コミカライズ配信開始記念ss 幹部たちのとある一日②
カリン、ミルテ、ルスランの三人は並んで街を歩いていた。
「こうして街をただ歩くっていうのもずいぶんと久しぶりだな」
「ですねぇ。イレーネ様が来る前はずっとバタバタしていてそれどころじゃなかったですし、イレーネ様がいらしてからは離れたくなんてなかったですしぃ」
「街もずいぶん様変わりしましたね。交流をもった国も増えましたし、知らない店もたくさんあるみたいです。何か気になるところはありますか?」
ずっと城でお勤めをしていた面々だ。
街を歩くことなど視察や防衛など、仕事の一環でしかなかった。
けれどこうしてみるといろいろなものが売っていて、歩くだけで楽しい気分になってくる。
「あれ。あそこはなんの店だ?」
ふとミルテが立ち止まる。
こじんまりとした建物の前にたくさんの女性たちが群がっていた。
近寄ってみるとどうやらリボンやヘッドドレスなど、アクセサリーなどを扱う店らしい。
けれどグレノスではあまり見られないデザインのものばかりで、変わった雰囲気のお店だ。
「へえ~。いろんな国の流行りものですって~。見てみます~? けっこう可愛らしいものがたくさんありますよ~」
「僕は専門外ですけど、見たいなら入りましょうか」
「やった~。じゃあほら。ミルテも早く~!」
オシャレに敏感なカリンは目を輝かせて走っていくけれど、ミルテは動揺したように動けないでいた。
「どうしたんです?」
「えっ、あ、いや……」
いつも即断即決のミルテにしては煮え切らない態度に首をかしげる。
「……ああ。もしかして周りの目を気にしてます?」
「!」
ミルテはバツが悪そうに目を反らすと、小さく頷いた。
「……だってわたしみたいな大女があんな可愛らしい店に入ったらおかしいと思われるだろう」
きゅっと腕を握ったミルテに、思わずルスランは笑ってしまった。
「なっ、笑うことないだろう!」
「ああいや、ちがうんですよ。おかしいと思って笑ったわけじゃなくて、そんなこと悩むんだなぁと思って」
「失礼だな。わたしだって悩む時くらいある。それにわたしは軍を統率する立場にある人間だ。威厳を保たないといけないだろう」
ふてくされたミルテにまた笑ってしまう。
「そんなこと気にしなくても大丈夫ですよ。だってこの国――グレノス公国は自由の国なんですから」
グレノス公国になる前、この場所にはドーラン王国という醜悪な国があった。
一部の王侯貴族だけが贅をむさぼり、国民は商品扱い。
自由などなく、好きなものも好きなこともできずただ怯えて暮らすのみ。
「そんな生活に異を唱えた人々が作り上げた国が我がグレノス公国。ですから誰が何を好きになってもいいし、どこにいたっていいんです」
自由を欲し、抗い、つかみ取った。
グレノス公国はそんな国だ。
誰よりも自由の尊さを知っている。
だからこそ国民同士、何かを好きになる自由を奪うようなことはしない。
「ミルテ、あなただってそうでしょう?」
ルスランは柔らかい笑みを浮かべてミルテを見つめた。
「あなたはドーラン王国伯爵家の娘として生まれた。けれど男であれと強制され続けた。そして長男が産まれれば用済みとして戦の最前線に出され、望まぬ戦いを強要された。だからこそ自由をなによりも欲していたはずです。そんなあなたが誰かの自由を奪うようなことをしますか?」
「……しないな」
「でしょう? だから大女だからとか、威厳がとかは気にしなくてもいいんです」
ルスランは当然とばかりに胸を張った。
「あたしもそう思います~」
声の方を向けばいつの間にかカリンが戻ってきており、プンスコと頬を膨らましていた。
「なかなか来ないから何しているかと思えば……ミルテは真面目過ぎるんですよね~。もっと力を抜けばいいのに~。それに見た目を気にするというのなら顔に大きな傷のあるあたしだって可愛いお店には相応しくないじゃないですか~」
「カリンは元が可愛らしいからいいだろう。それにその傷は国を守るために戦った証拠だ。もしも侮るものがいたらわたしが切り捨ててやる」
ミルテは険しい目つきで腰に指していた剣の柄を触った。
「それをいうのならミルテだって同じですよ~! ミルテの鍛え抜かれた体はグレノスを支えている証拠ですもの~。この国にはそれを理解していない人間はいないはずです~」
「そうですよ。もしもミルテのことを笑うものがいたとしたら僕も黙っていません。……まあいないと思いますけどね」
「ね~。だからどこにいようと大丈夫です~。……っていうことで、早く行きましょうよ~」
カリンは笑顔を浮かべミルテの手を引いた。
「……だが」
「まだ何か心配事が?」
「……その。あんなオシャレな店に入ったことなどないから少し緊張してしまって……。なにか買わないと失礼だろう? 似合うものがあるかどうか……」
恥ずかしそうにうつむいたミルテに、ルスランとカリンは顔を見合わせた。
「そう言うことなら一肌脱ぎますよ~。ルスランも手伝ってくれるでしょう~?」
「ええ、もちろん」
「え」
見上げた二人は何かを企んだようにニヤリと笑っていた。
その笑みはたいていろくでもないことを考えているときの笑みで、思わず逃げ腰になる。
けれどがっちり両腕を掴まれていて逃れることはできなかった。
「よ~し、決まり! さあさあ早く行きますよ~!」
「ちょ、押すなお前たち! ああ、もう!」
そうしてミルテはお店へと連れていかれたのだった。




