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神々の青い空

作者: 木田 梅子

静寂で、その青く輝く空間には、澄んだ空気が静かに、静かに流れている。

そこに、背丈は低く、白い髪と髭がふわふわとしている老人が、ある神のもとにやって来た。

「やぁ、お元気ですか?太陽の主。今日はまた、一段と照らしてらっしゃる」

声をかけられたことに気づいた太陽の主は、

真っ赤に照らした身体を大きく前後に揺らし、時折その肉体美を輝かせながらポーズをとっていた。

「やぁ、雲の主。しばらく休んでましたからな。いつもより気前よく照らしてますよ。どうですか、このポーズ。人間の真似ですが、これがまたよく光を放って照らせる照らせる。はっ!はっ!はぁー!」

それを聞いた雲の主はバツが悪そうに斜めに首を傾げていった。

「いゃぁ申し訳なかった。妻と龍神の扱い方について喧嘩してしまいましてなぁ。妻の黒い雲がなかなかひかなかった。すまんことをした」

そう、雲の神はふわふわ浮きながら太陽の神に謝っていたが、太陽の神は、

「気にするな!おかげで新しいポーズを発見できた。はいっ!はいっ!はいぁっ!」

太陽の神はひたすら肉体美を輝かせるポージングに夢中になり、その度に物凄い熱と光を発していた。

「太陽の主。ではまた」

雲の神はそういうと、ふわふわと流れていった。

そして場所は変わり、雲の神が管理する、神様専用の飛行センター。

今日は、3日後に行われる八百万の神の集会の為、センターはとても忙しい状況となっている。

「お次の方。はいっ、あっ魚の神様ですね。あちらに飛び立つ為の雲のスーツ、ご用意出来ていますので、着用後すぐ旅立てます。行ってらっしゃいませ。お次の方ぁあっ!茶柱の神さまでございますね、こちらに。揺れることのないスッポリ雲にお入り下さい。どうぞ」

