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第九話 変化

 この空間で過ごすうちに、俺の海釣りの腕はめきめき上達していった。

 こんなことをしている場合では無いのだろうが他にやることも無いし、本を読む趣味も無いし…


 ナナシに刀と魔法を教えてもらってはいるが一日の練習量は二時間ほどで、正直これで戦えるのか不安なぐらいだ。

 要点だけ教えているから大丈夫だとナナシは豪語しているが…


 そしてそろそろ、次の旅の準備をすることになった。

 明日、俺はいよいよ魔人に変身する。

 やはり三か月ぐらい経てば、ヒューダルの件を騒ぎ立てている連中は少なくなってきたらしい。


 しかし、呪い…

 簡単な説明こそこの前から聞いてはいるが、正直何故わざわざ呪いを使うのか分からない。

 呪いなんてカルト集団が使う物、使わなくて済むなら使いたくは無いのだが…


 今日もいつもと同じように夕飯を食べた後に、ナナシに聞いてみる。



「なあ、何でわざわざ呪いを使うんだ?魔人に変身する魔法とか無いのか?」



「あるにはあるけど…相手が魔人だと色々厄介なんだよね」



「厄介?」



「うん。魔人に姿を変える魔法はあるけど、それはあくまで見た目を変えただけで中身は人間のままなんだよ。五感とか、血の成分とか、匂いとか…そういうのは人間のままだから、ただでさえ五感の鋭い魔人相手だとすぐにバレる可能性がある。そういうのを誤魔化すためにいちいち魔法を重ね掛けするのも面倒だからね」



「そうなのか。呪いのことはよく分からないが、魔法と違うから魔容量とかも関係ないのか?」



「まあ関係あるよ。呪いの内容にもよるけど、魔法と同じように実現が難しいものほど使用する魔容量も多くなる。けど魔人に変身するぐらいなら全然大丈夫だと思うよ」



「そうなってくると、呪いと魔法の違いがますます分からなくなってきた…それに、代償は神が決められるんだろ?使用される魔容量と代償に関係は無いのか?」



「代償はまあ、例えばの話、神が自分の信者の信仰心を試すためにわざと重いものを要求したり、食事や装飾品が好きな神が大量のそれを用意させたりってだけで呪いに直接関係は無いよ、手間賃みたいなもの。それで…呪いと魔法の違いか。どちらかというと、呪いを使わなければならないこの世界がイレギュラーなんだよ」



「というと?」



「元々、魔法というのは第一位が作ったんだけど、その時は言語すらまだ確立されていない状態だったんだ、魔法の名称なんて決まっていない。原初の魔法は、自分が思い描いたことを現実にするって機能だった。それに名称を、火炎(ファイア)とか付けて種類分けしているのがこの世界の魔法」



「へえ、最初はずいぶん便利だったんだな。それなら好き放題できるじゃないか」



「そうなんだよ。でも好き放題できるせいで文明が発展した試しが無かったから、ギルや私が使っているような魔法が作られたわけ。魔法がそもそも無い世界は割と文明が発達しているんだけどね」



 ナナシは食後のハーブティーを一口飲むと、今までの話をまとめた。



「本質的に呪いは魔法と同じものだけど、この世界でそれが横行すると文明が滅びるのが見えている。神も自分の意思だけで原初の魔法を使用することは禁止されている。よって、呪いを発動させる際は魔方陣を書いたり呪文を唱えたりなどの正規の手順を神と人が共同作業することが義務付けられていて、その仕組みはこの世界を管理する神に課されているんだ。生き物と星を守るためにね」



「つまり、その原初の魔法を手順無しで使える神は居ないのか?」



「まあ、第二位は使える。あと特例で第二位に認められた神も使える。まあ今は関係ない話なんだけどね」



「なるほど」



「分かった?」



「…難しい話だということが分かった」



「まあ、そうだよね…そもそも魔容量というのも後付けなんだよ。あまりに無制限だとそれもまずいってことである程度の知性を持つものは魔容量を設けることにした。初代の神、第一位には魔容量という概念自体無かったから、魔法は使い放題だったんだけどね」



