たぶん、剣と魔法の世界⑦
レティちゃんのサポートの甲斐もあり、すべての触診が終わる。
「カリナさん、改めて聞きますが、痛いところやおかしなところはありませんでしたか?」
「はい、特に何もないです。」
訝しげな顔をして、ルーク様がじっと見つめてくる。イケメンにそんな風に見つめられたら困ってしまう。これがスチルってやつですね、きっと。
「これだけしっかり触診して記憶が戻ったり嫌な感じがなかったのであれば、外傷がなかったと仮定して……原因は呪いの類かもしれませんね。」
「呪い……!?」
縁のない現実離れした言葉に大きく驚く。
私が知っている呪いといえば、藁人形に釘を刺す云々だけである。そんなに人に恨まれて生活した記憶はないし、前世の私が呪い殺されているなら、あの世界で呪いなんて、相手は相当異色の人物だったに違いない。
「もしくはもう一つ考えられるのは、頭部への干渉ですね。今は包帯も巻いていますし、原因と同じところに傷があるとすれば頷けます。」
「あの、呪い殺された……というのはどうにも無理がある気がするので、私の死因は頭を怪我したことだと思います。」
ルークは「ああ、カリーナさんなら確かに。」と呟き、納得した様子で頷く。
「では、まずは頭部への警戒をしっかりしつつ、どうにか打開していきましょう。」
疑問に思い「それってどういう意味ですか?」と投げかけようとしたその瞬間、ノックの音がした。
「お取り込みのところ、失礼いたします。王国騎士第二部隊騎士団長ルイス・チェルティです。突然申し訳ありません。お話があり参上いたしました。お時間をいただくことは可能でしょうか。」
驚いてレティちゃんを見ると、レティちゃんが声を上げる前に扉が開き、仰々しい甲冑を纏った青髪のサラサラヘアが目に映る。その奥には慌てた執事とメイドが数名、焦った顔でこちらを見ている。
「騎士団長様、入室の許可はまだ出しておりません。カリーナ様は大変な怪我をされていますし、いきなり入室されるようなことはおやめくださいませ。」
椅子から立ち上がり、甲冑に駆け寄りながらレティちゃんが大きな声を出す。
「記憶喪失のような状態のこと、誰も知らないんですよ。」
不意のルーク様からの耳打ちにドキッとする。イケメンの不意打ち至近距離に耐性などない。
……が、その耳打ちのおかげで状況を把握する。これまた詰んでいる。どんな態度を取るのが正解なのか、全くと言っていいほど分からない。
しかしこの数時間で自分には心強い味方ができた。何も恐れることはない。さあ、やってやろうではないか。本気の悪役令嬢ってやつを!
「任せてください、ルーク様。ばっちり決めてやります。」
ルークにウィンクをきめて深呼吸をする。
すでに扉は閉まり、中に入ってしまっている甲冑をどうにか追い出そうと、レティちゃんが奮闘している。
布団をめくり、ベッドに腰掛け、足を組み、左手を足に乗せ、右手で頬杖をつく。
脳内で言うべきセリフを練り上げ、復唱する。任せてルーク様、レティちゃん。完璧にやり遂げてみせるから。
そして口を開く。
「レディの寝室に無作法に入室するなんて許されることではないわ!いくら騎士団の方とはいえ、力づくでも出ていただく必要があるわね!」




