第99話 神々への命令権
「神々への命令権……?」
シエリが眉をひそめる。
「そうだ。俺は神に命じることで信仰魔法を発動している」
「あっ!」
ウィスリーが何かを思い出したように声を上げた。
「そーいえば、ご主人さまがあちしの呪いを解くとき言ってた! 『神々に命じる』って!」
「それ、本当なの? 不敬なんてレベルじゃないじゃない!」
「シエリ。落ち着いてくれ。俺は神々を軽んじているつもりはないんだ」
「……続きを聞かせて」
厳しい視線を送ってくるシエリに頷き返してから話を続けた。
「俺が賢者として信仰魔法を使えるのは周知のとおりだ。だが、俺は神官ではない。神に仕える身ではないので、神官のように加護を授かることはできない。ここまではいいか?」
ふたりが頷く。
ウィスリーだけよくわかってなさそうな顔をしているから、信仰魔法について後で授業をしないとな。
「他の賢者がどうかは知らん。だが、俺は賢者になる前から信仰魔法を何故か使えて、詠唱を唱える際には神々に命令をくだしていた。それを当たり前のものだと思っていたんだ」
「どうして、そんなことになったの?」
シエリの問いかけに俺は首を横に振る。
「理由はわからない。だが、俺の頭の中には『神々が俺の意思に応えるのは普通』だという認識があった。それだけは間違いない。師匠に信仰魔法の詠唱を禁じられた後も俺はかなり長い間、納得できなかった。神は俺に従う者だという認識を変えられなかった。その危うさが理解できたのは人々の世界に触れるようになってからだ」
神々は人々の拠り所であると同時に恵みを与えている。
崇拝されているし、信仰魔法という形で奇跡を起こしているし、今では俺の詠唱が天に唾吐く行為であることも自覚している。
「つまり、今回は部屋を開けるよう愛の神ヤッターレに命じたってこと?」
詰問するような口調のシエリに首肯する。
「そうだ。正確には空間封鎖を解く魔法を創り、ヤッターレ神に命じる詠唱を用いた。以上が真相だが……納得してもらえたか?」
シエリが難しい顔をしている。
それだけ地上で暮らす人々にとって神々は貶めてはならない大切な存在なのだ。
俺を高く評価しているからこそ受け入れがたいのかもしれない。
「ご主人さまは神様より偉いの?」
逆にウィスリーは事態の深刻さがまったくわかってなさそうだった。
神々についても漠然としかわかってないのかもしれない。
「それはないわ」
俺が答える前にシエリが断言した。
「神々より上位の存在なんて創世主しかいないもの」
「『そーせーしゅ?』」
「ウィスリーは知らないの? 大地、海、空。それに神々を最初にお創りになった方よ。神話でも最初にしか登場しないから神様みたいに信仰されてなくて、一種の概念みたいなものだけど」
ウィスリーが俺に向かって「そうなの?」と言いたげに首を傾げてくる。
「シエリの言うとおりだ。だから、俺には何らかの理由で神々への命令代行権を委ねられていると解釈している」
ここで俺はふたりに頭を下げた。
「改めて頼む。無用な混乱や反感を生まないためにも口外しないと約束してほしい」
「ご主人さま、お願いだから頭上げて! あちし、言いたくなってないから! 絶対言わないよ!」
「言えないわよ、こんなこと。死んでも言えないわ」
ウィスリーは大慌てで、シエリは複雑そうな顔のまま約束してくれた。
「ありがとう」
こんな真実を前に責めないでくれたふたりには感謝の念しかない。
「その代わりってわけじゃないけど、いくつか質問いいかしら?」
シエリが挙手した。
「かまわない」
「この話、他に誰が知ってるの?」
「俺の師匠たちたけだ。彼らはマレビトだから、この世界の人間で知っているのは君たちふたりだけということになる」
「なんで話してくれたの? 別にフワルルと寝たことにすればいいだけじゃない。アンタ、他人からどう思われるかなんて大して気にもしないのに」
「そんなことはない。俺にとって君たちはどうでもいい存在などではない。かけがえのない、大切な仲間だ。だから真実を知っていてほしかったし、信じてほしかった」
シエリの目が点になる。
「迷惑だったか?」
「そんなことないよ!」
ウィスリーはとっても嬉しそうに目を輝かせていた。
やはりウィスリーのトラウマは俺の場合だと呼び起こされないらしい。
「ハァ。要するに一蓮托生ってことよね」
シエリが観念したように笑みを浮かべた。
「こんな秘密を握った以上、一生逃さないんだから。覚悟しておきなさい」
「……そうだな」
一生逃さない、か。
フワルルにもいろいろ言われたし……。
俺もそろそろ覚悟を決めないといけないのかもな。
「俺からも聞きたいことがある」
「もちろんいいよ!」
「何かしら? この際だからなんでも答えるわよ!」
ふたりの言葉が心強い。
思いっきり甘えさせてもらおう。
「俺がハーレムを築くことについてどう思う?」




