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第十一話 真相

 次の日の朝、俺が起きてもナナシは俺を迎えに来ることもなく、連絡すらしてこなかった。恐らく拗ねているのだろう。それか、これだけの銀貨があれば二泊できると言ったから、ついでに俺に自由を与えているのかもしれない。


 まあいい。このまま拗ねて俺のことなんて放っておけばいいさ。

 あいつがどうしようと俺には関係のないことだし、もう会わなくなったらその時は魔人の旅人として生きていくか、また死ぬかを考えればいいことだ。


(ああ、そうだった。)

 あいつから目を預かっているんだった…俺は脱ぎっぱなしの服で適当に包んでいた目のペンダントを光に当てないようにサッと手持ちのハンカチで包むと、そのままカバンの奥底へと突っ込んだ。これで監視されることは無くなるだろう。高価そうな例の黒い服はカバンにしまってあるし、枕元に置いておいた刀も盗まれていないことを確認すると、俺は昨日と同じ服を着て腰に刀を差し、街を観光することにした。

………


 私は自室で情報を整理していた。机に資料や名簿などを広げながらメモを書き、床に落とし、それを何回も繰り返したおかげで、床には豪華な紙のカーペットが出来上がっていた。ふと窓の外を見ると既に明るくなっていることを知り、慌てて時計を見ると既に9時を過ぎていた。


 ギルに今すぐ連絡をしなければと思ったが、どうやら目がハンカチにくるまれているらしい。彼なりの拒絶だろうから、今日はそっとしておくことにしよう。


 私が人間を食べたことがあるというのは事実だが、大概の生き物を暇つぶしの一環として食べたことがあるだけで、常習的に食べたり、贄を納めさせたりしている訳ではない。

 普段から人間を食べる習慣が無かったにせよ、確かに人間であるギルからしたら恐怖以外の何でもないだろう。つい美味しかったから夢中で食べてしまったことを私は反省しながら考えをまとめた。


 ギルにはまだ伝えていないが、もうとっくに犯人は分っている。問題はここからのシナリオ作りだ。


 そろそろ、ギルに明け渡す情報を増やしておかないと、後半戦になるにつれて増えていく莫大な情報量に脳がパンクして発狂するだろう。そうなってしまっては、私としてもかなり困る。


 明日の朝までに矛盾のないシナリオを完成させなければ…



………


 結局、ナナシからの連絡は無いまま一日が終わり、俺は風呂を浴びて早めに寝ることにした。

 色々な雑貨屋や食料品店を歩き回ったせいか、すぐに俺は意識を手放した。




 翌朝、俺が起きると壁掛け時計は朝8時半頃を指していた。確かチェックアウトは10時頃だから、まだまだ時間がある。二度寝をしようとまた目を閉じようとすると、声をかけられて俺は悲鳴を上げた。


「おはようギル。」


「な、ナナシ!?」


 ナナシはベッドの横にある簡素な椅子に座って、小さな本を読んでいた。本を閉じると立ち上がり、ベッドの空いているスペースに腰をかけた。


「あの時は怖がらせてごめんね。私、色々な物を食べてきたからさ、それこそ魔人も、魔物も、そこら辺の虫ですら?だから別に人間を好んで食べてた経験があるわけではないよ。」


 そこまで話して、ナナシは何か考え始めた。


「…別に、これをギルに言ったとして人間を食べた過去が免罪されるわけでは無いな…ごめん。もしもう私と行動する気が起きないなら…」


「いいよ、もういい、分かったから。もうなんとも思ってないよ。」


 もうなんとも思っていないというのは、俺が今後ナナシにいいように使われた後に余韻もなく死んだり、俺がナナシに関与することでこの世が滅んだりしても構わないという意味も込められていた。


「…そう、それならね、これから今までギルに伝えてなかったことを言っていこうと思うよ。情報を隠していたのは、ギルが信頼に値する人物だと分かったら打ち明けようと思っていたためだから、気を悪くしないでね。」


「伝えてなかったこと?」




「まず、神に第一位から第四位までの順位付けがされているのは前に言ったよね。通常、生き物が存在している星には、第三位が一人と、その部下である第四位が割り当てられている。

 第一位が第二位を、第二位が第三位を、第三位が第四位を作ったんだよ。」


「第一位はもう死んだが、そいつが一番すごかったのか?」


「前に第一位と、第二位のほとんどが消滅した…死んだことを話したんだったね。

 第一位は、最初は一人だったけど膨大な時間を過ごしながら狂気とも呼べる過程を経て『思考』という感覚を手に入れたらしい。

 思考できるようになってからはスムーズに進んでいってね、宇宙を作ったり、色々な星を配置してみたり。

 正直、私が同じ立場にいて、時間という概念すら無い世界からここまで持ってくるのは無理だろうね。考えたくないよ。」


「じゃあ、その第一位はどこから発生したんだよ?」


「これについては本人も分からなかったらしい。

 様々な仮説があるけど、今一番信頼性があるのは、第一位が他の神を作ろうと試行錯誤する過程で発生した膨大な量の肉塊や破片が、試作品として同じく適当に作られた別時間軸上の別空間にバラバラに放置された結果、その一部が過去の第一位のような状況になって無限ループしてる説だね。