案内係が五柱、それぞれ横一線で現れる神々をどんどん空へ送り出している。

どこまでも透き通るような青い空と、形まばらにながれていく沢山の雲が、全てこの国を守ってくれている神々達とは、なんと凄いことか。

そんな、皆が忙しく動いている隅で、胡座をかいて出航口をじっとながめて座っている子供がいた。

あまりいい表情とは言えない顔つきで見ている。

皆の目につかないのか、そこに彼がいることを誰も気付いていない。

「お次の方!」

案内係が声を上げた時、「わしじゃ」

と穀物の神が返事をした。

穀物の神が雲の乗り物に乗り込もうとした時、

隅で胡座をかいていた子供が穀物の神に向かって走り出した。

穀物の神は振り返るが、案内係が寸でのところで子供を止めた。

「離してくれよ!穀物の神様のところに行かせてくれよ!!」

子供は力を振り絞って抵抗するが、案内係と言えども神を案内する神である。下手をするものに容赦は無く、敵う相手ではない。

「雲の神々申し訳ないが、あの子供をわしの蔵社(くらやしろ)まで運んでいって欲しいのじゃ。すまぬ」

穀物の神は、追いかけてきた子供の言葉に返事をすることなく、そのまま飛行センターの神々に預け行ってしまった。

残されたその子供は、「行かないで」と大きな声をあげて泣いた。

案内係に押さえつけられている子供。

すると後方から、その子供を心配するように現れた神がいた。

「まぁ、なんと可哀想な小さき者よ。」

そういうと両手を大きく開き、押さえつけている案内係を、その子供からふわっと引き離してしまった。

子供もそのまま口を閉じ、その場に立ち止まっている。

子供は口を動かすが声が出ない。

「お前は何者だい?」

引き離された案内係は、身動きができない状況下でそれを見て、目を丸くしていた。

指先を少し動かしたかと思うと、子供は「あっ」

と声を出した。

「なぜここにいる。私に教えておくれ」

白くふわりとした生地に、金の刺繍のはいった格衣を纏ったその神は言った。

神は子供に尋ねたが、何かを感じ取ったのか、子供は話せずにいた。

神はその子供をじっと見ていたが、口を開かない子供の心を理解し

「おい、私は集まりには行かぬ。所用ができたと向こうにはそう伝えておくれ」

案内係にそう伝えると、子供を抱きあげた。

案内係は声が出ない。

抵抗できない状態のまま、その神は子供を抱え、どこかに行ってしまった。

そうなるとただでさへ忙しいのに、困ったことになったと、飛行センターは慌てだした。

急いで浮遊している雲の主を呼び出し、代わりに子供を連れて行ってしまったその神の元へいって、話をしてきてもらおうということになった。

「さぁ、可愛い坊や。私の社に着くまでゆっくりおやすみ」

柔らかく、ふわりと風を含むその神の纏う格衣に包まれるように抱かれ、子供はすーっと優しく意識が遠のくように眠りについた。

そしてしばらく静かな時間が流れた。

「さぁ、ついた。」

そう言った先には、目を奪うほどの、とても立派な社が現れた。

神が社に近づくと、ここに使える神々が出迎えで、入り口を挟んで左右横一列でたっている。

「おかえりなさいませ」

皆の声が綺麗に合わさる。

神は皆の間を抜け、社の中へとはいっていった。

神が進む奥へ奥へと進む場所場所で、挨拶の声が飛び交う。

神は全てに目でかえす。

奥の神の間につくと、扉が勝手に開いた。

そして中に入ると同時に、襖が軽く閉まる音がトンッと鳴り、閉まった。

2人の他に誰もその部屋の中にはいない。

白い絹の布が薄く敷かれたその場所に、神は子供を寝かすようにそっと置いた。

すると子供は目を覚まし、辺りを見回した。

目を覚ました子供に、神はそっと囁く様な優しい声で尋ねた。

「お前の名はなんという?」

子供は辺りを見回していた目を神の方に向けた。

その空間なのか、神の存在なのか、そこでは絶対に騒いではいけない場所である事を、体が自然に察知した。

もう泣き喚く様な気持ちは無かった。

玄郎太(げんろうた)。ともうし…ます。穀物の神さまはどこにいるのでしょうか…」

子供は今にも泣きだしそうだった。

その泣きそうな、いじらしい姿に

「おお。なんと可愛らしい。お前はここにいれば良い。私がお前を大切に育てよう」

神は愛おしくなり、すぐさま子供を抱きしめた。

神の大きさをなんとなく理解できている玄郎太は、ぐっと胸が詰まるような思いを感じていた。

神は玄郎太を可愛がり、その胸の中でとても大切に抱いていた。玄郎太の心は嬉しさよりも、震えていた。

この神の偉大さは、なんとなくではあったがその身に感じていたからだ。

しばらくして、社の外が騒がしくなった。社を守る神々の慌てる声が聞こえてくる。

「大地の神!子供をお戻しくだされ」

偉大なる神の社に、穀物の神が現れた様だった。

社の者達がまるで攻め入る様にやってきた穀物の神を、なんとか止めようと必死であった。

だが、とめようとするも、ここは偉大なる大地の神の社。

穀物の神もある範囲までしか入ることはできない。歯痒い思いの中、穀物の神は必死に声を張り上げ訴えた。

玄郎太を愛おしく可愛がっている神は、穀物の神ではとても太刀打ちできる存在ではないほど大きな存在である。

が、穀物の神もその子供となると、引き下がるわけには行かなかった。

「我は大地の神なり。お前如きが私に何を言う。神の世で身寄りもなく、泣く子供を拾いあげたまで。捨ていったではないか。もうお前の子ではなかろう。」

大地の神は現れ、そう入り口に張る大きな御簾の向こうから穀物の神に向けそう発した。

穀物の神は深々と頭をさげた。

「突然の謁見をお許しください。

恐れ多くも穀物の神が大地の神に申し上げる。その子供、真に我の子、稲に宿りし子供なり。田に返さねば稲穂が実ることはなき。米無き稲になりまする。その者を、どうかあるべきところへお返し下されますよう、お願い申し上げます」

