たぶん、剣と魔法の世界⑧
瞬間、場が凍りつく。
あ、あれー……?間違えたっぽい……?
ルークの肩が小刻みに震え、レティちゃんは唖然としている。
ルイスと名乗った甲冑は腰に据えた剣に手を伸ばし、なぜか臨戦態勢を取り始めた。
んんん!?怖すぎますけど!甲冑のお兄さん!なんでこんな小娘相手にムキになってるんですか!
私はただ、扉の外にいる執事とメイドに力づくで追い出してもらおうと思ってるだけなんですけど……。怖いので剣から手を離してくれませんか?
しかしこれは自分が招いた事態。
ルーク様とレティちゃんに良いところを見せる絶好のチャンスでもある。
私だって修羅場を越えてきた人生2周目。どうにか口だけでこの場を治めてみせましょう。怖いけど。
「なぜ剣に手をかけているのかしら。今、その剣が必要でないことは、誰の目から見ても明らかではなくて?一体誰に使おうと言うの?私はただ、寝室から出てほしいだけですわ。部屋を用意させますからそちらでお待ちください。それが無理だと言うのであれば……」
「承知いたしました。それ以上は結構です。無礼をお詫びします。」
少し時間あけてからもう一回来てくださる?と口にする前に甲冑が口を挟む。あの臨戦態勢で剣に手を伸ばすポーズはそんなに大変な姿勢だったのか、なぜか汗までかいている。
こ、怖かった〜〜〜!
しかし自分に交渉術があったとは。なんとかなってよかった。意外とこの世界でもうまくやっていけるかもしれない。
レティちゃんが扉を開け、外にいる執事とメイドに指示を出している。別室の用意と甲冑の案内だろうか。しごできである。
「あら、分かっていただけて嬉しいわ。また後ほどお会いいたしましょう。」
甲冑を笑顔で見送る。最後まで気を抜くわけにはいかない。笑顔は余裕の姿勢を見せつけるための武器だ。
だがしかし甲冑の汗は他人事ではない。カリナも背中にビッショビショの汗をかいていた。涼しい顔をして甲冑が見えなくなるまで扉を見つめる。
この世界には王国騎士団も存在するのね。王国騎士って乙女ゲームっぽいもんね。……それにしても怖かった。
扉が閉まると、ずっと小刻みに震えていたルークが大きな声で笑い始める。
「わっは、わっはっは。もうこれは傑作です。カリナさん、貴女は本当に持っている方ですね。」
なんということか。こちらが命懸けで剣と対峙している最中、この男はずっと笑いを堪えていたのである。ルーク様って呼ぶのやめようかな。おい!ルーク!
カリナが眉間に皺を寄せてふざけた顔でルークを睨みつけていると、レティちゃんが駆け寄ってきて興奮気味にカリナに声をかける。
「カリナお嬢様、先ほどはカリーナ様のように堂々としてらして驚きました!チェルティ団長もカリナ様がカリーナ様であることをお気づきにならなかったと思います!」
どうやらあの態度で間違いなかったようだ。つまりカリーナは悪役令嬢ということで間違いなさそうだ。
正解を引いて嬉しいような、悪役令嬢が確定して悲しいような、複雑なふにゃんふにゃんな気持ちだ。
「ぜひ引き続きカリーナさんを演じてくださいね、カリナさん。」
まだ笑いが止まらないルークは目に涙を溜めている。イケメンの医者だからって許されると思うなよ。私は根に持つタイプだからな。
「最終確認ですが、カリナさんの前世の記憶は直前までしっかりあり、カリーナさんの記憶はない、という認識であっていますか?」
文句でも言ってやりたいが、レティちゃんがドレスの用意を始めている。甲冑が別室で待っているので少し急いだほうがいいようだ。
「はい、ルーク。ルーク様のおっしゃる通りで間違いありません。」
「……ぷっ」
わっはっは、とまたルークが笑い始める。少し意地悪してやろうと思ってさりげなく呼び捨てにしたつもりが、彼を笑顔にしてしまった。変なツボに入ったらしい。
お兄さん系の攻略キャラだと思っていたらあんな大きな声で笑うタイプだったなんて。
いやでもこういうギャップが良かったりするのか〜。
「ルーク様、お取り込み中のところ申し訳ございませんが、ご覧の通り予定が入ってしまいましたので、また後日お時間いただけますでしょうか。」
「そうですね、レティちゃんの言う通り今日は失礼したほうが良さそうです。カリナさん、不安なことがたくさんあると思いますが、貴女の思う通りに過ごして大丈夫だと思いますよ。カリナさんなら大丈夫。」
「……ありがとうございます。」
そうだった、身の振り方に悩んでいたんだった。ふざけているようで彼はしっかりお医者様なのだ。
それでは、と退室するルークに会釈をし、レティちゃんに導かれるまま身支度を進めてもらう。
自分の思う通りに、自分が思うままに、それでいいんだ。




