第十七話 新たな仲間
第四位のゴレイを倒した俺たちは一旦ゴレイの身体を持ち帰り、これからのことを考えていた。
夜も更けてきたので、あの建物にいた兵たちは今頃眠りから覚めて大騒ぎしていることだろう。
「しかし、あの兵たちをそのままにしておいて良かったのか?機密機関とかいう奴ら、今頃大混乱だと思うが……」
「ゴレイのことだから、もし自分がやられて連絡が取れなくなったら、ぐらいのことは伝えてあると思うよ。恐らく他の魔神に連絡がいくようになってるんじゃないかな」
「それって大丈夫なのか?」
「ゴレイは第四位の中では割と新入りだし実力も下の方だから、あんまり重要視されてないと思う。ヘッヘッヘ…あいつは第四位の中でも弱いからなァ……みたいな感じで」
「何だか急に可哀そうになってきた」
少し遅めの夕飯を食べながらそういった話をする。
ゴレイが神になったのは確か…西暦で言うと100年前後だっただろうか。
魔人のほうの歴史はほんの少ししか習わないのでうろ覚えだが。
そのゴレイでも、第四位の中では新入りの類になるのか。
「まあ仲間が増えたのは良かったよ、しかも魔人だからね。魔人の国での活動は彼、ケンプ君にしてもらおう。そしたらギルは変身する必要が無くなるし」
「ケンプさん…は羊の魔人だろ?目立ったりしないのか?現にあんたと目が同じだからって疎まれていたみたいだが……」
「そういった差別が蔓延ってるのは、ニューアみたいな信仰の篤い国だけだよ。他の国でそういった考えの人は少ないし、いたとしても嫌われると思う」
「なら大丈夫か」
まだケンプさんの実力が分からないから何とも言えないし、あのキュイとササの二人はナナシより弱いだろうから三人に危険なことは任せられないだろう。
とりあえず、次の標的をナナシが見つけるまで待機だ。
釣りや読書を楽しむ日々をしばらく堪能しよう。
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「こんな豪華な部屋を一人で使ってもいいのですか……!」
「元々はあなたのような、保護すべき人々を匿おうとこの大きな屋敷を作ったのですよ。気にしないでください」
興奮したように部屋を物色するケンプに、キュイはそう言った。
キュイとササが作った屋敷には同じような部屋がいくつも並んでいて、個室は全て鍵付き、トイレと浴室が完備してある。
開けっ放しにしていたドアからササが顔を覗かせる。
「ケンプさん、簡単なご飯しか出せなくてごめん……まだ菜園とかが整ってなくて……」
ササは焼いたばかりの大量のパンをテーブルの上に置いた。
備蓄していた小麦粉から急遽作ったのだ。
「簡単だなんてとんでもございません!用意してくださりありがとうございます!」
ケンプはササに向き合って言った。
「ところで、少し疑問に思ったのですが…キュイ様は犬の魔神、ササ様は人間の神ですよね?どういったご関係ですか?」
「あー、俺たちはゴレイの部下的なことをしてたんだ。もちろん生まれも育ちも全く違うところだ。けどまあ、いいダチだよな!」
ササはキュイの肩を軽く叩いた。
ケンプは少し安心したように一息ついた。
「ご友人なのですか!失礼かもしれませんが、恋人同士だとばかり…お二人の屋敷に私が入り込むのは気が引けましたが、それなら一安心しました!」
「……え、恋人同士…?いや、キュイって男じゃ…?」
「ササ、今まで私のこと男だと思ってたの…?」
「え、あ、そ、そうなの!?女…の、人…だったの?」
ササはキュイと距離を取り、二人の間に沈黙の時間が流れた。
それを気遣ってケンプが発言する。
「ササ様……ササ様の気持ちもよく分かりますよ。キュイ様の見た目は14、5歳程。魔人が女性らしくなるのは平均して18歳頃ですし、人間であるササ様が魔人の性別を見分けるのはとても難しいと思います…」
「そ、そうなのか…今までごめん、キュイ……」
「今までと同じように接してくれるなら、問題無い」
キュイは表情を変えずにそう言い、ササの手をとった。
ササは顔を少し赤らめながら、上目遣いでキュイを見つめる。
「え、そ、できる、かな」
「……ササは、私が男だったほうが良かった?」
「そ、そういうわけじゃなくて…その…!今までの距離感を思い出すと、俺……!」
ササは突然大声をあげながら部屋を飛び出していった。
廊下を走り去っていくササをキュイが見つめる。
「ケンプさん…初日なのに申し訳ありません。部屋にあるものは自由に使用していただいて構いませんので、今日はもうお休みください」
「キュイ様…押せばいけますよ」
「……ありがとう、ございます」
キュイは一礼すると部屋のドアを優しく閉めた。
ケンプは足音が聞こえなくなると、柔らかいパンを口いっぱいに頬張った。
キュイはササと会話をしている時は少し幼さを感じるようなしゃべり方をするが、他の者と話している時はしっかりとした喋り方をする、とケンプは感じた。
恐らく、ササの前だと緊張してしまう、もしくは成長が止まったままの素の自分が顔を出すのだろう。
「……結局、僕が居候するには気の引ける感じになっちゃったな」
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第二位とその部下たちが使用している空間、全てをまとめ上げる第二位にしては質素ともいえる木造の建物には、第二位お気に入りの第三位しか入ることができない。
第二位が研究施設に居ない場合は、ここにいる可能性が高い。
