二話
登校中、遅れてきた自分が新しいクラスの中でどういう立ち回りをするべきかいろいろと考えを巡らせた。そういや中学の時はどうしてたっけなと考えると、うちの中学は基本的に同じ地区の2校の小学校の生徒がそのまま進学してくるので最初の友達づくりの工程はほとんど省略されていた。中学の頃の経験はあてにならない。そう考え始めると急に不安になってきた。この遅刻だってもしかしたら致命的なものかもしれない。新しい環境に身を置くことに対して楽観的に捉えすぎていたのかもしれない。こんな具合に登校中の俺の頭の中は後悔や不安で膨れ上がっていった。式には間に合わないにしろ少しでも早く登校しようと足早に改札を抜けホームに降りるとたまたま電車が止まっていたので脇目もふらず乗り込んだ。これなら途中からでも式に出られるだろうと一息ついて、電車内の電光掲示板を見上げる。そして、自分の過ちに気づいた。どうやら俺は学校の最寄駅とは逆方向の電車に乗ってしまったらしい。なんという失態。小さい頃からちょっと抜けてるお茶目な一面を覗かせていた自覚はあったがここまで落ちぶれたか田中太郎…!次の駅で乗り換えたとしても結局式には出れそうもない。自分の愚かさに怒りを通り越して呆れた俺はうなだれながら次の駅で降りて乗り換えの電車に乗った。下り方向で、通勤通学ラッシュのピークでもないため人はほとんど乗っていなかった。だが、妙なことに端の席にぽつんと1人だけ自分と同じ学校の制服を着た女の子が座っていた。一年生以外の生徒は午後から始まる始業式に出るため、まだ登校はしていないはず、そう考えるとこの子は俺と同じ一年生…。
「あのーもしかして同じ学校の子だよね?君も遅刻したの?」
見ず知らずの相手に話しかけるなんて普段だったら絶対しないが、出遅れた分早く学校内での人脈を構築したいという下心と、自分と同じように遅刻している彼女に対する親近感から思わず声をかけてしまった。いきなり話しかけられたからか少し驚いた表情を浮かべながら彼女が答える。
「あ、うん。見事に初日から遅刻しちゃってー、てか君もってことはあなたも?」
「そう俺も」
そんな具合に苦笑しながら改めて彼女に目をやる。するとなるほど、彼女は世間一般でいう美少女と称するに相応しい容姿をしていた。大きく見開いた少し切長の目に長いまつ毛、スッとした鼻筋にスラッとした長身で細身な体格、明るくてサラサラの長髪。中学の頃の同級生と比較するのは彼女たちに失礼であるとは思いつつもこんな女子は中学にはいなかった。要は入学して最初のエンカウントがかなりの美少女であったということである。姉はカウントしていない。その後、彼女と軽い自己紹介を済ませて、遅刻した経緯や他愛もないことについて会話をして、一緒に登校することになった。遅刻するなら1人よりも2人の方がなんとなく安心である。彼女の名前は神崎 凛。うちの最寄駅の二駅となりから来ていて、お互いが通っていた中学校のことを聞いたことがあるぐらいには近所に住んでいることがわかった。また、年の離れた弟がいるらしく、結構仲もいいらしい。弟が羨ましい。ちなみに今日遅刻した理由は、着て行く服で迷ったからだという。なんでも、中学の頃は私服だったようで高校では制服を着ることになっているのをわすれてしまったらしい。
「神崎さんってもしかしてアホの子なの?」
「凛でいいよ。そういう太郎だって反対方向の電車乗るとかやばくない?」
お互いのバカさ加減をからかううちに、電車は高校の最寄駅に到着した。