「神にも色々制限があるんだな」



 身体能力や経験の差こそあれど、頭脳は人と大差無く、魔容量の概念もある。

 神と呼ばれている存在も思っていたより人と近いのか。


 まあ、代償は呪いに関係ないと知れて多少安心した。

 もし、中途半端な魔人に変身して戻れなくなったり、右足でも無くなったりしたらどうしようかと思っていたが。


 今日はもう寝よう。

 詳しいことは明日分かるはずだ。



ーーーーーーーーーーー



 朝起きていつも通り朝飯を済ませ、身支度をする。

 ヒューダルで大騒ぎを起こしたのは三か月前で夏の初めだったから、今頃秋に入りかけているところだろうか。

 例年通りなら、恐らくまだ残暑が厳しい時期だ。


 俺たちは外に出て、浜辺の岩が露出してある部分で呪いの準備を始める。

 砂浜や草原にチョークで書くことはできないから仕方が無いが、それにしてもこの暗い色の岩礁…

 やけに広く平らで自然に生成されたとは思えない、呪いの儀式のためだけに作られたかのように丁度良いが。


 白いチョークで丸や三角を組み合わせ、複雑な模様を書き終えて魔方陣の真ん中に立つ。



「あ、そうだギル。その…服全部脱いでもらえるかな?」



「服を?」



「もしかしたら変身後に服のサイズが合わなくて服が弾け飛ぶかもしれない…」



「それなら仕方が無いな…」



 俺は服を脱いで全裸になった。

 この気候の調節されたこの空間では寒さこそ感じないが、こんな外でこんな姿になるなんて居心地が悪い。

 ナナシは俺に背を向けている。



「…じゃあ、呪文を唱えればいいのか?」



「うん、お願い。」



 俺は一呼吸置いて、暗記した呪文を唱える。



「…宇宙の果てに生まれし我が神、ナナシよ、空間の深淵をも支配するその力を我に与え給え」



「汝の願いを」



「我を魔人へと変化させ給え」



「その願い、引き受けよう」



 ナナシは俺に背を向けたままでそう言うと、地面に書いた白い線の魔方陣が赤く光を放ち始めた。

 何だか身体全体が痛痒い。

 毛穴が全部開いて血流が良くなっているような、骨が少しずつ変形しているような感覚がする。


 三十秒程だろうか、奇妙な感覚は無くなった。

 黒い鼻が見える。

 恐る恐る触ってみると、口が犬のように前に飛び出している。

 手も鋭い爪が生えていて、全身灰色の毛で覆われている。


 心なしか背も少し伸びた気がする。



「おお…なんだこれ…」



「もう大丈夫?」



「ああ、無事変身できたみたいだ」



「それなら良か…って、まだ服着てないじゃん!」



 ナナシは悲鳴を上げると、そのまま走って海に飛び込んでいった。

 確かに、毛に覆われているせいで全裸の感覚では無くなっていた…


 服を着ようとしたが、伸縮性のある下着が限界で、シャツとスラックスは毛のせいで着られなくなってしまった。

 仕方が無いか、ナナシを呼ぼう。



「おーい、もういいぞ」



 ナナシは海面から顔を出した。

 そういえば服を着ているのに泳げたのか、まあ泳げそうな見た目ではあるが…



「…下着だけじゃん!」



「きつくてこれしか着られなかったんだよ」



 ナナシは渋々海から高く飛び上がると地面に着地した。

 海に入っていたのに服は全く湿っていないように見える。



「じゃあまた服を用意しないとね、それより…」



「それより?」



「何だか魔人にモテそうな見た目になっちゃったなぁ…」



「え?そ、そんなことあるか?」



「どの魔人になるかは、生まれた場所の気候とかで変わるんだけど…銀の毛並みの狼…元々のギルのダウナーな雰囲気とかも相まってこれはヤバいぞ…」



「ヤバいって…人間だった時はモテたことなんて無いのに、魔人になった途端モテるなんてことあるか?」



「うーん、人間の時もモテそうな顔してたけどな…自己肯定感の低さで好意に気が付いてなかっただけじゃないの?」



「あんたみたいな感性の人間ばっかりだったら良かったのにな…」



 俺たちはそんなことを話しながら家に帰った。

 とりあえず羽織るだけの簡単な服を上から着たが、嗅覚が鋭くなっているせいで、箪笥に長い間しまってあった服の独特な匂いを強く感じて辛い。


 今日から身体を洗うのが大変になるだろうし、口の構造が違うから食べ物をよく噛んで味わうこともできなくなるのか…?


 さっさと人間に戻りたい…

 

 そんな俺のことを気遣ってか、今日の夕飯は長い時間煮込まれたポトフと柔らかいパンだ。

 確かに、奥歯ですりつぶさなくても味を感じられるメニューだろう。


 今日はいつもの量じゃ満足できずにおかわりした。

 よく噛まないこともあって満腹中枢?とやらが刺激されないとかそんなところだろう。



「そういえば…特に触れてこなかったが、呪文かっこつけすぎないか?」



「え、そ、そうかな?」



「呪文って神によって決まってるんだろ?その…空間の深淵を支配とか、その…」



「い、いや、でもかっこいいでしょ?」



「第四位にしては壮大すぎるというか、何というか…」



「いいでしょ別に!それよりまた物置から服探しておいてよ?」



「…分かったよ」



 話を逸らされたが、まあそっとしておいてやろう。


 しかし、魔人の国か…

 バレたら集団リンチ間違いなしだな。

 文化の違いとかで不信に思われるのは避けたい。


 今夜は歴史や文化について書かれた本を軽く読んでみよう。

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