玄関にはドアベルがあり、第三位であるサリィはそれを鳴らした。
サリィはリリィと同じく第二位が初期に作った第三位であり、その姿は少し人に似ているが、如何なる種族とも違う。
黒曜石のような黒い身体、頭部は完全な球体をしており、目などは無く、大きな牙が覗く口が顔の半分ほどを占めている。
彼女のことを知らない者が一目見たら、肉食獣が威嚇をしているような恐ろしい印象を受けるだろう。
(おかしいですね、いつもはいるはずなのに)
ドアベルが家の中で鳴っているくぐもった電子音が聞こえるが、返事は無い。
手に持っている書類をちらりと見て、サリィはまたベルを鳴らしてみた。
やはり返事は無い。
技術の進んだ今でも紙でデータを扱うことが多いのは、まだ電子機器が普及していない世界から来た者が複数存在するからである。
サリィに言わせてみれば、そのような者たちにこちらが合わせるのは無駄である。
「第二位なら今出かけているわよ」
後ろからそう声をかけられてサリィは後ろに意識を向けた。
いつの間にかリリィが後ろに立っていた。
「リリィさん、いつの間にいたのですか。しかし、第二位が出かけているなんて珍しいですね」
「とある事情で生活が厳しくなっていた民たちを安全な場所まで移動させているのよ。あと数十分で帰ってくると思う」
「そうですか、それではここで待たせてもらうことにします」
「……その書類は?」
「私のグループの研究報告書です。前から第二位には軽く伝えていましたが、やはり前世を思い出させるという行為は途轍もないリスクを伴いますし、私は不安を抱えています」
「急に情報を与えすぎると脳が耐えきれなくて死ぬ、ってことはこの前聞いたけど?」
「それだけでは無かったのです。もし準備が不十分だと魂の記憶が完全に破壊されます。そうなった魂はどうやっても前世を思い出すことは出来ません」
「準備が不十分?」
「詳しい話は省きます。この前、前世を思い出すトリガーが揃った個体は、外部から影響を受けない環境にある場合眠り続け、前世の経験を夢で追体験することを報告しましたね」
「ええ、第一位の魂となると、膨大な時間を要するってことでしょ?」
「そうです。第一位が死んだ時から、今までの記憶を全て追体験するにはどのくらいの時間がかかるか分かりません。そして、その途中で何か邪魔が入り、夢が邪魔されてしまうと…エラーが起きます。そうなった場合、復元は不可能です」
「そうなのね、でも第二位は時間を止められるから問題無い気がするけど」
「……私が心配しているのは、他にあります。この件は第二位には言えませんが」
サリィの顔つきがより一層厳しくなる。
剝き出しにされた歯が光を反射して光っている。
「恐らく第二位は、第一位の魂を見つけた場合、しかるべき場所にて身体ごと厳重に保護します。その際、老化と栄養失調を防ぐ薬剤などに漬け込んで…そういった詳しい情報は重要ではありません。問題は、第二位が私たち第三位を含めた全ての時を止めるのではないかということです」
「……第二位が、計画において私たちを邪魔者だと思っているってこと?第一位が記憶を取り戻すことを私たち第三位が邪魔すると思っているの?」
「そうではありません。長い年月を過ごすことで、私たち第三位の精神が崩壊してしまうのを危惧して、第二位は時の止まった空間に第一位の魂と共に、二人きりで……」
「そんなことしたら……第二位の精神も危ういじゃない!第一位と同じ轍を踏むことに!何年一人きりになるか分からない…!」
「あくまで仮定の話ですが。時を止めることは第二位にしか許されておらず、その間第二位は意識を保ち続けなければならない。もしその時が近づいたら、私たちにも時間を止めることを許可してもらい、日替わり…年替わりで当番を交代するなどの提案をしましょう」
「……そうね、みんなで止めることができればきっとそうしてもらえるわ」
「ところでリリィさん、その恰好は?露出が普段より多いように感じますが」
サリィは、大胆に出されているリリィの肩や胸に視線を向けた。
艶があり身体のラインが出るドレスは、普段使いするには派手すぎる気もする。
「第二位が帰ってきたら私が今進めている天国の構成について話そうと思っていたのよ。二人きりなのに普段着なんて失礼だわ。あなたこそ珍しいじゃない、メンズのスリーピーススーツなんて着こんじゃって。いつも普段着はTシャツなのに」
「私も今から第二位に研究成果の詳しい内容を二人で話そうと思っていたもので。第二位はこういった服が好みだと分かりましたので、この服を着てきました」
「……根拠はあるのかしら?」
「いくつかの服を日替わりで着ることで第二位の反応を調べました。ドレスなどの女性的な服はあまり反応がありませんでしたが、スーツや軍服のような系統の服を着た時は第二位の瞳孔が普段より開き、全身を眺めるといった動作が認められました。周りの目が少ない時はお褒めの言葉をいただきこともありました」
「だからあなた、最近スーツが多かったのね……!ちょっと待ってなさい!すぐに着替えてくる!第二位もそう言ってくださればいいのに!」
サリィの答えを聞く前に、リリィは転移して姿が見えなくなった。
サリィはシャツの襟を正しながらため息をついた。
(何故第二位はこういった服が好きなのだろうか。もしかしたら、女性がこのような男性らしい服を着ているというのが好きで……大きな鎧から美しい女性が、というのも好きと考えられる。よし、今度リリィにそう言って実験台にさせてもらうとしよう)
サリィは珍しく口角を上げたのだった。




