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2話 その聖女、祈りを捧ぐ



 やってきたのは城の屋上。

 国内を見渡せるそこは夜だというのに明るかった。


 国民が火をたいて魔物の侵攻を食い留めているのだ。


 火の音、剣戟けんげきの音、そして魔物の唸り声。


 外に出るとそのすべてが耳に届く。


 私は一つだけ深呼吸をする。


「始めます」


 私の後ろには陛下と執事さんが控えてくれている。

 祈っているときに何かあっても守れるようにとのことだ。


 本当にお優しい方々……。

 こんな方たちがなぜ野蛮だなんて言われているのかしら?


 それは分からないが、今は目の前のことに集中しよう。


 私は胸に宿った温かさをそのままに祈り始める。



 ――キイイイイン


 祈り始めてすぐに私を取り巻くように光が降り注ぐ。

 月の光だ。



『何を願う? 何を祈る?』


 しばらくすると私にだけ聞こえる声が頭の中に問いを投げかけてくる。


(私は……人の役に、たちたい)


『誰のだ?』


(それは……)


 私は考える間もなく暖かな笑みを向けてくれた陛下の顔を思い浮かべる。


 まだこの国にきて数時間しか経っていないけれど、私はすでにセイア王国よりもこの国が好きになっていた。



 初めて私に温かい笑みを向けてくれた。

 初めて私の話を聞いてくれた。私を、必要だと言ってくれた。


 それが私にとってはどれだけ嬉しかったことか。


 だから……。


(陛下の役に立ちたい……あの人が守りたいというこの国を守り、安心して眠れるように)


『……強き願い、しかと受け取った。かなえよう。我が愛しの聖女、イレーネよ』


 ――リィン、リィン


 鈴の音が反響はんきょうするように、国全体を銀色の薄い膜が覆っていく。


 ――リィン、リィン


「……でき、た?」


 今までの祈りとは明らかに違う手ごたえ。

 感覚的には今までの結界の倍は濃い結界を張れた気がする。



 剣戟の音が止んだ。

 しばらくするとバタバタと駆けあがってくる兵の足音が聞こえてくる。


伝令でんれいーー!! 伝令ーー!!!」

「何事だ!!」


 陛下が険しい顔で兵を見る。


「申し訳ありません! しかし至急ご報告を! 突如現れた銀色の膜に触れた魔物が消滅!! 膜はほかの兵によれば四方全てに現れ国をまるっと覆っているとのこと!」


 伝令兵の顔には嬉しさが現れていた。


「陛下。これはやはり……」

「ああ! 我らの目に狂いはなかった!!」


 陛下がつかつかと寄ってきて私を抱きすくめる。



「すごい! すごいぞ! イレーネ殿!! よくやってくれた!!」

「きゃっ!」


 抱き上げられくるくると回される。


 陛下は満面の笑みで、私まで嬉しくなってきた。

 思わず笑ってしまうと陛下も嬉しそうに微笑んだ。


「さすがだな! イレーネ殿! こうしてはおられない。急ぎ国内全域に中継を繋げ!」

「陛下、こちらにご用意ができておりますよ」


 いつの間にか執事さん(確かルスラン様と呼ばれていた)が大きな魔法陣を展開していた。

 魔法陣を見る限り、ルスラン様の見ているもの聞いていることを共有する魔法のようだ。


「流石はルスラン! では繋げてくれ」

「はい」


 ブウンと魔法陣が光る。

 魔法が起動したのだ。



『親愛なる公国の民よ。私はルドニーク・グレノス。魔物の侵攻に怯え、傷つき、血を流した者も少なくないだろう。だが、そんな時代も今日で終わりを告げた!!』


 陛下は厳かなオーラを放ち演説を始めた。

 見ているこちらが背筋を伸ばしたくなるような、そんな雰囲気だった。


『今! 諸君らの眼には美しき銀色の光を放つ膜が映っていることだろう! それこそ我が国に来てくれた夜の聖女の力!! 守護をつかさどる、夜の聖女の結界だ』


 陛下は突然私の手を取った。


「えっ!?」


 当然、私もルスラン様の視界に収まる。

 国民全員が見ている中、陛下は柔らかい眼差しを送ってきた。


「ここにいる夜の聖女、イレーネが発動した結界により、国を侵攻していた魔物の消滅も確認できた! もはや怯えて眠ることはない! 我らの夜はイレーネが守ってくれる! そして我らも彼女を守る! 我らの婚姻をもってこの国は生まれ変わるのだ!!」


 そう陛下が口にした瞬間、国中からわっという声が上がった。

 城にいた兵たちも手を上げ声を上げている。


 大公陛下万歳! 聖女様万歳!!

 イレーネ様!!

 聖女様!!


 そんな声がいくつも聞こえてくる。


「え、えっと……!」


 私はどうしたらよいのか分からなかった。

 だって、こんなにたくさんの人の視線にさらされたこともないし、まして喝采など受けたことなどあるはずもなかったのだ。


 すると陛下に肩を抱かれて引き寄せられる。


「イレーネ。愛おしき我が聖女よ。今改めて誓おう。私はこれからも君を大切にし、愛し続けると。だからどうかこれからも私と共にあってくれ」


 まるでいつか見た童話の中のお話のようなプロポーズであった。


 本当は私と陛下じゃ釣り合わないというのは分かっている。

 この婚約が仮初かりそめだということも。


 でも。……それでも。

 陛下は、この国は私にたくさんのものを与えてくれた。


 それだけで十分に幸せよ。



 胸が温かい。

 その熱を胸に抱いたまま私は微笑んだ。


「……はい。お供させていただきます……!」




 この時初めて私は自分の居場所を手に入れたような気がした。




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大公自体が尊称なのでは?
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