たぶん、主人公①
「私、結局寝落ちしちゃったんだ。」
詰め込みすぎの一日だったもんな。そりゃそうか。
部屋まで運んでくれたであろうレヴィオンにお礼を言いにいかなければ。
部屋で朝食を食べながら、レティちゃんに今日の予定を確認する。
「昨日に比べ食欲もおありのようで安心いたしました。本日は学園もお休みですし、怪我のこともあり予定は全てキャンセルしております。カリナ様の体調にあわせてご自由にお過ごしいただけます。」
そういえば、昨日はろくに食事をとらなかったかもしれない。急に食べたらお腹がびっくりするかもな、と思いつつ、美味しい朝食に手がとまらない。
「ありがとう。レティちゃんのおかげで元気が出てきたみたい。それなら今日はこの世界のことを知りたいな。とりあえず街に出てみてもいい?」
不意に感謝を告げられて、レティは驚きつつも、カリナ様はこういう人だった、と穏やかな笑顔で受け応える。
「ありがとうございます。かしこまりました。それでは手配いたしますね。」
朝食を済ませたカリナは、レティちゃんおすすめの流行りのドレスに身を包んだ。今の流行りは白地に青味のあるレースやリボン素材を合わせたドレスらしい。
このドレスは悪役令嬢っぽくないな……。
カリナは鏡の前で優しい微笑みをしてみる。なんとなく聖女でもいける気がしてきた。
うん、そうだ。今日は聖女カリナでいこう。
鏡の前でお淑やかなポーズを練習していると、馬車の用意ができました、とレティちゃんから声がかかった。
もう準備できたんだ、と、急ぎレヴィオンの部屋に顔を出すことにした。
「おはようレヴィオン。昨日はありがとう。私、力尽きちゃったみたい。」
あはは、と照れながら籠に近づいて声をかけると、視界の横に黒髪がチラついた。
「カリナ、こっち。面倒臭いからしばらく人型のままでいることにしたんだ。」
顔を横に向けると、至近距離にレヴィの顔があった。
カリナは驚いて変な顔をする。
「ふふ。何その顔。」
面白そうにニヤリとしながら反応するレヴィは、どこか満足気だった。
レヴィ……恐ろしい子!
この子が顔面国宝です。
どうか攻略対象者ではありませんように。
昨日一番最後に会った相手で、知人歴で言えば一番浅いはずのレヴィに、なぜかそばにいて欲しいと感じる……もしかして……一目惚れ、ってやつ?
いやいやまさか、と思いつつ、離れたくないこの気持ちをどうしたらいいものか。
「カリナ、今日は何するの?」
「今日は街を見に行こうと思ってて、今から馬車に向かうところよ。」
「ふぅん。僕も行こうかな。街ってあんまり歩いたことないし。」
思わぬ申し出に、心の中で飛び跳ねる。
「いいの!?一緒に行こう!」
心の中だけでなく、声色にも出ていたらしく、レヴィがまた満足気に笑う。
「ふふ。カリナは僕のこと好きだよね。僕もカリナのこと好きだけど。ねぇレティ、カリナのドレスに合わせて僕の服を選んでよ。」
「はい、レヴ様。」
レティちゃんもどことなく嬉しそうに応える。
前世での死因は分からないけど、メイドもドラゴンもいなかったし、この二人は大丈夫……かな。それともおせっかい焼きな友人や憧れの先輩とかの立ち位置に変換されたりするのかな……。
この二人に裏切られる未来は想像つかないけど、この二人なら優しく殺してくれそうだし、それはそれでいいかな、なんて思ったり。
「カリナ。……カリナ。ねぇ、聞こえてる?」
「……えっ、うん。」
「着替え終わったから行こうよ。何か考え事してた?」
「いやあ、せっかくだから美味しいランチでもみんなで食べたいなって。へへ。」
「ふぅん。別にいいけど。」
私は恵まれている。
殺される運命を変えるために奔走する人生だとしても、味方になってくれる人がすでにいて、大きな力だって持っている。
それに私は公爵令嬢だ。権力だってあるんだぞ。
いつか誰かが悪意を持って私を殺しに来る。そのことを思うと怖くて逃げたくなる。
けれど逃げられるような話ではない。
私は恵まれている。
この人生を楽しみながら、死亡フラグは絶対に回避してみせる。
隣を歩くレヴィと後方を歩くレティの存在を心強く感じながら、カリナは街へと向かう馬車に乗った。




