四話
階段を登って1年B組の教室に向かう。この校舎は三階建で、下から3年生、2年生、1年生の順番になっている。1年生の教室まで階段で上がるのはかなりしんどい。軽く息を切らしながら教室に入ると既に入学式の後のホームルームが始まっていたようだ。
「はい、あなたたちも席についてください。座席表は黒板に貼ってあります」
担任の先生は優しい感じの若い女性の先生だった。俺たち2人は遅れてすみませんと軽く頭を下げ、促されるままそれぞれの座席に着いた。
「みなさん入学式はお疲れ様でした。クラスの全員が揃ったところで自己紹介を始めたいと思います。」
そうして先生は黒板に自分の名前を書き始めた。確か、クラス表に書いてあった名前は山田鉄子。やはり黒板にも同じ名前が書かれてあった。俺が言うのもなんだがなかなか古風な名前だなと思っていると、続けてこう言った。
「みなさん初めまして、私がこのクラスの担任のやまだ アイアンメイデンです」
クラスのみんながこの瞬間の完全な意識外からの衝撃に呆然としていた。
「ちょっとーここ笑うとこですよー。私だって意味わかりませんし。名付けた親は絶対ぶっ殺すって決めてます。アイアンメイデンだけに?」
きっといろいろ名前について辛い目にあって、悩んだ末に編み出された至高の自己紹介だったのだろう。てつこなんてたろうと同じ古風な名前だと勝手に親近感を抱いた数秒前の俺を殴りたい。なぜ両親はこんな名前をつけたのか、なぜ役所はこんな名前を受理してしまったのか。俺はアイアンメイデンなんて名前をつけられた彼女の半生は一体どんな過酷なものだったろうと様々な背景を想像しながらも爆笑してしまった。どうやら他のみんなも同じらしい。凛なんて笑いすぎて涙が出てるくらいだ。先生もクラスのみんなが大爆笑でとても嬉しそうだ。この先生はいい先生だなと俺の中でそう確信した。
「はいはーい!じゃあ先生のことはメイ先生って呼んでもいいですかー?」
俺の前に座っていた男子生徒が手を上げてそう言った。私もー!俺も!などと他の生徒たちもそれに賛同する。
「あらとっても素敵。では私のことはメイ先生と呼んでください」
と、メイ先生は答えたのだった。