たぶん、剣と魔法の世界⑤
なるほど。
なるほど、なるほど?
つまりカリーナちゃんが原因で私はこんな訳のわからないことになっているということ……?
でも大切にしてもらえるみたいだから大丈夫ということ……?
でも悪役令嬢なんだよね?カリーナちゃんは妖精になった……?え、どういうこと?
頭がパンクして完全に思考停止する。
「なるほど、全然分からないけど分かりました。いや、何もわからないんですけど、え?」
分からなすぎてつい笑ってしまう。
もうどうでもよくなってきた。ひとまずレティちゃんは味方みたいだし安心したからいったん寝ようかしらね。
少し考えるので一人にしてください、と口に出す前にお医者様が口を開く。
「本当に、別人なんですね。」
その声は、あたたかく、優しく響いた。
「差し支えなければ、貴女のお名前をお伺いしても?」
「……私の、名前……。私の名前は……香里奈です。」
口にしながら驚く。え、名前ほとんど同じじゃん。
きょとんとしていると、レティちゃんがメイド服のポケットからハンカチに包まれた封筒を取り出した。
そして「カリナお嬢様。」と噛み締めるように呟く。
「カリーナお嬢様からお手紙をお預かりしております。僭越ながら、拝読いたします。」
もう一人の私へ
まずは、勝手なことをしてごめんなさい。きっとびっくりしたよね。あなたのいた世界とこの世界はどれくらい似ているのかな。
私たちが似ていることに驚いた頃かな?とても似ているよね。境遇も、人生も、何もかも。
だからしっかり前の世界の記憶を頼りにして、この世界ではうまいことやってね。
大丈夫。あなたにはレティがいるし、妖精もみんな力を貸すわ。
あなたなら分かると思うけど、私、今、命を狙われているの。酷い話よね。たぶん学園を卒業するまで待ってくれないわ。
でも一度体験しているあなたなら回避できるはず、と思ってこの身体を預けます。
勝手に人生を押し付けておいて言うことじゃないけど、二度も同じ人に殺されないでね。
「殺される?殺されるって言いました……?っていうかカリーナちゃんは全部知ってて私に押し付けた……?というか私は殺された……?え…?」
戸惑っているとレティちゃんがまた口を開いた。
「カリーナお嬢様は、カリナお嬢様の物語を大変気に入って読んでいらっしゃいました。ご自身に似ていると言って。」
「物語?私の本があるの……?」
「はい、ございました。ですが、カリーナお嬢様のお気に入りのものはすべて妖精になる時に持っていかれたようです。」
「タイトルは?図書館とか本屋さんに行ったら売ってますよね?」
「だいぶ古い本でしたので、カリーナお嬢様ももう一冊欲しいとずっと探されていましたが、見つけられたことはございません。」
「そんな……。」
記憶が、ない。
自分が殺されたことなんて覚えていないのに、もう一度同じ相手に殺される……?
悪役令嬢という立場上、殺されるのを回避する気持ちはあった。あったけれど、こんな展開は予期していなかった。死刑台とかではなく誰かに殺されるのか。それが分かっただけでも上々なのか。とりあえず本気で一眠りさせてもらえないだろうか。
初めての特大理不尽な状況を、どう受け止めていいのか分からないまま、一度考えることを放棄することにした。




