながら「順番が違ったらすみません」初めてなもんで──と言ったが、たぶんそう言うことでは無い。

 掘り炬燵の中でサンタナが吹き荒れている気がして、少し頬が緩んだ。

 それを見た部長はおれの肩を叩きながら

「この緊張感がたまらないんだよ」

 そう言って嗤うと、こたつ布団の上から自身の腰の辺りを軽く叩いた。



 炬燵の中でズボンを脱ぐと軽い浮遊感にも似た高揚を感じる。

 一緒に風呂を浴びる事を裸の付き合いと言うが、だらしない肉体をお互いに見るよりはこちらの方が良い。

 これで自分もようやくこの会社の一員になれた気がしてほっとした。



 自分のビールと同時にコース料理が提供され始める。

 やたらに短い着物の若い仲居たちが入れ替わり立ち代わりやってきては、机の端にある送風機で愧部や谷間を見せて厨房に戻っていく。

 上司たちはその度に「うむ」と言いながらビールや日本酒を飲み、料理に舌鼓を打った。



 掘り炬燵の中で乱立したおれたちは、だがその素振りを見せる事もなく、仲居たちの愧部や谷間による弛緩に身を委ねたり仕事の話による緊張を繰り返しながら謎の一体感を味わっていた。

 そうだ。おれたちはいま勃起している。

 この掘り炬燵の中で勃起している。

 しかもアルコールの所為で中途半端に。

 こたつ布団一枚隔てた暗い掘り炬燵の中でおれたちはズボンを足首まで下げて勃起している。



 絶対にバレているはずなのに悟られてはいけない、そんな気がして妙な緊張をする。

 隣に座る部長も、対面に座る課長も、両隣の補佐も代理も若頭も誰もかもが勃起しているのだ、掘り炬燵の中で。

 おれは泡だった黄金色の液体が満ちたジョッキを恍惚の表情で眺めていたのだろう、部長が脇腹をつついて「やっているか」と訊いた。



 おれは思わず「勃っております」と答えた。

 部長は少しの間ぽかんとした表情をしていたが、やがて嗤うとおれにジョッキを傾けて「乾杯だ」と言った。

 鍋の中で揺蕩う肉野菜屑を眺めながら、来年はおれも部下を連れてきたいなと思った。

 果たしてその時、若いのは脱げるだろうか。

 妻の顔を思い浮かべようとして、それは無粋だと首を振った。

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