一話
不快なアラーム音で目が覚める。俺、田中太郎は今日から高校生だ。中学の頃から至って平凡な学生生活を送ってきた俺はこれから始まる高校生活に特別な期待や不安を抱くこともなく、昨日の夜深い眠りについた。いや深すぎた。
「これはやってしまいましたなあ」
入学初日に遅刻は完全にクラスで浮いてしまうだろうなと焦る気持ちで新品の制服に袖を通しながら、今から家を出ても式には到底間に合わないであろう時間であることに気づいた俺は遅刻よりもむしろ今日のところは休んで明日から頑張るという非常に残念な思考に至った。中学の頃から学校はよくサボっていた。別に学校に行くのが嫌だったわけではない。友達もそれなりに居たし、学校の行事なども積極的に楽しんでいた方だと思う。ただ、なんとなく毎日行くのはめんどくさいと感じていた。うちの両親は共働きでほとんど家におらず基本放任主義で育てられたので、勝手に学校を休んだりしても特に厳しく怒られたりはしなかった。そんな調子で今日も学校に電話をして欠席の旨を伝えようとした矢先、ノックもせず朝っぱらから部屋に怒鳴り込む不届きものが登場。
「入学初日ぐらいしっかり登校しなさい!」
この不届きもの、田中花子は俺の姉である。現在大学2年生で俺とは対照的に生真面目で口うるさい。中学の頃から俺に対して何かと正論を突きつけてくるので非常にうざい。正論なのが厄介だ。姉が大学生になるまではお互いほとんど口も利かないほど不仲な状態が続いていたが、最近は姉との関係も多少の雪解けを見せていた。しかしこの調子ではまだまだ先が思いやられる。
「花こそさっさと学校行けって」
「生憎ですけど私はまだ春休みですから」
「あっそ」
休みなのにこんな朝早くから起きて弟に説教を垂れる彼女の生態に苛立ちを覚えながら、俺は多少の身支度を整えて、半ば家から追い出されるようにして学校へ出発した。