 第一位の実験の果てに生まれたそんなものが数億とあるから、まあ、総当たりすればいつかは過去の第一位に会える可能性もあるけど、そんな何年かかるか分からない面倒なことしてまで会うってのもねぇ…

 言葉に出して言うと、馬鹿げてるのを再確認したけどさ。」


「…分からん。」


「まあこれが話したかったことではないからね。

 本題に入ると、この星は第四位が10人程見張っている。


 第四位は呪いに答えたり、自然界のバランスを整える手助けをしたり…なにか異常があれば上司である第三位に報告するのが仕事。


 誰がどの仕事を担当するかは第四位の中で勝手に決めるんだけど、私の仕事は第四位の中で過度に世界に干渉しようとする神がいないか見張る役だった。


 第四位ってね、第三位が高級な粘土を何年もかけて整えて一から作るような、ある意味芸術作品だったり、あるいはお気に入りの人間か魔人を、本人の了承を得て神にすることが多いから、第三位の下で真面目に仕事をするっていうシステムが破綻しつつあるんだよね。」


「第三位のお気に入りの寄せ集めだから、かわいい第四位達がサボったり、何か問題を起こしても第三位が許しちまうってことか?」


「そうそう、そうなんだよ。

 だから、私が第四位が魔人と人間との間で戦争を影ながら煽動しているって伝えても、先延ばしにされるだけでね。彼らには自分から伝えるから、彼らの意思でやめるのを待ってほしい、それが『成長』だってね。

 そうしているうちに、邪魔に思われた私が彼らに封印されちゃったって訳。」


「第三位は何にも行動しないのか?あんたもお気に入りの一つだろ?」


「第三位は割と長生きだから、最近は娯楽に飽きないようにほとんど寝てるんだよね。だから、誰かが起こさない限り事態に気づかないだろうし、他の星を見ている神たちもそんな感じだから、まあ気が付かないだろうね。全く、困ったもんだ。」


 俺は今までの話を自分なりにまとめ直し、話に曖昧な点があるのに気が付いた。


「第一位は一人だけで、もう死んでいる。第二位のほとんどが後を追ったって言ってたが、ほとんどっていうことは、生き残りがいるのか?」


 ナナシは一瞬答えに困ったような顔をしたが、曖昧な情報だと前置きをしてから説明し始めた。


「…一人だけね。ただ、姿を見せることなんて無いから、第四位の間では『第三位が自分たちを脅すために用意している御伽噺の怪物だ』って噂が広まっている。」


「ナナシはどう思うんだ?」


「…いるよ。第二位の生き残りは、第一位と第二位を葬った死にぞこないだよ。私知ってるんだ、永遠とも言える時間の中で、気が狂ってしまったり、それか狂う前に殺してくれと申し出た神は、第三位の何人かに囲まれてどこかに連れていかれる。それからしばらくして、第三位達だけ帰ってくる。」


「じゃあ第三位が集団で処理した説もあるだろ?それか殺さずに閉じ込めているだけとか…」


「神同士の争いを防ぐために、神を死に至らしめるほどの魔法を使えるのは第二位と第一位だけなんだよ。

 だから、第三位が同類を殺すことは物理的に不可能だ。集団で魔法を放っても、魔法の格が上がるわけでは無い、複数人で高い声を出しても、音が大きくなるだけで音階が上がるわけではないのと同じだよ。

 閉じ込めているだけ説は…かわいそうすぎるから、あまり信じたくないね。


 まあ、だから第二位に会えるのは第三位の…さらに限られた範囲だから私が会って助けを求めることはできないよってこと。」

 

「ふーん…ていうか!今の話だと第四位のあんたじゃ第四位殺せないじゃないか!」


「あ、ギルは私が殺すと思ってたのか。そりゃそうか…今の話の通り殺せないから、降参!って言わせる程度だね…喧嘩した時点で上に怒られるのは確定だけど、封印すること自体禁忌だからね、正当防衛ってことで!」


「それでいいのかよ…」


 ナナシの話が全て本当ならば、ナナシはただの被害者だ。

 俺は本当にナナシを信じていいのだろうか。今の所、信じる以外の道は見当たらないが…


「焦る必要はないから、とにかく安全第一でね。」


 ナナシはそう言ってウインクすると、俺の頭を撫でた。


「安全に行動できるかは、あんたの能力と作戦にかかってるけどな。」


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