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第十二話 謁見

 狩人が目の前にいるか弱いウサギを仕留めないのは、どういった理由があるだろうか。


 一つ目、

 ウサギに情が湧いてしまった場合、優しい狩人は見守ることしかできなくなる。


 二つ目、

 恐ろしい捕食者が場を支配している場合、狩人が動くことは許されない。



 もしこの二つの状況が重なってしまった場合、狩人は目の前にいるかわいいウサギが捕食者に無残に食い散らかされるのを見ながら静かに泣くのか、それとも捕食者に決死の覚悟で一矢報いるのか…


 私は狩りの経験なんて無いが、自分が情けない前者であるということを今、身をもって体験している。



「貴公のかわいいウサギ達は、まだ自由を満喫している最中のようだぞ。」


「も…!もう少々お待ちください!彼らに慈悲を!」


 独房から一時的に解放された私は、第二位に跪きながら許しと同情を乞うていた。


「貴公には、人の世に干渉した挙句同類を封印するような、いじわるウサギに達にかける慈悲があるのか。貴公は大層優しいのだな、感動するよ。」


 第二位は玉座に座ったまま、涙を拭う演技を私に見せて笑った。ひとしきり笑い終わると、また話を戻した。


「けれど、けれどね。私は貴公らに十分すぎるほどの猶予を与えた。彼らが貴公の忠告を聞いて改心すればそこで終わり、千年の謹慎期間を与えるだけで許すと。しかし今のところ、彼らは元気に飛び回っている。」


「まだ、まだ期間はあります!そこまで待って頂きたい!」


「もちろんだとも、まだ時間はあるから私は気長に待っているよ。もし、貴公の放った矢が命中しないのであれば、私がお手本を見せるというだけだ。飛び回るウサギを矢で射って見せよう。」


 第二位の言っていることは何も間違っていない。


 神が神を封印するというのは、位に関わらず、すぐに処刑される大罪だ。彼らがそれをしたことを第二位から伝えられた時、私は目の前が真っ暗になり、必死に彼らの処罰を考え直してくれと泣き叫んだ。


 結果、独房に囚われた私は第二位からチャンスを与えられ、彼らに一通の手紙を送ることが許された。

 戦争を故意に起こし、スポーツ観戦をするようなことは今すぐやめて、真面目に職務に取り組むようにという内容の手紙を送った。

 私の今の状況や、第二位のことを手紙に書くことは禁止されていた。


 私が彼らに、普段から甘く、全ての行いを黙認していたせいで、彼らは真面目に私の手紙を読まなかったのだろう。もしくは読んですらないのかもしれない。

 


「なぜ…なぜ第二位の名前を出して注意してはいけなかったのですか…!彼らもあなたの存在を知れば…!」


「なるほど、なるほど。貴公は今、自分自身がウサギに全く恐れられない程度の狩人であると自己紹介をしたようだ。確かに、私が直接注意すれば彼らはおとなしく巣に帰るだろう。けれどね、これはウサギ達を狩るだけの話では無い。」


 第二位は立ち上がると、私の目の前にゆっくりと歩いてきて、私を見下ろした。


「仕事をせずに、作物を食い荒らすウサギ達を可愛がりながら放置していた、ウサギが大好きな狩人に対する罰でもあるというのは、わかっているだろう?」


 私は何も言い返せなかった。

 私が普段から真面目に教育をしていれば、彼らはこんな運命を辿ることはなかったというのに。


 私が…


「まあまあ、そんな顔をするな。貴公が死ぬわけではあるまい。それに、まだ期間はあるだろう。



 『ギル達』が彼らと接触するまで、まだ時間はあるのだから…」



………


「ねえレノ、例の件どう思う?」


 銀髪の髪の長い女がそう言うと、レノと呼ばれた金髪の男は豪勢なソファに横たわったまま面倒くさそうに返事をした。一国の王でも手の届かないような価値の服に身を包んでいるが、服にしわがつくことすら心配していない。


