たぶん、主人公③
あの人って誰だろう……?けれど、魔獣がどうにかなるなら私がやることは一つ。
カリナはピアスを外し、駆け寄った門の近くで口にする。
「ヒール」
イメージするのはエリアヒール。門の内外で怪我をしている善良な国民が元気になりますように。
植物園のとき同様、一面に水色の魔法陣が広がり、キラキラと白い光が瞬く。
違うのは範囲の広さだ。
心地の良いあたたかな風が吹き、腕についた切り傷、折れた足、果ては無くなっていた片腕までもがみるみるうちに回復していた。
その幻想的で奇跡的な光景に、光を見たものは皆笑顔になった。中には泣きながら笑った者もいた。
無事に惨状を打開でき、一安心したカリナはピアスを付け直す。
担ぎ上げられる前に退散だ!
「聖女様!」
「聖女様だ!」
「聖女様に感謝を!」
門前にいたことも災いして、逃げ道がどんどんなくなる。
まずい。
ヴェールよりもっといい感じの……透明化ができる魔法……。スケルトンみたいなカタカナ、なんだったっけ……。
ややパニックになり、どうしようかと考えあぐねていると、門が開いた。
「ねえ、終わったよ。あれ、カ……ハニーは認識阻害も上手だね。じゃあこの後はお忍びデートしよう。」
そこに立っていたのはレヴィだった。
「黒髪の!」
「本当に助かった!ありがとう!」
「ぜひ騎士団へ入ってくれ!」
「いや、黒髪の君は魔法隊へ入るべきだ!」
二人を囲むようにできた人だかりに聞こえないように、声をひそめながら会話をする。
「熱気がすごいけど……?」
「ね、すごいね。」
「一体何したの?」
「僕はただ君が解決したそうにしていたから、少し力を貸しただけだよ。でも回復する前に帰ってきちゃったね。力、使っちゃったんだ。」
ニヤッと笑うレヴィには傷跡どころか埃すらついていないように見えた。
「さすがね。ありがとう。……ねえ、透明になりたい時ってなんて魔法使えばいいと思う?」
「ステルスじゃない?」
「あー!そうだ、それそれ!でもスケルトンも惜しかったなあ。」
「ハニーは何を言っているの?」
「ふふふ。思い出せなくて悩んでたの。……ステルス。」
カリナはレヴシオンの手を握り魔法を唱えた。
効果があるかどうかは周りの反応を見れば一目瞭然だった。
「あれ?」
「聖女様と黒髪の君が消えたぞ!」
「どこぞの名家の方たちに違いない!」
「見たことのない綺麗な黒髪だった。」
「そうだ、もしかしたら平民かもしれないぞ。」
「探せ!お二人に正式に感謝を述べなくては!」
一同がざわめき、消えた二人を探し始めるのをクスリと笑って見守る。
そして端の方で大きな荷物を持つレティちゃんを見つけた。
「レティちゃん、お待たせしました。」
ピアス外したのバレたかな〜?とご機嫌を伺いつつ、レティちゃんの前に姿を現す。
「レヴ様、カリナ様を抱えてそちらの洋服屋に入っていただけますか。」
「いいよ。」
レティはカリナに目を向けることなく、レヴシオンに声をかけた。そして店員の女性に声をかけると、奥の部屋へと二人を案内する。
「お着替えを。」
あれだけ目立つことをした二人組だ。着替えなければ街の散策は中断せざるを得ないだろう。
こうなることを予想していたのか、レティちゃんはすでに着替えを購入してくれていたらしい。
「レティ、ちゃんとカリナと洋服揃えてくれた?」
「もちろんです、レヴ様。」
「さすがだね。僕こっちで着替えるから。カリナの衣装替え楽しみに待ってる。早く終わらせてね、レティ。」
「かしこまりました。」
「レティちゃん、ありがとうね。」
「……。」
反応の悪いレティに、カリナは次第に焦り始める。
レティちゃん怒ってる……!
外でピアス外しちゃダメって言ってたのに約束破ったからだ……。
「れ、レティちゃん?」
「……。」
「レティちゃん、ねえ、ごめんなさい。どうしても何かしたくなって、約束を破ってピアス外しました。」
「……。」
「バレないように徹底したし、許してもらえないかな……?もうしないように気をつけるから……。」
「……。」
ドレスの着せ替えをしてくれているレティはカリナの背後におり、無言を貫くレティの表情はさっぱり見えない。
「れ、レティちゃーん……?」
着せ替えが終わり、レティの手が止まったことを確認し、カリナは振り返る。
そこには、丸い瞳に目一杯涙を溜めた白うさぎが小さく震えて立っていた。