そう伝えると、穀物の神は深く頭を下げた。

表情の変わらまま、真っ直ぐ穀物の神を見つめていた。

すこしだけ静かな時間が流れた。

穀物の神はずっと頭を下げている。

「しばし待たれよ、穀物の神よ」

大地の神はそういうと、大きく右手をあげ、袖の布が舞う様に、ふわっと向きを変えた。

そうして後方にある奥の部屋に向かった。

奥の部屋には玄郎太がいる。

奥の部屋に着くと、風の様にサーっと扉が開いた。

その部屋の隅に、玄郎太が小さくうずくまっている。

大地の神は玄郎太に問う。

「お前は稲の子供の神。元を辿れば私の子でもある。だが穀物の神がお前を返して欲しいと言うて来た。

お前は自分のやるべきことから逃げてきたのか?怒らぬから言うてみよ」

大地の神は玄郎太を見つめ、目線を合わすようにそばにそっと座った。

玄郎太は穀物の神が来ている事を知ると、べそをかいて泣きそうになった。

だが、大地の神の優しさに、その目を見つめいった。

「僕は、僕は怖くなっちゃいました。雨ばかりでなかなか晴れないから、もう出来ない無理だって。もうどうしていいか、わからなくなってしまったので、穀物の神様に助けてほしいとお願いしに行きました。でも、穀物の神様は、自分でより深く考え頑張りなさいって言われると、それからは会ってくれなくなりました。でも、このままだといけない、どうしても分からない。と悩んで、だから神様の集まりにいく大切な日に会う為に隠れてたんです。うっうっ」

大地の神はそれを聞くと、玄郎太の頭を撫で、そっと抱き上げた。

泣く玄郎太を優しく抱きしめ、心休まるようなあたたかい声で

「そうか、頑張っていたのだな。私もそこは謝らねばならぬ。ますますお前が愛おしいぞ。

私はお前を受け入れたいが、お前が思うよりも穀物の神はお前を大切に思っておるようだ。

お前の悩みの原因を、私は知っている。お前が悩まぬ様つとめるぞ。だから、寂しくはなるが、穀物の神にお前を返そう。

その言葉を聞いて安心した玄郎太は感謝を込めて頭を下げた。

大地の神は玄郎太を抱きしめ、そのまま抱き上げた。

そうして穀物の神の待つところへと足を進めた。

風の様に歩く大地の神の進んだ先には、穀物の神が未だ頭を下げた状態で待っていた。

その姿を見た玄郎太の表情は言うまでもなかった。「穀物の神よ、お前に返そう。玄郎太の訴えを聞いた。私も謝らねばならぬ一件である。穀物の神よ、彼らに見える愛情を注いでおくれ。」

大地の神は、静かに御簾を上げ、玄郎太を穀物の神の元に向かわせた。

戻ってきた玄郎太に、穀物の神はほっとした顔を見せ、笑顔であった。

「では玄郎太。良い実を実らせておくれ。私はいつでもお前の味方だよ。忘れないでおくれ」

穀物の神と玄郎太は、大地の神に深く頭を下げた。

すると大地の神は御簾から姿を現し、穀物の神と玄郎太の前に立った。

そうして大きく両手をあげると、それぞれの頭の上に手を置き、祈りを送り込んだ。

辺りは光に包まれた。

穀物の神と玄郎太はあるべきところにかえっていった。

それからはそれぞれの役割に精を出し励んでいた。

秋の実りの季節になると、大地の神は玄郎太の頑張りを感じとっていた。

そして、愛おしい思いと共に大きな喜びを感じていた。

穀物の神と玄郎太の原因とも言える神二柱がその後大地の神に呼び出された。

雲の主と妻の雨女雲(あまめぐも)のニ柱だった。

二柱は周りに迷惑をかける事なく神としての仕事をこなすようにと大変厳しくお叱りを受けた。

雲のニ柱はしばらく自粛を言い渡された。

二柱の自粛中は雲ひとつない真っ青な空が続いた。

そこに、元気に張りに張った声が聞こえてくる。

「ムン!ムン!いいポォーズ!!」

と毎日変わらぬ元気な神が一柱。

圧倒的な熱と光を、その溢れる肉体によるポージングから放ち、今日も世界を熱く、暑く照らしている。


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