「あ?封印が解けたのは外からの干渉が原因だろ?改良版を開発中だ。」


「いや封印の件もだけど、私たちの第三位から手紙が来てたでしょ?」


「ああ、今思い出したわ。いやー、手紙って開けるのに手間がかかるからな。あんな高度なもの、俺には開けられないぜ。」


「レターナイフで開けるだけじゃない、面倒だからって読んですらいないのね?」


「どうせまた趣味のポエムかなんかだろ。いくら俺たちを作ったからって、定期的にキモポエム送ってくるのマジ勘弁。バレないよう会う前にまとめて読むのも辛すぎな。」


「そんなこと言ったらおじいちゃんが可哀そうでしょ?」


「レナも笑ってるじゃねえかよ!」


 笑っている二人に水を差すように、彫刻が施されている重厚な扉が乱暴に叩かれた。それと同時に、低い声が聞こえた。


「おい!いるか?」


「いるよ!全く…魔人は空気が読めなくて困るぜ。」


「邪魔するぜ、シスコンにブラコン。」


「何だよゴレイ、戦争の話はこの前しただろ?」


 ゴレイと呼ばれたイノシシの魔人は、レノの目の前のソファに腰掛けると何枚かの写真をテーブルの上に広げた。


「これが例の『ギル』だ。今は魔人に変身しているらしい、偵察班によるとな。」


 レナが写真を拾い上げて一瞥すると、興味を無くしたようにそのまま写真を床に落とした。


「で?ルミーエは写ってないの?」


 レノが一枚写真をレナに見せた。


「ほら、こっちの写真にいるだろ?宿に泊まった時の写真だ、結構最近だな。」


「私、正直何でルミーエとギルだっけ?をこんなに警戒しているのか意味わかんないわ。だってあいつ、私たちに一回封印されてるじゃない。それにギル?はただの人でしょ?」


「警戒してるわけでは無い。もう一度封印するためにおびき寄せているだけだ。」


 ゴレイはそう言うと、持ち歩いている酒瓶を懐から取り出して一口飲んだ。


「しっかしレノ、最近俺ら魔人側が優勢だな?戦争はもう飽きちまったのか?」


「馬鹿言うんじゃねえよ、お前らが兵じゃないやつらまで攫って食っちまうから大変なんだよ!」


「そうよ!あんたたちを毛皮にして売ってないこっちに感謝しなさい?」


 レノとレナが不満そうにそう言うと、ゴレイもバツが悪そうな顔をしてドスドスと音を立てながら部屋から出ていった。



………


「全く、あいつら本当に自分勝手だよなぁ!」


「本当ですよ…こんなことをするために神になったのではないのに…」


 第四位の中でも暗黙のルールがあり、神に直接作られた神のほうが優遇されることが多い。

 前に人間、魔人だったが、神へと昇格をしたものは、そういった神達の『お使い』になることが半ば決まっていて、第三位も見て見ぬふりをするのが当たり前だった。


 そんなお使いになってしまった元人間のササと元犬の魔人のキュルルは、似た境遇であったために互いを親しい友だと認識していた。

 偵察班として彼らは透明化(インビジブル)を使用し、家の屋根を伝ってギルの後を追っていた。


「…正直なところ俺はあの、誰だっけ…ああ、ルミーエか、あいつをまた封印するってのには反対だぜ。あいつらが人間と魔人の間で戦争を起こしているのもめっちゃムカつくぜ…!」


 そうササが怒りを込めて言うと、キュルルも同意した。


「私も同感です。しかし、私たちまで封印されたら第三位に訴える機会を永遠に失ってしまう可能性がありますからね。そうなっては元も子もありません。」


「そうだな…レナ、レノ、ゴレイの他、俺たちも含めた7人は反対してるのに、なんでこんなに無力なんだ?あいつ…第三位が真面目に仕事をしていればこんなことにはなってないのにな。」


 それに…と、ササは付け足した。


「俺たち似た境遇だろ?学校にも行けず、流行り病に侵されて野垂れ死にする運命だった。それを憐れに思った第三位に勧誘されて。…だからさ、人間でも魔人でも同じように人生があって、こうやって友達になれてるんだから、種族の違いで争わせるなんて本当にムカつくんだ…!」


「…そうですね。それに、種族が違くとも毛色は同じですから。」


 キュルルが冗談めかして自分の茶色の頭を指さすと、ササも笑って同意した。


 ふと、キュルルが辺りを見渡した。

 ササもそれにつられて辺りを見渡すが、真昼の青空が広がっているだけだった。


「どうしたんだ?」


「実は最近、誰かに見られている気がするんですよ…なんというか、寒気や視線を感じるというか…」


「…マジ?俺も実は…」


「本当ですか?…もしかしたら、第二位が私たちを監視しているのかも…!」


「冗談はやめろって!本当にいるのか分からないじゃないか!」


 二人はそんな会話をして、再びギルの後を追い始めた。

 

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