昼食前
三題噺もどき―ろっぴゃくきゅうじゅうろく。
マウスを操作して、開かれていた画面を閉じていく。
ただ閉じるだけではなく、この後にも使いそうなウィンドウは縮小をしておくだけに留める。基本的には辞書を引いたりするのだけど、探せるものはネットで探した方が早かったりするからな、使えるものは使わなくては。
「……」
すっきりとしたパソコンの画面には、地球儀がくるくると回っていた。
壁紙にこだわりはないが、毎日同じ画面なのも嫌なので、ランダムで変わるようになっている。この地球儀の画面は案外頻繁に出ては来るな。
「……、」
光る画面から視線を外し、掛けていた眼鏡を机の上に適当に置く。
ブルーライトカットの機能だけがある眼鏡なので矯正するものではない。そうしなくても視力はよすぎるくらいにいいのだから視力矯正としての眼鏡はいらない。
むしろ抑制するために眼鏡が欲しいくらいである。調整は自分で出来るからそれもいらないのだけど。
「……」
机の上に置いていたマグカップを手に取り、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
今日はいつもと変わらない真黒なパンツを履いているので、最悪溢しても怒られることはない。そもそも溢すこと自体あまりないのだ。この間の起こったことは例外中の例外である。私も驚いたくらいだからな。
「……」
コップを傾けながら、時計を見ると、丁度いい時間だった。
―そろそろ昼食の時間である。
人間は夜更かしでもしていない限りは寝静まっている時間だな。
「……」
しかしその割には、廊下の奥から歩いてくる気配がない。
大体呼びに来る時間は決まっているのに、休憩の時と言い昼食の時と言い。
何かに集中でもしているんだろうか、別にそれはそれでいいのだけど。
「……ふむ」
一端、ここで仕事はしめてしまったし、腹も減ってきたので、リビングに向かうとしよう。
準備をしているようなら手伝えばいいし、いらないと言われたら大人しく待てばいいだろう。
「……」
手に持ったままのマグカップの中身がないことを確認し、一応傾けないように気をつけながら椅子から立ち上がる。
念の為パソコンの電源をスリープ状態にしておくのを忘れずに行い、眼鏡が落ちないように置きなおす。適当に置きすぎた。
「……」
戸に手をかけて押し開くと、廊下は暗くリビングから洩れる光が少し入っているだけだった。キッチンにいるような気配もないが……一体どこで何をしているんだろうか。買い物の予定でもあると言っていたか?聞いてはないが、急遽必要になったのだろうか。
それなら靴がなくなっているだろうから……。
「……、」
と、リビングに向かいながら、玄関の方を覗くと。
そのすぐそばにある浴室に続くドアの扉が開いた。
そこには、洗濯機も置かれている。
―細く漏れてきた光に混じって、鼻をつくような薬剤のような匂いがした。何をしていたんだ?
「――ぁ、ご主人」
どうやら、洗濯物を干していたらしく、なぜか手に洗濯ネットを持っていた。
基本的に外に干すことはなく、浴室乾燥でかわかしている。モノによっては浴室ではなく、リビングに干したりしているけれど。
「洗濯中だったか?」
「あぁ、はい。でももう終わりました」
どうやら手に持っていた洗濯ネットは、チャック部分が壊れてしまったらしく、捨てるために持ってきたらしい。何か外に干すものでもあったのかと思った。
どちらにせよ外は雨だから干せないな。リビングに干すのをコイツはあまり良しとしないからそれもないだろうし。
「お昼食べますか」
「なんだ、できてたのか」
てっきり今から準備をするのだと思っていた。
まぁ、効率のいいコイツの事だから、その辺は考えて動いているのだろう。
さて、今日の昼食は何だろうな。
「今からゆでるので、手伝ってくださいね」
何を作るんだ?
「あぁ、そうめんか」
「皿と冷蔵庫に麺つゆがあるので」
「わかった」
「あとボウルに氷を入れておいてください」
「野菜は何かないのか?」
「トマトでも切りましょうか」
お題:コーヒー・地球儀・ネット
※蝙蝠くんは風呂掃除に夢中になってて、掃除して洗濯まで終わって廊下に出たらご主人が居たので急遽そうめんを作ることにした。ホントはもっと凝ったもの作ろうと思ってたのに……※